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2018年12月31日

「基本3点セット」でせん妄をコントロール|睡眠マネジメントで術後せん妄を防ぐ静岡がんセンター

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

増谷彩=日経メディカル

 

術後のせん妄リスクが特に高い食道癌や頭頸部癌の患者。静岡がんセンター食道外科・頭頸部外科では、新規睡眠薬や抗うつ薬、抗精神病薬を用いた睡眠マネジメントを行って術後せん妄の発症や重症化を防いでいる。

 

外科としては使い慣れない薬剤も、精神腫瘍科の協力を得て処方感覚をつかみ、今では外科医自身が術後せん妄の予防と対策を行っている。

 


 

長期間の過量喫煙、多量飲酒歴を持つ高齢者というのが、食道癌や頭頸部癌の典型的な患者像だ。

 

高齢になると、不眠を訴えて睡眠薬が処方されていることが多いため、医薬品誘発性せん妄や、アルコールなどの物質離脱せん妄につながりやすい。食道癌や下咽頭癌の手術の中でも、声帯切除を伴う咽頭喉頭食道摘出術は、せん妄のリスクが高い。

 

食道外科や頭頸部外科の患者は、このような複数のせん妄リスク因子を持つため、術後に入室したICUでせん妄が問題になることが多い。

 

静岡がんセンター食道外科部長の坪佐恭宏氏は、「アルコールや睡眠薬が、せん妄のリスクになるという認識はあったが、特に睡眠薬はなかなか中断できないと以前は考えていた」と振り返る。

 

しかし、ある時期に偶然、チューブドレーンの自己抜去などを伴う過活動せん妄が何例も重なったことから、本格的にせん妄の予防と発生後の対策に乗り出すこととなった。

 

特に坪佐氏は、「せん妄は予防が第一。起こってから対策しても効かないこともあるため、予防に力を入れてきた」と話す。

 

 

アルコールとベンゾ系・非ベンゾ系薬剤を漸減

そこで同センターの精神腫瘍科とともに始めたのが、睡眠マネジメントを中心とする、せん妄予防への取り組みだ。2015年3月には、現在も行っているせん妄予防策が確立した。

 

 

成人患者のせん妄を評価するアセスメントツールであるICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist、4点以上でせん妄と判断)で見たところ、実施前の2012年1月から2013年10月までは同センターで咽頭喉頭食道摘出術を受けた26例中9例(34.6%)が術後せん妄を発症した。

 

一方、2015年3月以降は、咽頭喉頭食道摘出術を受けた13例でせん妄を認めた例はない。

 

具体的には、まず手術前の外来通院の時点で、せん妄を起こすリスクのある薬剤を、中断を目指して漸減させる。

 

せん妄予防のために中断する薬剤の筆頭は、エチゾラム(商品名デパス他)やトリアゾラム(ハルシオン他)などのベンゾジアゼピン系睡眠薬と、ゾルピデム(マイスリー他)やゾピクロン(アモバン他)などの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬だ。

 

2013年11月、まずは従来使用していたベンゾジアゼピン系睡眠薬の処方を中止し、ラメルテオン(ロゼレム)への切り替えを開始。その後、スボレキサント(ベルソムラ)発売に伴いラメルテオンにスボレキサントを追加した。

 

さらに不眠時は頓用として、鎮静系抗うつ薬であるミアンセリン(テトラミド)を使用するという「基本3点セット」を導入する睡眠マネジメントを実践した(症例1)。

 

坪佐氏は、開始当初はラメルテオンやスボレキサントが本当に効くのか、使い慣れていないミアンセリンもかなりの量を使うが大丈夫か、と心配したというが、「基本3点セットを使った患者を診療しているうちに、問題ないことが分かった」と話す。

 

また、患者には手術前に禁酒期間を設けるよう指導する。手術前にはアルコールもリスクとなる薬剤も飲んでいない状態にするのが理想だ。

 

ただし、手術までの期間や依存度も患者によって様々であり、本当に禁酒しているかを確実に確かめる術もない。

 

坪佐氏は、「外来時点で、医師がお仕着せではなく、せん妄予防という目的を持って指導するようになったことが大きい」と感じている。

 

症例1 せん妄予防対策が奏功した食道癌の70歳代男性(坪佐氏による)


主訴:つかえ感

既往歴:高血圧、糖尿病

現病歴:つかえ感の悪化があり、近医にて上部消化管内視鏡検査を施行し、食道癌が発見された。精査加療目的で当科を紹介受診した。精査の結果、食道癌T3N2M0の診断で、術前化学療法と手術を行う方針となった。降圧薬、経口血糖降下薬、さらに10年前からベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ブロチゾラム)を内服している。睡眠確保のため、ほぼ毎日飲酒している。術後のせん妄リスクが高いと判断し、外来で睡眠マネジメントと禁酒指導を開始した。飲酒については、「アルコールと睡眠薬の同時使用は危険」と説明し、徐々に減量していった。

