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2018年02月21日

医療事故で「辞めたい」と思い悩む、すべての医療者へ

不幸にも死に至る医療事故が起きてしまったとき、遺族の悲嘆ケアが重要なのは言うまでもありません。事故の再発防止に向けた組織的な取り組みも大切です。

 

しかし、それと同時に忘れてはならないことがもう一つあります。事故を起こした当事者である医療者のケアです。

 

2017年末、そう考えた医療者や弁護士らが立ち上がりました。一般社団法人Heals(Healthcare Empowerment and Liaison Support)を設立。医療事故に直面して傷ついた医療者の支援に乗り出し、2018年1月から電話相談をスタートさせています。

 

2017年12月には、Healsの設立を記念し、「傷ついた医療事故当事者へのケア」と題するシンポジウムが開かれました。167人が参加。その大半が医療者で、なかでも看護師が35%と最も多かったといいます。いかに、医療者が医療事故を他人事ではないと感じているかがうかがえます。そのシンポジウムの様子を中心にHealsの取り組みを紹介します。

 

【目次】

医療事故に直面した医療者の心理

看護師になった遺族が見た医療現場

事故発生直後の医療者を癒やすピアサポート

医療事故当事者や遺族に救われたケース

悩みを聞く電話相談をスタート

 

 

医療事故に直面した医療者の心理

医療事故は起こしたくて起こすものではないと話す臨床心理士の曽根美恵さん

 

シンポジウムでは、Healsの設立趣旨に賛同し、臨床心理士として支援活動に参加する青山心理発達相談室(東京都港区)の曽根美恵さんが、医療事故に直面した医療者の心理状態について次のように説明しました。

 

「人の命を救うことが使命である医療者は、その責任の重さゆえに医療事故を起こすと強い自責の念に駆られる」

 

そして、医療事故を起こした医療者にはさまざまなトラウマ反応が起こるとし、幾つかの例を示しました。

 

 

曽根さんは解離症状があることが一つのポイントであるとし、「適切なケアが施されなければ、PTSDに移行してしまう」と指摘します。

 

また、「心の傷は言語化されないと解消されず、そのまま心の中にとどまり、フラッシュバックを繰り返す」と言い、「離職」に至ってしまわないためにも、いかに初期対応が大切かを強調しました。

 

 

看護師になった遺族が見た医療現場

Healsの代表を務める永尾るみ子さんは、病院で子どもを失う経験をした後、看護師になった“遺族であり、医療者でもある”という人。Heals設立の趣旨を説明するにあたって、自身が病院で子どもを失った体験から語り始めました。

 

遺族と医療者の両方の立場から医療と向き合う看護師の永尾るみ子さん

 

永尾さんは、子どもを失った当時、毎日のように電話相談で話を聞いてもらい、「泣いてもいい」「忘れなくていい」という同じような経験をした仲間の言葉に励まされたと言います。

 

一時は医療不信に陥ったこともある永尾さんですが、その後、同じように悩む遺族の支援活動に参加するようになり、気持ちに変化が訪れます。活動を通じ、患者家族の話に耳を傾ける医療者もいることを知り、患者家族と医療者の対話の必要性を痛感したからです。

 

そして、より患者に近い場所で医療と向き合う決意をした永尾さんは、看護師の資格を取得。現在は小児科で臨床ナースとして働いています。

 

看護師の過酷な勤務状況を知った永尾さんは、一日の勤務を終えた時に、こう考えるようになったと言います。

 

「きょうもミスなく終えることができたという充足感と、いつミスするかわからないという不安の背中合わせだ」

 

同じように考えたことがある看護師の方も多いのではないでしょうか。

 

永尾さんは同僚看護師に「医療事故を起こしたらどうするか」と尋ねてみたことがあるそうです。みな口を揃えて「看護師を辞める」と答えたと言います。

 

 

事故発生直後の医療者を癒やすピアサポート

では、医療事故に直面した医療者に、具体的にどのような支援ができるのでしょう。

 

ピアサポートは文化を変える取り組みと話す井上真智子さん

 

Healsの設立メンバーの一人でもある浜松医科大学教授の井上真智子さんは、米国で導入されているピアサポート関連記事)の取り組みについて紹介しました。ピアサポートとは、医療事故の当事者と同じような経験をした人(ピア)が話を聞く支援のことで、話を聞く人のことをピアサポーターと呼びます。

 

医療事故の発生から遅くとも48時間以内にサポートに入ることが重要であり、電話で話を聞く場合もあれば、対面で話を聞く場合もあるそうです。いずれの場合もポイントは秘密が守られるということで、ピアサポーターはメモも取らず、あくまで話を聞くことに徹し、話した内容を病院側に報告することもないそうです。

