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2018年10月22日

看護師だからできる「医療手話通訳」って?|筆談より格段に伝わる手話で、入院中に病状や検査・治療法など

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

福原麻希氏=医療ジャーナリスト

 

主に手話でコミュニケーションを取る「ろう者」は、第一言語が手話になる。このため人によっては日本語の読み書きが難しいが、医療者でもそのことを知らない人は少なくない。

 

東邦大学医療センター大森病院の入退院支援室「マイステーション」で看護師業務を行いながら、全国でも数少ない院内配置の手話通訳者としても働く畠山純恵(はたけやま・すみえ)さんに、どうして病院に手話通訳が必要か、その役割を話してもらった。

 


 

「心電図、付けますね」。8月下旬、心臓カテーテル検査のため入院した70歳代の女性患者に、検査室で担当の看護師が心電図電極を装着しながら話しかける。

 

すかさず、院内手話通訳者で看護師の畠山純恵さんが、患者から手話の手と顔の表情が見える位置で担当看護師の言葉を通訳していく──。

 

カテーテル検査は局所麻酔下でも痛みを感じたり、造影剤の注入時に身体に違和感を覚えたりすることが予想されるため、通常、医師や看護師が患者に声をかけながら検査を進める。

 

「消毒します」「カテーテルが入りますから、ちょっと押される感じがしますよ」「痛みはないですか」など、患者の体にこれからどんなことをしていくかの説明を、畠山さんが逐一、手話で伝えていく。

 

「あと、どのくらいかかる?」。手振りと表情で患者が畠山さんに尋ねると、「もう少しですよ」と曖昧な表現でなく、「あと10分くらいです」と具体的に答えて、不安を軽減できるように配慮する。

 

患者は心臓病の治療のため、地域のクリニックの紹介で、今年1月から東邦大学医療センター大森病院に通院している。外来には、地域から派遣される手話通訳者を伴って来院していた。

 

だが、入院中の患者に通訳を派遣することはなかなか難しい。病院では前日に検査や手術などのスケジュールを決めているが、実際は急患が入ると、すべての予定が変更になったり遅延したりしていく。

 

検査後、車椅子に乗った患者と畠山さんが手話で雑談しながら病室まで戻ってくると、ほどなくして検査後の説明のため、循環器センター内科の岡崇医師が患者の病室に入ってきた。畠山さんは病室でも医師の説明を手話で通訳した。

 

岡医師の説明を入院中の女性患者に手話で通訳する畠山純恵さん。

患者は他のろう者から「病院に手話通訳士がいるなんて、あなたは幸せだわ」と言われたという。

 

岡医師は畠山さんの手話通訳が入るメリットについて、こう話す。

 

「患者さんは検査を受けるというだけでも、神経質になっています。どういう状況で検査が進んでいくかを畠山さんの介入で把握してもらえることは、受診者の気持ちに安心感を生み、安全な検査につながります」。

 

検査日の晩の注意事項や薬の服用量の変更などを説明した後、岡医師が「退院は予定通り明日でいいですか」と聞いたところ、それは困る、という表情で患者が畠山さんを見て手を動かし始めた。

 

畠山さんはその手話を見ながら、「明日は、主人が来られるのが夕方になってしまいます。夜の帰宅はあわただしくなるから、退院は明後日にしてください」と岡医師に通訳した。

 

患者がこんな要望を言いやすい雰囲気が生まれるのも、院内に手話通訳者がいるからだ。

 

 

「日本語が通じない」ろう者の存在に気づく

畠山さんが手話を習い始めたのは、10年前、看護師として働く中での経験がきっかけだった。

 

出産後に勤務していた小児科のクリニックにある日、ろう者のお母さんと保育園に通う子どもが来院した。病状を確認するため、畠山さんは母親に、筆談で「ご飯を食べていますか」「いつから、ぐったりしていますか」「保育園で何か病気が流行していませんか」などと質問した。

 

だが、母親からは「ご飯、食べない」「熱・咳」と単語が返ってくるばかりで詳しい様子が分からず、質問と答えがずれることも多かった。

 

自分と同じ年齢ぐらいの母親だったので、「どうして、やりとりがうまくできないんだろう」と心に引っかかった。

 

インターネットで聴覚障害者のことを調べたところ「日本に住んでいる同じ日本人でも、ろう者の中には日本語が通じない人もいる」ということを知り、畠山さんは衝撃を受けたという。

 

「子どもがいる場合、成長・発達について他愛ないママ同士のおしゃべりから知ることが多くあります。でも、その輪に参加できないばかりか、雑談から地域情報などを自然と得ることもできないと気づき、困るだろうと思いました」と畠山さんは言う。

 

最近の30~40歳代はスマートフォンを使いこなすため、ろう者でも日本語の習得率は高い。だが、特に60歳代、70歳代のろう者は、手話だけで生活している人が多い。

 

畠山さんは「病気のときぐらい、自分の言葉で話したいだろう。病院という命の現場で聞こえないことによる不利益を被ることのないよう、医療機関には手話通訳者が絶対に必要」と強く感じたという。

