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2019年01月09日

気管や肺を突き破る「胃管の誤挿入」はなぜ起こる?|死亡事例の分析からの提言

口から食べられない場合に、鼻の穴から胃にチューブ(胃管と同義)を挿入し、そこから栄養剤を注入する「経鼻胃管栄養」

 

長期投与に問題はありますが、感染リスクが高い「中心静脈栄養」や安易な造設へのバッシングがある「胃瘻」とは違い、侵襲が少なく簡便なことから医療現場で日常的に行われています。

 

しかし、経鼻胃管栄養は、本来であれば食道を経て胃に挿入すべきチューブを誤って気管や肺に挿入し、誤って栄養剤を注入したり、気管や肺を突き破ったりなどし、患者の死亡事故につながる場合があります。

 

以前から専門家の間でもリスクが指摘されていましたが、2018年9月、医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)が、胃管挿入に関連した死亡事例6例の分析結果をまとめ、医療事故の再発防止に向けた提言として発表しました。

 

死亡事例は、医療事故調査制度がスタートした2015年10月から2018年5月までに報告があったものです。

 

繰り返される胃管誤挿入による医療事故はどうすれば防げるのでしょう――。

提言の作成に携わった専門分析部会の部会員である看護師の山元恵子さん(医療の質・安全学会)へのインタビューと提言の中から看護師に役立つポイントを紹介します。

 

 

事故防止の決定打はなく、一連のプロセスを考えることが大事

山元さんは、経鼻胃管栄養のリスクについて次のように話します。

 

経鼻胃管栄養は、“胃管挿入”と“栄養剤投与”の2つの行為があります。胃管誤挿入だけで患者さんが亡くなるのではなく、そこに栄養剤を投与することで重篤な合併症や死亡事故が起こっています

 

そして、「こうすれば絶対に防げるという決定打はない」とし、胃管挿入から栄養剤投与まで一連のプロセスを考え、安全な確認手順をしっかり踏むことが事故防止につながると強調しました。

 

提言では、「リスクの評価」から始まり、「胃管挿入」「挿入後のチューブ先端の位置確認」「水の投与」「栄養剤投与」「栄養剤投与後の観察」までの流れがフローチャートで示されています。

 

 出典:「医療事故の再発防止に向けた提言第6号:栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)を基に看護roo!編集部にて一部改変

 

 

そもそも解剖学的に入れるのが難しい

胃管挿入にあたって、まずリスク評価をする必要があります。

 

リスクを考える上でポイントになるのは、下咽頭や喉頭の機能と構造です。

 

出典:「医療事故の再発防止に向けた提言第6号:栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)を基に看護roo!編集部にて文言(非嚥下時→日常もしくは嚥下困難時)等を一部改変

 

嚥下をしていない時は、気管の入り口である「喉頭」は呼吸をするために日常的に開いた状態ですが、食道の入り口である「下咽頭」は閉じた状態です。

 

喉頭の方が元々開いた状態なのでチューブを誤って入れてしまいやすく下咽頭は嚥下をしないと開かないのでチューブが入りにくい構造になっています。

 

嚥下をする際には、喉頭が前上方に移動し、喉頭蓋が気管への道をふさぎ、輪状咽頭筋が緩むことで下咽頭が開き、食道への道が開いた状態に変わります。

 

嚥下機能に支障がある患者さんや意思疎通ができない患者さんでは、誤って気管や肺にチューブを入れてしまうリスクがあります。

 

分析された死亡事例でも、嚥下機能低下や意思疎通の困難がみられ、チューブの挿入が難しいケースばかりでした。

 

 

誤挿入しても察知できない場合がある

通常は、喉頭からチューブを入れてしまっても、気道を守る咳嗽反射(むせ)が起こり、途中で気づきます。

 

問題になるのは、咳嗽反射が起こらない患者さんです。

 

高齢者や脳神経疾患の患者さんなどでは咳嗽反射が低下または消失しており、誤挿入しても反応がはっきりと現れない可能性があるため、気管や肺までチューブを進めてしまうことがあるからです。

 

これは、咳止めの薬や鎮静薬を服用し、咳嗽反射が鈍っている場合も同様です。

 

