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2019年04月10日

入院部屋は男女どちら? 同性パートナーの手術同意、注意点は?|LGBTと看護のキホン(2)

LGBTの患者さんが医療にかかるとき、どんな場面のどんなことに困っているのか、看護師として対応のポイントを考える第2回です(第1回)。

 

今回も、トランスジェンダー当事者で現役の看護師、浅沼智也さんと、具体的なシーンを例に見ていきます。

 

浅沼さんの写真

浅沼智也さんは1989年生まれ、トランスジェンダー男性(FtM)の現役看護師。「カラフル@はーと(@LGBTCatH)」共同代表

 

 

 

 

入院するときの病室は、男性・女性どちらの部屋に?

女性らしい体つきの患者が男性部屋を希望している様子のイラスト

 

トランスジェンダーの患者さんが入院してこられました。

外見は女性に近いのですが、本人は男性と自認していらっしゃいます(トランスジェンダー男性)。この場合は女性部屋と男性部屋、どちらにしたら…?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

結論から言うと、患者さんが何を望んでいるかを聞くことが第一です

 

「この人はトランスジェンダーだから」と医療者側が勝手に判断したり、決めつけたりするのはNG。まずは希望を聞き、そのうえで、病院としてどこまで叶えられるか、何ができないかを検討します。

 

気をつけたいのは、患者さんの外見が自認する性別にどれだけ近いか(パス度)です。

 

本人が男性部屋を望み、見た目も男性に近づいている(パス度が高い)場合、その希望を叶えることはそう難しくないのではと思います。

 

しかし、見た目は女性だけれど「男性部屋に入りたい」と主張された場合はどうでしょうか?

 

そのまま希望を叶えれば、ほかの患者さんから「なぜ男性部屋に女性が?」と聞かれ、本人が望まないカミングアウトやアウティングにつながるリスクが生じます。また、もし万が一、患者間で性暴力が起きてしまったら、病院の責任問題にもつながりかねません。

 

それなら個室にすればいいかと言うと、今度は、個室ベッド代の差額を誰が負担するのかという問題が生じます。

 

僕の知人で、特段の説明がないまま個室に入ることが決まり、退院する時になって多額の個室代を請求されて困った…というケースもありました。

 

本人の希望は尊重すべきですが、それによって、かえって傷つく可能性もあります。

 

医療者側は慎重に判断し、その判断を患者さん本人に納得してもらう必要があると思います。互いにすり合わせても納得できないとなれば、他院に移ってもらうしかないケースもあるかもしれません。

 

 

病室前やベッドに戸籍上のフルネームが掲示されてしまって…

病室前の名札に明らかに女性とわかる戸籍上の名前を書かれ、つらそうなトランス男性の患者のイラスト

 

トランスジェンダーの入院患者さん。

見た目は男性ですが、戸籍上のお名前は明らかに女性の名前です。医療安全の面からは、戸籍と同じ氏名で本人確認をするべきですが…?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これも戸籍変更している場合は問題ありませんが、そうじゃない場合にどうするか、ですね。

 

原則から言えば、やはり医療安全のためには、患者さんの取り違えがないように戸籍名での確認が必要だと思います。

 

ですが、病室前のお名前やベッドネームは、個人情報保護の観点から伏せるケースも少なくないはず

 

LGBTとは関係なく、「キーパーソン以外の親族の面会を拒否したい」などの事情がある患者さんに、仮名で対応された経験がある看護師もいるのではないでしょうか。それと同じように、仮名や名字のみで対応できるでしょう。

 

ただし、リストバンドは本人確認を行う上で重要なので、これを仮名にすることはできないと思います。

 

たとえば、付ける位置を手首ではなく、他人から見えにくい足首にする、袖で隠れるようにするといった工夫を検討してみてはどうでしょう?