 

初診から入院治療開始までの期間の処方:ラメルテオン10mg1錠夕食後、スボレキサント15mg1錠眠前、不眠時頓用でブロチゾラム0.25mg半錠

 

ブロチゾラムの長期連用により、ベンゾジアゼピン依存が形成していると考えられた。ブロチゾラムを急に中断すれば、反跳性不眠などの離脱症状が出現する恐れがあった。そのため、当面は不眠時にブロチゾラム半錠を使うこととし、反跳性不眠を抑えながら、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は漸減の方針とした。

 

入院後、術前化学療法1コース中の処方:ラメルテオン1錠夕食後、スボレキサント1錠眠前、ミアンセリン1錠眠前、不眠時頓用でブロチゾラム半錠

 

ラメルテオンとスボレキサントにミアンセリンを追加して確実な睡眠確保を図ることで、不眠時頓用のミアンセリンを使用することはほとんどなくなった。

 

術前化学療法終了後から手術前の処方:ラメルテオン1錠夕食後、スボレキサント1錠眠前、不眠時頓用でミアンセリン

 

この時期には禁酒できていた。不眠時使用のブロチゾラムを中止することが可能となったため、ミアンセリンを不眠時使用とした。最終的に、手術前にはラメルテオン1錠夕食後、スボレキサント1錠眠前で睡眠確保できていた。

 

経過:入院後周術期にせん妄の兆候は見られず、経過順調で退院となった。

 

 

精神腫瘍科と外科の合同カンファレンスでスキルアップ

入院予定となった患者に対し、現在の内服薬などのせん妄発症リスクを洗い出すのは看護師の役割だ。2段階のせん妄アセスメントシートを用いてせん妄リスクを評価する。

 

STEP1では、飲酒状況や喫煙状況、ベンゾジアゼピン系内服薬の有無などの項目があり、1つでも当てはまればSTEP2に進む。

 

STEP2では見当識障害や短期記憶障害、幻覚や錯覚、話が回りくどくまとまらない、つじつまが合わない、何度も同じことを聞く、ボーっとしている、今までできていたことができなくなる――といった項目があり、当てはまれば既にせん妄が起きているという前提でせん妄患者の看護計画を立案していく。これも、せん妄予防策の1つとして始めた。

 

STEP2で当てはまる項目はなかったが、STEP1で1つ以上当てはまる項目があった患者はせん妄ハイリスク患者として夜間の睡眠状況の確認などを行い、それに伴う内服薬の調整の指示などを受けて、せん妄リスクを少しでも低下させるよう看護計画を立てる。

 

こうしたアセスメントの意図を周知するための勉強会も定期的に開催しているという。

 

同センター頭頸部外科看護師の土屋美佐子氏は、「せん妄リスクが高い患者の臨床像を知っているのと知らないのとでは、看護師の動き方も変わってくる。新しく配属になった人には、アセスメントの勉強会に出て意図を学んでもらう」と話す。

 

また、同センター頭頸部外科医長の上條朋之氏は、「精神腫瘍科の医師と外科の医師、看護師で定期的にせん妄カンファレンスを開き、一患者に対する対策と反省点を振り返る機会を持ったことも大きい」と言う。

 

せん妄予防に取り組むに当たって、最も苦労したのは外科の医師が使い慣れない薬剤を使用しなければならない点だった。

 

しかし、「術後せん妄の悩みが大きい診療科だったこともあり、医師の足並みがそろっていたため、病棟の混乱もなく成功した」と坪佐氏は考えている。

 

慣れない処方でも、同センターの腫瘍精神科の医師にコンサルトしたりカンファレンスで振り返ったりしたところ、半年ほどで処方感覚をつかめたという。

 

また上條氏は、「せん妄予防対策が充実した2015年以降、せん妄発症者数は明らかに低減した。ただし、全例で完全に予防できるとは限らない」と言う。

 

せん妄を起こさないことが第一の目標ではあるが、せん妄を重症化させて過活動型せん妄まで遷延させないことが重要で、せん妄を起こした場合の対策も2015年までに刷新した(表1)。

 

その結果、確実にせん妄患者の睡眠確保が図られるようになり、重症化させずに数日以内にせん妄を収束させられるようになったという。

 

表1 対策前後の一般的な不眠・不穏時指示の例(上條氏による)

 

上條氏は、「せん妄が起きるのは仕方がないこと、起きたら精神科に任せればいいと考えている外科医は少なくないだろう。しかし、精神科医が常勤していない医療機関や、精神科医の出勤がない休日でも、外科医自身が迅速なせん妄対策をできるようにしておくことが重要だ」と語っている。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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