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2019年04月09日

LGBTの患者さんは何に困っているのか|LGBTと看護のキホン(1)

もしLGBTの患者さんが来院したら、どんなことに気をつけたらいいか――。

看護師のみなさんは、すぐに思い浮かぶでしょうか?

 

「LGBT」の言葉の認知度とともに、LGBT当事者たちが医療の現場でどんな困難に直面しているのかについても関心が高まっています。

 

具体的な12のシーンを例に、トランスジェンダーの当事者で現役の看護師・浅沼智也さんと考えてみます。

 

浅沼智也さんの写真

浅沼智也さん
1989年生まれ。トランスジェンダー男性(FtM)。高校卒業後、短大(看護専攻)に進学。新卒で入職した急性期病院では周囲の無理解にさらされ、うつ病を発症し、退職。23歳で性別適合手術を受け、戸籍も男性に変更。現在は東京都内の病院に勤務している。
精神障害・発達障害・依存症の問題を抱えるLGBT当事者の自助グループ「カラフル@はーと(@LGBTCatH)」の共同代表。自殺未遂やうつ病を経験した自身の体験から、ダブルマイノリティ、トリプルマイノリティへの理解を広げる活動を展開している。著書『虹色ジャーニー 女と男と、時々ハーフ』(文芸社)。

 

 

 

 

LGBT対応は「個別性のある看護」のひとつ

具体例に入る前に、そもそも、なぜLGBTの当事者に対する配慮が必要なのか。浅沼さんは、次のように話します。

 

「LGBT、特にトランスジェンダーは、医療者の無理解を恐れて受診をためらいがちです。具合が悪くても我慢を続けてしまい、重症化するケースは少なくありません」

 

同性のパートナーが家族として認められず、看取りの場に立ち会えなかったといったケースも指摘されています。

 

レインボーカラーのリストバンドを着けた浅沼さんの手元の写真

多様性を表すレインボーカラーはLGBTの象徴

 

「どんな人でも安心して医療を受けられるために、看護師をはじめとする医療者の側が、LGBTの当事者たちのニーズを理解しておくのは、とても大切なことです。

 

もしかしたら『看護師だって忙しいのに、LGBTの人だけを、そんなに特別扱いしてあげなくちゃいけないの?』と思う方もいるかもしれません。

 

でも、患者さん一人ひとりの背景を理解して、それぞれの個別性を尊重したケアを提供するのは、僕たち看護師の基本とするところのはず。LGBT当事者は特別扱いしてほしいわけじゃなくて、安心して医療を受けたいだけなんです」

 

具体的にどんなニーズがあるのか、医療現場でよくあるシーンを見ていきましょう。

 

 

保険証の名前や性別が見た目と違うから、どう対応されるか不安で怖い

医療機関の受付で、保険証を手に困った様子の患者と看護師のイラスト

 

外来を受診した初診の患者さん。

外見は女性のようですが、保険証には男性の名前。性別も「男」と記載されていました。間違いがあっては大変なので、本人確認を徹底したいけれど…?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これは、トランスジェンダーの当事者が直面する場面ですね。

 

「男性か、女性か」が問われる場面=自認する性別と違う性別を強く意識させられる場面、それ自体がトランスジェンダー当事者にとっては精神的な苦痛です。

 

加えて、「別人の保険証だと疑われるんじゃないか」「周りから好奇の目で見られるんじゃないか」ということも、当事者はとても恐れています。

 

こうした心理的なハードルが、トランスジェンダー当事者たちの足を医療から遠のかせ、症状を悪化させてしまいます

 

まずは、医療者が「患者さんの中にはトランスジェンダーの方もいる」という認識を頭に入れておくことが第一歩だと思います。

 

 

LGBTとはの解説表、L(レズビアン)性自認が女性で性的指向が女性に向く、G(ゲイ)性自認が男性で性的指向が男性に向く、B(バイセクシュアル)性的指向が男女どちらにも向く、T(トランスジェンダー)生まれ持った性と性自認が一致しない

調査によってバラツキはあるが、日本のLGBTは人口のおよそ8%(13人に1人)と言われる

 

 

「トランスジェンダーの方かもしれない」と医療者がパッと思い至ることができれば、不用意に傷つけるような言動に注意できますし、ほかの患者さんがいる前で、具合の悪い本人にセクシュアリティを説明させるといったことも回避できるのでは、と思います。

 

それともう一つ。

「健康保険証には、通称名を表記してもかまわない」ということはご存知でしょうか?

