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2017年09月04日

女子マネ死亡…AEDを巡る論争に言いたいこと

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」

 

薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 

先日、本当に痛ましいニュースが流れました。

 

練習後走り倒れた女子マネジャー死亡 新潟の高校野球部

新潟県加茂市の加茂暁星高校で7月、野球部の練習直後に倒れ、意識不明になっていた2年生の女子マネジャー(16)が、5日に入院先の新潟市内の病院で亡くなったことが県警への取材で分かった。死因は低酸素脳症だった。

 

女子生徒は普段、球場を行き来する際は、用具などを積み込むマイクロバスに乗っていた。この日はけがをした部員がバスに乗るなどしたため、監督が「マネジャーはマイペースで走って帰るように」と指示していた。女子生徒が倒れた直後、駆けつけた監督は「呼吸は弱いけれどある」と判断し、救急車が来るまでの間、AED(自動体外式除細動器)は使用しなかったという。――朝日新聞デジタル(2017年8月6日17時05分)

 

 

若い命が助からなかったこと、本当に残念です。関係する全ての方にお悔やみ申し上げます。この件に関して、色々な話が世間に流れていますが、少し冷静になってこの件を見つめ直したいなと思います。

 

このニュース記事を読むと、前後関係と因果関係がごちゃごちゃになります。おそらく、多くの人に誤解されたと思うのが次の点です。

 

「AEDを装着すべき状況なのに装着しなかったからこんなことになった」

 

このように感じた人が多いのではないかと思います。ですが、これは現時点では誰にも分からないことです。どうして亡くなってしまったのかという悲痛な思いが適切な原因究明やこれからの社会の変化につながればいいですが、分かりやすい理由に飛びついて犯人を決めつけ、魔女狩りのようなことをして終わるようでは何の解決にもなりません。原因が分からなければ、本当に適切な対応も知り得ません。この点は強調しておきたいと思います。

 

AEDは使用するべきだった?

世間では監督の対応について責めるような意見があります。監督責任があるので一部は理解できるのですが、この監督は女子マネジャーの体調がおかしいと気づいた段階で救急要請し、蘇生の必要性を判断されています。結果として救命されなかったので、「この女子生徒にAEDを装着していれば結果が変わっていたかもしれないのに……」という意見も聞かれます。そうですね。AEDを装着していたら、より適切な対応だったかもしれませんね。でもそうじゃないかも知れませんよね。

 

世間からAEDを着けるべきであったという有言無言のメッセージを、一般の個人に向けて何になるのでしょうか。これは僕の勝手な意見ですが、今の社会はそもそも倒れている人を見かけたら蘇生の適応をしっかり判断して、過不足なくAEDの使用をするのが当然というところに達していません。監督責任の有無によらず(医療従事者は別ですよ)、放っておいたら亡くなってしまうという状況に瀕したら適切な初動を行ってもらい、救急隊に引き継ぎ、迅速に対応可能な医療機関で治療につなげられればそれは大変ありがたいことです。しかし、それができなかったときに殺人者のごとく責められるようなことではないと僕は考えます。決して害を与えているわけではないのですから。こぼれ落ちそうな命を何とかしようと一度でももがいた経験がある人ならば、他人に良い結果が約束されるのが当然だなどと言うことはできないと思います。

 

市民による救命の実際は?

現状、どの程度市民による救助が行われているかというと、バイスタンダーによる応急手当(胸骨圧迫、人工呼吸、AED)が行われていたのは、心肺機能停止傷病者の48.1%だったということです(出典:総務省消防庁『平成28年度版 救急救助の現況』)。

 

この介入があるとどのくらい予後が改善するのでしょうか? 全国の救急隊員に搬送された、一般市民により心原性心肺機能停止の時点が目撃された心肺停止傷病者数のうち、救急隊到着までに応急手当が実施されていた場合の1カ月後の生存者数の割合は16.1%。一方、応急手当が実施されていなかった場合は9.2%で、約1.8倍救命効果が高かったということです。さらに、一般市民がAEDを使用し除細動を実施した傷病者の1カ月後生存率は54.0%ということなので、除細動の適応となる場合であれば救命率はかなり向上するかもしれません。

 

数字を見ての通り、何らかの介入をしたらかならず助かるというわけではないし、AEDを装着すれば必ず救命されるというような代物ではありません。ただ、バイスタンダーによるCPRがもっと普及すれば、もっと良い結果が期待できるかもしれないと前向きに考えるのはありと思いますので、これはみんなで頑張りましょう。

 

ちなみに、どのくらいの患者に除細動が行われているのでしょうか。一般市民に目撃された心原性心肺機能停止傷病者数が2万4496人で、除細動が実施された人は1103人(4.5%)です。もちろん、AEDを着けたものの、適応がなくて除細動されなかった人も含まれるでしょうから一概には言えませんが、AEDの使用機会はもっと増やせそうです。

 

とにかくCPRを普及させたい

今は院外CPAにおいて適切な初動を広めていく段階にあります。多くの人が救命講習などを行なって、適切な対応を広めていっています。いかにしてAEDの使用域値を下げられるか、なるべく多くの人が急変時対応に関われるかということが求められています。

 

 

今回、世間から件の監督に向けられる視線は、今後院外救命の活性化に動くようなものでしょうか? 僕は逆に萎縮してしまうんじゃないかと思います。求める理想が高いのは良いことではありますが、うまくいかなかった時に他人を責めてしまう様は、自分で自分の首を絞めているようで何とも複雑な思いを抱いてしまいます。AEDを装着した方が良かったなと思うのであれば、その思いを胸にしまって大事に育て、自分がこのような事態に遭遇した際にぜひ使用してください。

 

今回倒れたのが若い女性だったということで、服を脱がせるといったハードルもあり、余計に介入しにくかったという背景もあったかもしれませんが、CPRを行いやすい環境を作るというのも社会の一員として重要な役割ではないかと思います。誰かを責めて終わりにするのではなく、場や空気を醸成していくのが大事だと思います。

 

しっかりCPRしましょう

今の所、米国心臓協会(AHA)の心肺蘇生ガイドラインでは「呼吸がないか死戦期呼吸の場合には胸骨圧迫を開始してAEDが到着次第使用する」ことになっています。しかし、死戦期呼吸の判断は困難です。基本的には普通の呼吸をしていないと思ったら、胸骨圧迫。これを徹底するだけで、AEDの使用に関してはあまり悩まずに済むかもしれません。心停止じゃない人に胸骨圧迫したら、よほど意識が悪い(昏睡状態)ということでもない限りなんらかの反応をしますので。反応がないならAEDを装着することに躊躇はなくなります。躊躇なく着けましょう。使用すべきかどうかは機械が判断してくれます。

 

これに関しても、「脈あり心室頻拍(VT)だったらAED使用が害になる可能性もあるから、心停止なのかどうかを適切に判断してからAEDを装着すべき」という意見があります。でもどうでしょう。その僅かな可能性に言及して社会を萎縮させるより、より広くAED使用を普及させる方が有用な段階ではないかなと個人的には思います。もちろん後で結果をしっかり検証すべきです。そして少しずつ先に進めましょう。

 

最近では、小学校で救命講習を行う機会も増えてきました。つらい思いをする人が少しでも減ればいいなと思います。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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