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2018年06月29日

退院支援が事例でわかる【3】|永井さんのお看取り

退院支援について、退院調整看護師が経験した事例を基に具体的に解説します。

(前回までのお話はこちら

【ライター:岩本まこ(看護師)】

 

退院支援が事例でわかる

Vol.3 永井さんのお看取り

タイトル:「事例でわかる退院支援」。

 

患者さん・ご家族の希望を受けて

60代の女性、永井さんは自宅に帰りたいと入院当初から希望していました。

(詳細は第1回「急激に体調が悪化した永井さんへの支援」)

 

なんとか退院までの準備は整ったものの、ご家族から不安の声が聞かれていました。

 

「本当に家で看取れるのでしょうか…」。

 

自宅での看取りは、時にご家族にとって重責となります。

その不安を解消するのも、退院調整看護師である私と医療チームの仕事なのです。

 

 

退院前カンファレンスで聞かれた家族の大きな不安

退院前カンファレンスでは、担当者との情報共有をはじめ、家族の意向をうかがいながらそれぞれがどのように患者さんと家族に関わっていくのかを綿密に話し合いました。

(詳細は、第1回を参照)。

 

退院前カンファレンスの話し合いが終盤に差し掛かったとき、息子さんが、

「やっぱり不安が大きいです。看取る覚悟はあるけど初めてのことなので。この先どうなっていくのか不安もあるし怖さもあるんです」

と重々しく口を開きました。

 

そのとき、在宅療養を支えてくれる訪問看護師と目が合いました。

その目からは「私たちがしっかり支えていくから大丈夫」という言葉が伝わってきました。

 

 

その力強いアイコンタクトを受けて、私はまず、今の一番大きな目標は自宅に帰って大切な時間を家族で過ごすことだと伝えました。

 

そして、死が近づいたときにみられる変化と対応について、ご家族に伝えていきました。

 

 

亡くなるまでの過程を伝える

ご家族は、亡くなるまでの過程がわからないことで不安を感じている場合があります。

少しでも不安が和らぐように、退院前カンファレンスの段階で、以下の内容をご家族にお話ししました。

 

「詳しいことは、訪問診療の医師や訪問看護師がその都度伝えてくれますが、少しだけお伝えしますね。

 

お母様が同じ過程をたどるかはわかりませんが、多くの方は、いずれ会話ができなくなり、意識が朦朧としてきます。

呼吸が荒くなったり、息苦しそうな呼吸をします。

 

そしてうまく酸素が体に取り込まれなくなると、手足が冷たくなってきます。

 

そのうち、呼吸が弱くなり、息を引き取ります。

会話はできなくなっていきますが、ご家族の声は最期まで届いていますから、そばにいて話しかけてあげてください。

 

もし、今までと違うと思われる症状がみられても、慌てずに訪問看護師に連絡してくださいね。

他にもつらくなったとき、どうしたらいいのか迷ったとき、不安なときにもご家族のサポートをするのが訪問看護師やケアマネジャーの役割です。遠慮せず連絡してくださいね」

 

 

そして、退院前カンファレンスの場にいる担当者全員で永井さんの痛みや苦しさ、家族の不安と怖さを軽減できるように支えていくことを約束しました。

 

そして「退院前カンファレンス」のあとにもさらに、息子さんとじっくり話す時間をとらせていただきました。

(詳細は「退院前カンファレンスの手配とご家族への最終確認」

 

 

自宅退院のその後…

こうして永井さんは、念願の自宅に退院することができました。

 

退院した日の夕方には、ケアマネジャーから連絡があり、無事に自宅療養を開始できたこと、家族もなんとか落ち着いて永井さんとの時間を過ごせている旨が伝えられました。

 

このとき、ほんの少しだけ肩の荷が下りたような気がしました。

 

退院調整看護師の私にできるのはここまで。

あとは、在宅療養担当のみなさんに託して、永井さんとご家族が“自宅で穏やかに過ごす”という希望が叶えられるように願うばかりでした。

 

 

永井さんのお看取り

それから1週間が経過。

訪問看護師から、永井さんが息を引き取られたとの連絡がありました。

その日は息子さんも仕事を休んでいて、ご家族そろって看取られたそうです。

 

息子さんによると、旦那さんが「よかったね、家に帰ってきてよかったね」と声をかける中、眠るように息を引き取ったとのことでした。

 

永井さんが自宅で過ごせた時間が短かったのか、長かったのかは私たちにはわかりません。

 

ご自宅での時間がどのようなものだったのか、不便はなかったか不安は大きすぎなかったか…、ご家族にもう一度お会いできたら、聞いてみたい気持ちでいっぱいになります。

でも、在宅の医療者を信頼して任せることも、退院調整看護師の仕事だと私は思っています。

 

 

日頃のコミュニケーションが活きた事例

今回のケースでは、「ご自身もご家族も自宅退院を望んでいるけど、とにかく時間がない」ことが課題となった事例でした。

退院前カンファレンスに、すぐに関係者が集まってくれたこと、訪問看護師はじめ参加者が「信頼して自分たちに任せてくれて大丈夫だよ」と意向を示してくれたからこそ、実現できたことでした。

 

その後も、看取りまで各担当者が密に連絡を取り合い、永井さんとご家族を最期まで支えてくれていたそうです。

 

永井さんの退院前カンファレンスのあと、訪問診療の看護師が声をかけてきて「岩本さん、かっこよかった。感動しちゃった」と嬉しいお言葉をいただきました。

急に恥ずかしくなって “ポッ” となってしまいました。

 

褒められるとつい調子に乗ってしまう私ですが、その言葉をお守りにして日々勉強していきたいと思いました。

 

 

 

現在、懸念を感じている後藤さん(仮名)の事例

患者さんの退院調整を進めるとき、意外と多いと感じるのが「家族内で意見が割れるケース」。

当院に入院した70代男性の後藤さんのご家族も、妻と娘とで意見が割れていました。

 

後藤さん自身は自宅退院を希望していましたが、一緒に暮らす妻は「もう自宅では看られない」と。

離れて暮らす娘は「お父さんを自宅に帰してあげたい」と言い、退院の方向性が決まらない状況です。


妻に詳しく話を聞いてみると「入院前は暴力を振るわれたりしてつらかった。娘が自宅に帰したいというのもわかるけどもう限界なんです」と涙ながらに訴えるのです。
 

さてこのケース、どう調整を進めていきましょうか…。

次回、お話したいと思います。

(次回へつづく)

(編集部注)

事例を公開するにあたりプライバシー保護に配慮し、個人が特定されないように記載しています。

 

【文】岩本 まこ

社会人経験を経て看護師になった30代。

総合病院での勤務を経て、現在は市中病院にてより良い退院支援について日々勉強中の退院調整看護師。

【イラスト】いまがわゆい


心がほっこりするイラスト・イラストエッセイ・マンガを描いています。

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