 

実は、2017年に厚生労働省から通知が出ているんです。

 

たとえば、保険証の表面には本人の自認する性別の名前を記載して、戸籍上の名前は裏面に併記する方法でもOKになりました(※各保険者の判断による)

 

ただし、これは性同一性障害(GID)と診断された方限定です。トランスジェンダーであっても、GIDの診断を受けていない人は対象外になります。「性別は、戸籍上のものを記載すること」というルールも変わりません。

 

ただ、札幌市などのように、性別欄は「裏面参照」として、裏に戸籍上の氏名と性別を記載するという工夫をしている例もあります。

 

 

札幌市の国民健康保険証の記載例の写真

表面に通称名、性別は「裏面参照」とし、裏面に戸籍上の氏名・性別を記載する表記方法(見本画像は札幌市提供)

 

 

こういう保険証の記載の仕方がある、と医療者側が知らなければ、「え? これ、どういうことですか?」と、結局は受付で説明させてしまいますよね。「裏面を見てください」「あ、はい。わかりました」でスッと済むように、医療者側も知識を持っておきたいところです。

 

 

問診票などの性別欄「男性/女性」に抵抗感が…

問診票の性別欄の記入に悩んでいる様子の患者のイラスト

 

トランスジェンダーの患者さんは、問診票の性別欄に困っているのでは…。「男性/女性」の選択肢だけでなく、なにか特別な項目を設けるべき?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これも問題になるのは、トランスジェンダーの患者さんですね。

 

医療安全の立場から言えば、戸籍上の性別を記入してもらうのが本来ですよね。

 

けれども、トランスジェンダー当事者たちは、

問診票に戸籍上の性別を書くべきか、問診票には自認する性別・見た目に近い性別を書いておいて、診察の段階で医師に説明したほうがいいのか、本当に本当に迷います。

 

「自分は男性だ」と思っているのに、女性の欄に丸を付けるのは、やっぱり苦痛なんです。

 

そもそも、戸籍上の性別は保険証で確認できるので、問診票は、必ずしも戸籍上の性別を記載する必要はないかもしれません。

 

どうしても必要なら、たとえば、性別欄を「男/女/その他」などにして、本人がちょっと記載できる余白を設ける、といった方法ではどうでしょうか。

 

ただ、この際に注意してほしいことが…。

 

実際にあった例なんですが、ある医療機関が多様性に配慮しようとして「男/女/LGBT」という性別欄にしたそうなんです。これは残念な表記になってしまいました。

 

性別欄が問題になるのは、基本的にトランスジェンダーです。たとえば、戸籍上も性自認も女性のL(レズビアン)の人は、LGBTでひとくくりにされた選択肢に、かえって困ってしまいます。XジェンダーやQ(クエスチョニング)の方もいるので、やっぱり「その他」あたりが無難じゃないかなと思います。

 

 

LGBTだけじゃない多様な性の解説表、Q(クエスチョニング、クエスチョナー)自分の性別や性的指向がはっきり定まっていない・積極的に定めない、LGBTQということもある、A(アセクシュアル)他者への性的欲求を持たない・とても弱い、X(エックスジェンダー)男性女性のどちらでもない、またはどちらでもあるなどと感じている、クエスチョニングに似た和製英語

性のあり方は本当に多様。「LGBTだから、こう望むはず」という思い込みのケアにならないように注意したい

 

 

待合室で、ほかの患者さんの目がつらい…

医療機関の待合室で、見た目が女性なのに男性らしい名前を呼ばれて、つらそうな患者のイラスト

 

周囲の目に、とても神経を使っているトランスジェンダーの患者さん。

ほかの患者さんもいる待合室については、どんなところに気を配ったらいいのでしょうか?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これもトランスジェンダーの当事者にかかわることですね。

 

まず一つは、患者さんの呼び方の問題があるかと思います

 

明らかに男性っぽい名前で呼ばれた人が、女性にしか見えなかったら、周囲の患者さんも「え?」と目を向けたりしますよね。

 

外見が本人の自認する性に近づくと、戸籍上の名前をフルネームで呼ばれたときに違和感が生じることがあります。

 

当事者はこうした視線を向けられることをとても恐れています。残念ながら、現状では差別や偏見の目がないとは言えませんし、そうでなくても他者の視線はストレスですよね。

 