また、気管切開や脊椎変形などがあると、チューブの通り道が狭くなっている場合があり、無理に進めようとして穿孔につながるリスクがあります。

 

提言では、強度があるスタイレット付きのチューブを使用する場合には、特に慎重に実施することが望ましいとしています。

 

 

リスクがあれば、観察しながら挿入する

誤挿入のリスクが高い、または挿入が困難と評価した場合、提言では「可能な限りX線透視や喉頭鏡や喉頭内視鏡で観察しながら実施すること」と推奨されています。

 

山元さんによると、実際、リスクがある場合には、透視下でチューブの位置を観察しながら挿入する病院が増えているといいます。

 

しかし、夜間や休日などには、診療放射線技師や医師がおらず、実施できない場合もあります。

 

山元さんは、「夜間にチューブが抜けて再挿入する場合、リスクがあると評価したら、慌てて挿入する必要はありません。朝まで待って、観察ができる日中に挿入するべきでしょう」と話します。

 

 

体位によって挿入のしやすさが変わる

提言では、挿入時の体位を工夫することが推奨されています。

 

仰臥位では喉頭の重みで下咽頭がつぶれ、隙間がなくなり、チューブを入れづらいため、できるだけ坐位で行うことが望ましいとされています。

出典:動画「嚥下のメカニズム・胃管挿入について~胃管誤挿入を防ぐために~」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)を基に看護roo!編集部にて改変

 

ただし、坐位を保持するのが難しく、頸部後屈の患者さんではかえって誤挿入のリスクがあるため、そうした場合は顎を引く頸部前屈の状態になるよう枕などで調節すると、挿入しやすくなる場合があるといいます。

 

 

挿入後のチューブの位置確認、気泡音の確認では不十分

リスクが「ない」または「軽度」と評価し、チューブを透視下で観察せずに挿入する場合は、挿入後にチューブの先端が胃の中に入っていることを確認する必要があります。

 

確認方法は幾つかありますが、それぞれメリット・デメリットがあり、現在のところ確実とされる方法がありません。

 

出典:「医療事故の再発防止に向けた提言第6号:栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析 表2」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)を基に看護roo!編集部で作成

 

気泡音は、胃の中に入っていない場合でも聞こえることがあり、不確実と言われています。pH測定は、胃の内容物を吸引できず測定ができないこともあれば、そもそもpH測定紙を常備していない医療機関もあります。

 

そのため、提言では、「比較的確実性が高いとされるX線やpH測定を含めた複数の方法で確認すること」としています。

 

山元さんは、「まだ気泡音の確認だけしか行っていないところがありますので、提言がそうした医療機関や医療者への注意喚起になって、確認方法を変えてもらう一つの突破口になれば」と言います。

 

 

栄養剤を投与する前に水を投与し、呼吸状態をチェック

提言では、チューブが胃の中に入っていることが確認されたら、いきなり栄養剤を投与するのではなく、まずは日中の時間帯に50~100mL程度の水を投与し、呼吸状態やバイタルサインに変化がないかを観察するとしています。

 

栄養剤は水に比べてさまざまな成分が含まれており、誤挿入が起こった場合に栄養剤が投与されると致死的な状況となる可能性が高くなるからです。

 

また、誤挿入のリスクがある患者さんでは、SpO2のモニタリングを行うことが望ましいとされています。

 

そして、水を投与してから数時間~24時間程度は経過観察をし、問題がなければ栄養剤の投与を開始。初回栄養剤の投与が完了した後も、引き続き数時間程度は状態変化を観察するというように、慎重な管理が求められるとしています。

 

***

 

胃管挿入は、医師が行うこともあれば、看護師が行うこともあります。また、一定の研修を受けた介護職員が栄養剤の注入を実施することもあります。
 

どの職種が行うにしても、誤挿入による医療事故を防ぐためには、挿入時の手技だけでなく、挿入前のリスク評価、挿入後の観察や管理が重要になってきますので、安全な経鼻胃管栄養の管理で看護師が果たす役割は大きいと言えます。
 

【イラスト/宗本真里奈、文・編集/坂本朝子(看護roo!編集部)】

 

 

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(参考)

医療事故の再発防止に向けた提言(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)

医療事故の再発防止に向けた提言 第6号「栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析」(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)

胃管挿入時の位置確認(日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター)

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