 

入院する部屋と同様、本人の希望を聞いて、どんなことならどこまで寄り添えるか、きちんと話し合うことだと思います。

 

選択肢が少ないと、患者さんは「病院におまかせします」となりがちなので、いろんな選択肢を提示してあげられるといいですよね。

 

 

トイレや入浴…入院生活の「男女で分かれる場面」にストレス

入院中のトイレやお風呂を思い浮かべて悩んでいるトランス女性の患者のイラスト

 

トイレや入浴の時間帯など、うちの病院は男女別になっています。

トランスジェンダーの患者さんは、こうした入院生活の一つ一つの場面に困っているのでしょうか?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

そうですね、困っていると思います。

 

最もシンプルな方法は、誰でも利用しやすい環境をつくることだと思うんです。

 

たとえば、僕が現在勤務する病院では、トイレは40床の病棟に個室が5つと車いす用トイレが1つ、男女の区別なく、どこでも使っていいようになっています。

 

女性の患者さんから「男性と共用は嫌だ」と苦情が来たことはありますが、詳しく聞くと「男性は使い方が汚いから」という理由だったので、清掃を徹底することで解決しました。

 

「なんとなく嫌だ」では手が打てませんが、明確な理由がわかれば、その問題を具体的にクリアすればいいと思います。

 

入浴も「月曜日は男性、火曜日は女性」といった分け方ではなく、「月曜日が△△号室、火曜日が▲▲号室」と病室で振り分けています。そうすれば、トランスジェンダーの患者さんが「自分は、どちらの入浴日なのか」と抵抗を感じることは少ないですよね。

 

入浴に関しては、もう一つ、介助スタッフをどうしたらいいかという視点もありますね

 

トランスジェンダーの当事者は、身体を見られること(戸籍上の性別の身体的特徴を見られること)に強い嫌悪感があったりします。同性愛者の患者さんでも「恋愛対象の性別とは違うスタッフの介助がいい」という人、「身体の性別と同じスタッフのほうがいい」という人、それぞれです。

 

そもそもLGBTに限らず、男性ではなく女性看護師の介助を望む女性患者さんや、傷跡を他人に見られたくないという患者さん、いろんな方がいますよね。

 

そんなときの対応と同じで、この患者さんはどこまでの介助が必要か、スタッフは男女どちらがいいか、本人の希望を聞いて、必要ならバスタオルで身体を隠すといった、いつも通りの配慮をすればいいと思います。

 

 

病状説明の場に同性パートナーにも同席してほしいのに…

患者の女性カップルを前に首を横にふる医師と看護師のイラスト

 

これからの治療方針を決めるに当たって、患者さんが、同性のパートナーさんも一緒に病状の説明を聞かせてほしいと望んでいます。

遠方には肉親もいらっしゃるようですが、法的な家族ではないパートナーさんに同席してもらっても大丈夫でしょうか?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

同性パートナーが、病状や治療方針の説明への同席が認められない、本人の意識がない場合に入院・手術の同意書にサインできないといった相談は少なくありません。

 

僕も以前、救命の現場で働いていたとき、そんな場面を経験しました

 

緊急搬送されてきた男性患者さんに、男性が一人付き添われてきたんです。患者さんには意識がなく、手術の同意が必要だったんですが、病院側は「家族にしてください」と。結局、遠方にいる疎遠な家族がキーパーソンになってしまって…。

 

彼らが同性愛者だったのか、カミングアウトされたわけではないので、正確には分かりません。ただ、毎日のように面会に来て身の回りの世話をされていたのは、その付き添いの男性でした。

 

さて、まず押さえておきたいのは、キーパーソンが血縁の家族、法的な家族でなくてはならないといった縛りはないということ。

 

2018年3月に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でも、「親しい友人」を含んだ広い範囲の人が「家族等」として代理意思決定者になれることが示されています。

 

患者さん本人が望んでいるのであれば、その意思、希望を尊重すべきですよね。

 

ただ、病院が「法的な家族に限定する」という場合、後から訴えられるなどのトラブルを恐れてのことかもしれません。そのリスクは考慮されるべきことだと思います。特に、本人の意思が確認できないケースで安易に判断できないのも、現状では仕方ないことかもしれません。

 

その点、LGBT当事者の側もいざというとき、「パートナーが代理意思決定者である」と示せるような準備が必要じゃないかと、僕は考えています。

 

その一つが、公正証書ですが、これは個人が司法書士に作成を依頼するので、10万~40万円ほども費用がかかってしまうんです……。

 

