退院支援が事例でわかる【7】|退院に向けて課題が山積していた山下さんへの支援

山下さん(仮名)は、70代の女性。退院後に入所する施設が決まっていましたが、突然「施設には行かない」と言い出しました(詳しくは前回のお話)。

 

その理由を探るべく、キーパーソンの次女と、ケースワーカーの大塚さんとの面談を設定。

それぞれの話をまとめてみると、施設への入所を決めた根拠は曖昧でした。

 

サービスの利用次第では、自宅に帰る方向性も見えてきたのです。

退院看護師が方法をひらめいた時のイラスト

【執筆:岩本まこ(退院調整看護師)】

 

連載:退院支援が事例でわかる

Vol.7 退院に向けて課題が山積していた山下さんへの支援

タイトル:事例でわかる退院支援

前回お伝えした通り、もし山下さんが自宅に退院するとしたら、下記の点が課題と思われました。

 

◯経済的課題(生活保護受給中)

 

◯山下さん・長女・別居の次女は3人とも軽度の知的障害がある

 

◯山下さんは自宅で長女と2人暮らし

 

◯同居の長女は引きこもりで、山下さんの入院前は、山下さんが長女の世話をしていた

 

◯次女は、山下さんが長女の世話をする負担を心配して施設に入所させたいと思っている

 

これらの課題をどう解決するか考えるにあたり、私は再度山下さんと話す機会を設けました。

 

 

やっと確認できた山下さんと次女の希望

再度の面談の場でも、山下さん本人の希望は一貫して「施設ではなく自宅に帰ること」。

意思はかたいようです。

 

その後、私は次女とも話し合いの場を数回設けました。

電話口や、面談の場で、自宅に帰る場合のリスクや課題、それを乗り越えるための方法を提示しつつ話し合いを進めます。

 

話し合いの中で、次女が大事にしている考えが浮かび上がってきました。

 

それは、

「長女との関わりを減らすことで、お母さんの負担を減らしたい」

 

「再転倒を防ぎたい」

の2つです。

 

 

自宅退院のために必要と思われるサービス

次女の懸念点だけでなく、入院中の山下さんの様子から、「日常生活において1人で行うことが難しいこと」についてもわかってきました。

 

自宅退院するにあたり、これらの課題にも対応しなければなりません。

山下さんが、自宅退院するためには、これらを手伝ってくれるサービスが必要なのです。

 

・食事

・内服の管理

・入浴

・家事代行

・外出機会を増やす

・買い物や通院時のつきそい

・お金の管理

 

このように、必要なサービスをどのように手配したらいいか、私は頭を悩ませていました。

 

でも、何はともあれ退院後の生活には、リハビリの進行状況が大きく影響することは間違いありません。

 

そこで、担当の理学療法士(PT)に話を聞くことにしました。

 

 

担当の理学療法士の話と準備すべきサービス

担当の理学療法士は、リハビリの状況について、このように話してくれました。

 

「山下さんは現在、歩行器で歩行ができます。1カ月経過する頃には自宅内は伝い歩き~杖歩行レベル、屋外はシルバーカーレベルまで改善する見込みがあります。ただ、年相応の認知機能の低下と知的障害があるため、完全に自立にした場合、再転倒のリスクが高いです」

 

ここでまた新たに見えてきたのが、山下さんの介護度です。

山下さんは要介護2であり、希望するサービスを充実させようとすると自費負担分が出てしまうのです。

 

そこで、山下さんの生活保護支給額などを考慮しながら、ケアマネジャーを手配し、市区町村の生活保護担当(ケースワーカー:大塚さん)と相談をし、以下のようなサービスを組むことを山下さんに提案することにしました。

 

課題点

利用
サービス

回数

備考

食事の準備

宅配弁当

毎日

◯朝食、昼食は調理不要なものを用意。
◯デイサービス、デイケアは昼食付き。
◯夕食は毎日宅配弁当

内服の管理

訪問看護

隔週1回
30分

 

入浴

デイサービス、デイケアで入浴

週4回

 

家事の負担

訪問
ヘルパー

週1回
1時間

洗濯、掃除、買い物などの介助

外出機会がない

デイサービス、
デイケア

週4回

レクリエーションへの参加や、リハビリテーションなどを行う

1人での外出困難

社会福祉協議会の自費サービス

隔週1回
1~2時間

買い物や通院時の付き添いを行う

お金の管理

権利擁護

(市区町村の日常生活自立支援事業)

を利用

 

 

 

さらに同居の長女のケアとして、今まで山下さんが行っていた部分をカバーするために、障害者福祉サービスの介入を同時進行で進めていきました。

 

自宅退院に関するこれらすべてのサービスが整うまでに、関係者との面談を重ねること5回。

 

その間に、病院サイドでも、必要な支援を進めなければなりません。

 

それはどんな支援なのか…。

果たして山下さんは無事に退院できたのか…。

次回お知らせします。

次回へつづく)

※2019/1/3公開です。

 

(編集部注)

本事例を公開するにあたり、プライバシー保護に配慮し、個人が特定されないように記載しています。

 

【文】岩本まこ

社会人経験を経て看護師になった30代。

総合病院での勤務を経て、現在は市中病院にてより良い退院支援について日々勉強中の退院調整看護師。

【イラスト】いまがわゆい

今川さんの似顔絵イラスト
心がほっこりするイラスト・イラストエッセイ・マンガを描いています。

ホームページ
Twitter

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)

 

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