対応としては、受付時に番号札を渡して「1番の方どうぞ」「1番、浅沼さん」と、番号や名字だけで呼ぶ方法がいいと思います。システムとしても導入しやすいですし、フルネームでの本人確認は、診察室内で行えば十分ですよね。

 

もう一つは、待合室そのものの工夫です

 

特に、婦人科や泌尿器科ではシス女性・シス男性(性自認と身体の性が一致する人)の患者さんしか想定されていないことがほとんどでしょう。ですが、実際には、多様なグラデーションの患者さんがいます

 

トランス男性でも、婦人科系の疾患や子宮頸がん検診・乳がん検診で受診しなくてはいけない場合はあります。ホルモン療法のために婦人科にかかることも多いです。

 

婦人科や泌尿器科の待合室にトランスジェンダーの当事者はいづらいですし、周りの患者さんも気にされるかもしれません。

 

改築となると、スペースや予算の問題が伴うので難しいかもしれませんが、たとえば、観葉植物やパーテーションを置いて「ちょっとだけ人目につきにくい場所」を用意するだけでも違うと思います。使っていない処置室があれば、そこで待ってもらうのもいいかもしれません。

 

こうした配慮は「トランスジェンダー当事者だけを特別扱いしている!」と批判されがちですが、若い女性で婦人科に行きにくいという方、受診していることを誰かに見られたくない方なども普通にいらっしゃいますから、いろんな立場の患者さんへの配慮になると思います。

 

 

「ご結婚は?」「彼氏はいる?」と聞かれると言葉につまってしまって…

「奥さんはいますか」などと聞かれて困っているゲイの患者のイラスト

 

患者さんのキーパーソンは誰かを知るうえで、ご家族・配偶者について尋ねるのは看護師にとって重要な情報収集ですよね。でも、LGBTの患者さんは、こういう質問をしてほしくないのでしょうか…?

 

 

「こんなところが大切」と話す浅沼さんのアイコン写真

 

これは、LGBT全般にかかわるポイントですね。

 

異性愛者やシスジェンダー(身体の性と性自認が一致する人)を前提にした質問は、LGBT当事者はなかなか答えにくいものです。

 

上にもある通り、キーパーソンや患者さんの背景に関する情報収集は、看護の肝となる大切なことですよね。

 

だからこそ、誰にも答えやすい、男女の性別を限定しない言葉を選んだ尋ね方にする必要があると思います。

 

たとえば「パートナーさん」などと言い換えたり、「入院の際、主に協力してくれる方は誰ですか」という広い質問にしたりできますね。

 

LGBT当事者が受診や入院にあたって、必ずしも医療者にカミングアウトするわけではありません。「この人はLGBT当事者だから気をつける」ではなく、性自認・性的指向を限定しないアセスメントは常に意識しておきたい点です。

 

ちなみに、トランスジェンダーと性的指向は別の問題なので、トランス男性だからといって、恋愛対象が女性とは限りません。

 

これは意外と見落とされがちなんですけど、トランス男性で男性が好き(ゲイ)という人も、バイセクシャルという人もいろいろです。「心が男性の人だから、パートナーは『彼女』と呼べばOK」ではないし逆もしかり、ということですね。

 

それに、同性愛カップルに限らず、事実婚や養子など、いろんな形の「家族」があり得ますよね。「男性/女性」「既婚/未婚」の二択で尋ねるよりも、もっと幅広い家族の形を想定した情報収集が、これからますます大切になってくるのかなと思っています。

 

 

***

 

紹介した対応はあくまでも一例ですが、どんなところがポイントになるか、参考にしてもらえればと思います。

 

次回も引き続き、LGBTの患者さんが困り、看護師が対応に迷うシーンを取り上げます。

 

(第2回はこちら、第3回はこちら

 

取材・文・写真/看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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目の前の患者さんはLGBTかもしれない 看護師が知っておくべきLGBT

同性のパートナーには患者さんの病状が話せない?医療現場でのLGBTの権利を考える

 

(参考)

「LGBT調査2018」(電通ダイバーシティ・ラボ)

LGBTと医療福祉<改訂版>(QWRC)

学校・病院で必ず役立つLGBTサポートブック(はたさちこ/藤井ひろみ/桂木祥子編、保育社、2016)

看護教育 2018年4~2019年3月号連載「NとEとLGBTQ」(浅沼智也、医学書院)

介護や医療、福祉関係者のための高齢期の性的マイノリティ理解と支援 ハンドブック(特定非営利活動法人パープル・ハンズ)

この連載

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