 

Healsでは今後、こうした医療者へのピアサポートを日本でも普及させたい考えで、医療機関へのピアサポートシステムの導入支援をしていくとしました。

 

 

医療事故当事者や遺族に救われたケース

シンポジウムの終盤に行われたディスカッションでは、ある医療事故のケースが紹介されました。

 

【医療事故の経緯】

類似名称の薬剤を誤って医師Aさんがオーダー。看護師Bさんが薬剤を実際に投与し、患者が死亡する事故が発生した。同事故には、ほかに薬剤を運んだり、医師による患者への説明に同席したり、複数の看護師がかかわった。病院側は遺族への対応を行う一方で、Bさんら看護師には自宅待機を指示。また、Bさんら看護師には弁護士の相談、カウンセリングや面接等のメンタルヘルス支援、休暇や夜勤の免除等の勤務調整など、さまざまな支援が実施された。しかし、遺族との交渉内容や事故調査委員会の進捗は聞かされなかった。その一方で、処方を誤った医師Aさんに対しては、弁護士や上層部がフォローに当たった。

 

病院側の対応は手厚いようにも思えます。実際、暗中模索の中、当事者たちのために配慮された様子がうかがえます。しかし、その後、第三者の支援が入るまで、当事者である医師AさんやBさんら看護師の心の傷は表出されないまま残されてしまっていました。

 

後に、Bさんら看護師は医療事故の加害者となった経験がある他院の看護師と会う機会を得ます。そこで、「遺族との交渉内容や事故調査委員会の進捗を教えてもらえない」「遺族に謝罪させてもらえない」などの不満や不安の声を上げました。医療事故当事者の話を聞いた直後にはショックを受けたものの、1週間後にはBさんら看護師からは「自分が進んでいくヒントをもらった」という前向きな言葉が出るようになりました。

 

一方で、事故が発生してからずっと精神的に不安定だった医師Aさんは、なかなか落ち着きを取り戻せずにいました。しかし、事故発生から11カ月後、遺族との対面を果たします。その時、遺族から「誰にでも起こり得る事故。先生も被害者」という言葉を掛けられ、救われたそうです。実は、遺族も医療職でした。

 

幸いなことに、その後、医師AさんやBさんら看護師はみな、今も医療職を続けているそうです。

 

Healsの設立メンバーでディスカッションのコーディネーターを務めた大磯義一郎さんは、「誰も当事者をないがしろにしようと思っていなかったはず」と述べ、このケースは日本でうまくいったまれな例とし、今後の活動の参考になるとしました。

 

永尾さんも「当事者同士でないと癒やせないことがわかる目指すべきモデル」と同じ考え方を示し、「遺族によって医療者は救われ、遺族も医療者によって救われるのではないか」と話しました。

 

医師と弁護士のダブルライセンスを持つ、浜松医科大学医学部医療法学教授の大磯義一郎さん

 

悩みを聞く電話相談をスタート

 

Healsは2018年1月から電話相談をスタートしています。傷ついた医療者、患者家族の両者が対象で、患者家族だけでなく医療者も傷ついていることを理解し、サポートに従事している遺族や医療関係者が相談に当たります。

 

ほかにも、患者家族と医療者の対話カフェの開催など幅広い活動をしていく考えで、医療事故などでつらい思いをする人を一人でも多く救いたいとしています。

 

患者家族と医療者が一緒に考えていく必要性を訴えるHeals設立メンバーで、弁護士の和田仁孝さん

 

 

一般社団法人Heals 電話相談窓口】

電話番号:03-6261-4707
受付:毎月木曜日の午前10時から午後3時 ※木曜日以外希望の場合、電話相談予約フォームで対応可能かどうか問い合わせ

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

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コメント一覧(4)

4はく2019年10月31日 19時56分

ハイリスク薬剤ばかりの取り扱いに加え、医師の指示がひろいにくい。受け持ちが指示を拾うシステムに慣れず、もう死んでしまいたい。命に責任を持つ自信がありません

3とり2018年12月07日 01時52分

最近医療事故を起こしてしまった。なんであの時に確認を怠ってしまったのか。患者に申し訳が立たなく、精神的につらい。自分がつらいのもおかしいように感じて、更につらくなる。

2きんた2018年02月21日 21時58分

どうしてどうして確認しなかったんだろうと何度も何度も繰り返し自分を責めたのに追い討ちをかけるように責められて辛かった事がある。患者に被害は無かった。

1匿名2018年02月21日 21時35分

失敗すると、責められる気持ちになる

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  • 1.抗がん剤の投与時には、揮発した抗がん剤を吸入したり、手指に付着した抗がん剤を経口摂取したりしてしまうなどで医療者が曝露しないようにする。
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