最近は、同性カップルや内縁の夫婦を対象に「パートナーシップ証明書」を発行する自治体が増えてきていますよね。法的な効力はありませんが、公的な証明書は、医療の場面でも必ず役立ちます。こうした取り組みが全国の自治体に広がること、さらに本来であれば、同性婚が認められることを望んでいます。

 

一方、医療機関の側も、家族のあり方の多様性を柔軟に受け止めてほしいです

 

たとえば横須賀市では、市立病院や救急医療センターでの病状説明や手術の同意などについて、同性パートナーを親族などと同じように扱うことをホームページで明文化しています。

 

 

横須賀市のホームページの画像

こんなふうに、管理者が病院としての対応方針をきちんと確認・周知しておけば、現場はその都度どうしようかと判断に迷わずに済みますね。

 

 

同性パートナーの存在を、勝手に家族にバラされた!

看護師の言葉に青ざめるゲイの患者と同性パートナー、驚いている母親のイラスト

 

ゲイであることを私たち看護師にカミングアウトしてくださった患者さん。パートナーさんは毎日のように面会に来られて、患者さんを支えようと一生懸命です。

先日、ご実家の親御さんも面会にいらしていたので「恋人さんが、すごく頑張ってくれてるんですよ」と伝えたんですが…。

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これはアウティング(本人の同意なく、セクシュアリティを言いふらすこと)に当たってしまいます。

 

実はこれ、実際にあったケースなんです…!

 

ご本人たちは、ゲイであることを家族には明かしていなくて、友人と紹介していたんですが、看護師の一言で大変なことになったそうです。

 

看護師は、アナムネを取るときに本人からセクシュアリティについて聞いたものの、親は知っているのか、医療スタッフはどこまで共有していいかなどの確認はしませんでした

 

自分にカミングアウトされたことで、なんとなく「オープンにしているんだな」と受け取ってしまったのかもしれませんね。

 

アウティングは当事者と、その人間関係を傷つけます。訴訟トラブルにつながることもあり得ますから、プライバシーの保護には十分な注意をしてほしいと思います。

 

「でも、面会者はともかく、医療スタッフ間では患者情報を共有すべきでは?」とモヤモヤするかもしれません。

 

もちろん、患者さんをケアするために業務として知っておく必要があるスタッフ同士で共有するのは必要なこと。共有する範囲を患者さん本人とも確認しておくのがいいと思います。

 

ただ、それ以外のスタッフに漏らすことがNGなのは当然ですよね。

 

さらに、情報を共有するスタッフ間のやりとりが差別や偏見、嘲笑の混じった言い方になっていないかも気をつけていただきたい点です。たとえ、患者さんに聞かれていない場所で話していたとしても、スタッフの中にLGBT当事者がいるかもしれませんから。

 

(第3回はこちら

 

浅沼さんの写真

 

浅沼智也さん
1989年生まれ。トランスジェンダー男性(FtM)。高校卒業後、短大(看護専攻)に進学。新卒で入職した急性期病院では周囲の無理解にさらされ、うつ病を発症し、退職。23歳で性別適合手術を受け、戸籍も男性に変更。現在は東京都内の病院に勤務している。
精神障害・発達障害・依存症の問題を抱えるLGBT当事者の自助グループ「カラフル@はーと(@LGBTCatH)」の共同代表。自殺未遂やうつ病を経験した自身の体験から、ダブルマイノリティ、トリプルマイノリティへの理解を広げる活動を展開している。著書『虹色ジャーニー 女と男と、時々ハーフ』(文芸社)。

 

取材・文・写真/看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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目の前の患者さんはLGBTかもしれない 看護師が知っておくべきLGBT

同性のパートナーには患者さんの病状が話せない?医療現場でのLGBTの権利を考える

 

(参考)

「LGBT調査2018」(電通ダイバーシティ・ラボ)

LGBTと医療福祉<改訂版>(QWRC)

学校・病院で必ず役立つLGBTサポートブック(はたさちこ/藤井ひろみ/桂木祥子編、保育社、2016)

看護教育 2018年4~2019年3月号連載「NとEとLGBTQ」(浅沼智也、医学書院)

介護や医療、福祉関係者のための高齢期の性的マイノリティ理解と支援 ハンドブック(特定非営利活動法人パープル・ハンズ)

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