 

手話を学びに“国内留学”

そこで、畠山さんはまず週1回、地域の手話サークルに通い始めた。英会話スクールのように、「単語や表現を覚えたり、サークルの仲間とコミュニケーションを取ってみたりすることがとても楽しかった」と言う。

 

その後に約2年間、川崎市主催の手話講習会にも参加して、日常会話ができるレベルまで手話を習得した。

 

さらに、手話通訳を系統的に学んで手話通訳士を目指すため、2010年に畠山さんは国立障害者リハビリテーションセンター学院の手話通訳学科に入学する。

 

同科は国内唯一の手話通訳養成機関。教官がろう者で、校内の公用語は手話になるため、朝から夕方まで“手話留学”のような環境に身を置いた。

 

「看護師のような専門職は比較的復職が容易なので、スキルアップのために一時的に職を離れ、大学院などに進学して専門看護師や認定看護師の資格を取得される方がいます。私の場合は手話通訳士になることを目指したわけです」と畠山さんは言う。

 

同科修了後、畠山さんは出産前に勤務していた東邦大学医療センター大森病院のかつての上司で前看護部長に、10年ぶりにメールを送り、面談のアポイントを取った。

 

 

面談ではパワーポイントを用いて「医療機関に手話通訳を配置する重要性」を2時間かけて話した。

 

この畠山さんの情熱が伝わり、病院側は畠山さんを看護師として採用し、手話通訳のスキルを活かせるよう、患者・家族が⼊退院時の準備や相談をする「マイステーション」に配属した。

 

 

医療のプロとしてろう者を支援

畠⼭さんは普段は看護師として、マイステーションで⼊院のオリエンテーションを行う。その中で、入院に起因する不安や悩み(病気・医療費・仕事・家庭など)を聞き、必要に応じて他職種につなぐ。

 

ろう者の入院が決まった場合や院内で手話通訳が必要になった場合は、スタッフからの依頼を受け患者のアセスメントに入る。

 

退院に向けてのカンファレンスの場面でも、薬の服薬や傷の消毒、人工肛門の管理などについて不安がないか、畠山さんが手話で患者に質問したり、「退院後、どんな生活がしたいか」「心配なことはないか」などの患者の気持ちや希望を引き出したりする。

 

筆談では話が長くなり書き切れないため、患者は黙ってしまうことが多いが、畠山さんの介入で患者は躊躇(ちゅうちょ)なく質問できるようになる。

 

畠山さんが配属されている「マイステーション」。

入院する患者は、必ずマイステーションに立ち寄ることになっているため、ろう者を確実にピックアップできる。

 

看護部看護師長の長岡早苗さんは、医師とろうの患者のコミュニケーションのズレで、こんな経験をした。

 

主治医がベッドサイドで説明を終えた直後から、患者が怒り出したことがあった。看護師が筆談で「どうしましたか」と聞いても、患者は表情を変えず、黙ったまま。

 

そこで畠山さんが患者の傍らに行き、手話で話しかけたところ、女性は勢いよく手を動かしながら「医師が説明のとき、ニヤニヤ笑っていた。すごく失礼だと思った」と答えた。

 

実は、医師は患者をリラックスさせようと、少し冗談めいた表現で話していた。

 

つまり、音声を伴わないコミュニケーションでは、患者にとって病気にまつわる深刻な話をしているはずの場面で、医師がどうして表情を崩したかが分からなかったわけだ。

 

長岡看護師長は「筆談と手話では情報の量と質がまったく違います。特に日常生活の詳しい様子やご本人の本音を引き出すことなどの微妙な内容は、筆談では難しいと感じます」と言う。

 

例えば、看護師とろうの患者が筆談でやりとりするとき、ろうの患者が首を縦に振っていると、看護師は内容を理解していると安易に思ってしまうが、後でそうではなかったと分かることもある。

 

さらに、畠山さんは病院に常勤で配置されているため、同じ職員同士として医師やスタッフとコミュニケーションを取りやすい。

 

院内でカルテの読み書きもできるため、病状の経過や注意事項も分かり、病院と患者のどちらにも不利益が生じないように調整できる。

 

カルテに申し送り事項として「ろう者です。第一言語は手話です」「筆談はひらがなのほうがよい」「連絡先はファクスのみです」など、コミュニケーション上の細かな配慮点を書き込むこともできる。

 

検査室や手術室など、外部の派遣通訳者が立ち入ることが難しい場所でも患者に付き添える。院内に手話通訳ができる医療のプロがいるメリットは計り知れない。

 

今後の抱負について、畠山さんは「医療職にろう文化や手話通訳のことを知ってもらうための啓発をしていきたい」と言う。さらに「医療分野での手話通訳の養成にも携わることができれば」と考える。

 

「通訳はどんな言語であっても、自分の持っている知識以上のことを伝えることはできません。医療は命に関わるため、特化した講座があるべきです」(畠山さん)。

 

看護師などの医療職は、医療に関してはプロフェッショナルという強みがある。ぜひ病院内で手話通訳もできる人材の育成プログラムが増えていくことを期待したい。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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