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2017年07月31日

医師を待たずに緊急時のカテーテル交換|ケーススタディー◎訪問看護ステーション愛美園(茨城県桜川市)

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

朝まで様子を見るべきか、すぐ医師に報告すべきか――。訪問看護の現場で看護師がよく直面するジレンマだ。緊急の処置が必要でも、医師に連絡して到着を待たなければならない。看護師が現場で判断し処置も行えれば、患者のニーズにタイムリーに応え、状態悪化を食い止めることもできる。茨城県桜川市の訪問看護ステーション「愛美園」は、2015年10月に始まった「特定行為に係る看護師の研修制度」を活用して、事業所内の看護師がカテーテル類の交換などを担う体制を整え、その役割の拡大を図っている。

 

末田 聡美=日経メディカル

 

茨城県の西部、桜川市の訪問看護ステーション「愛美園」は機能強化型1のステーション。看護師は12人(常勤8人、非常勤4人)で、開設時の1999年から2016年までに417人を看取り、連携する医療機関は大学病院から診療所まで約30施設に上る。桜川市は人口減少と高齢化に加えて、医師不足と医師の高齢化が進んでいる地域だ。人口10万人あたりの医師数は103人(全国平均245人)※1で、桜川市を含む筑西下妻二次医療圏の医師の34%(全国平均27.7%)※2が60歳以上だ。

 

愛美園所長の中島由美子氏(右)と特定行為研修修了者の木下真里氏(左)。

 

同ステーションの管理者で看護師の中島由美子氏は、「周辺の地域と比較して、医療・福祉サービスが減少しているのを実感していた。高齢の医師が1人でハードな在宅医療を担っている姿を目の当たりにする一方で、我々看護師は、緊急対応が必要な時に主治医と連絡が取れなかったり、主治医が来るまで、つらい思いをしている利用者をずっと待たせてしまうことも少なくない。看護師にももっとやれることがないかと考えていた」と話す。

 

そんな時に始まったのが「特定行為に係る看護師の研修制度」だ。2015年10月の制度開始時、同ステーションから車で通学できる自治医科大学が、特定行為研修の修了者を養成する「指定研修機関」となった。中島氏は、訪問看護の経験が長く、患者やスタッフから信頼が厚い木下真里氏に研修の受講を打診。2015年10月から1年間、研修を受講してもらった。「訪問看護師が前もって包括的な指示を受けておき、看護師の裁量でできることが増えれば、患者は待つ必要がなくなる。この制度が、患者が安心して療養するためのツールになればいいと思った」。研修を受講した理由について木下氏はこう話す。

 

特定行為研修では、受講者全員必修の病態生理学や臨床推論、薬理学などの共通科目を受けた上で、38行為の特定行為の中から、必要な行為を選んで受講することができる。38行為は21区分にグループ化されており、区分ごとに選択する。木下氏は、共通科目の講義はeラーニングで、演習や実習は「研修」として自治医大に通って受講した。研修費用の50万円は中島氏が所属する医療法人恒貴会の本部に掛け合って捻出。共通科目の講義はeラーニングとはいえ、315時間という長時間。「勤務時間外にすべて受講するのは大変だったため、週12時間は勤務中に受講させてもらった。上司や同僚に配慮してもらい、協力を得ながら何とか研修を終えられた」と木下氏は振り返る。

 

以前はチューブの閉塞で病院搬送も

まず木下氏が受講した特定行為区分は、在宅医療で欠かせない「ろう孔管理関連」(胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換、膀胱ろうカテーテルの交換)、「呼吸器(長期呼吸療法にかかるもの)関連」(気管カニューレの交換)の2つだ。

 

「手順書」に基づいて膀胱ろうチューブを交換する木下氏。(提供:愛美園) 

 

訪問看護を行う中で特に緊急対応が必要になるのは、気管カニューレや膀胱ろう、胃ろうカテーテルの緊急閉塞などのトラブル時。生命維持に直結するためすぐに対応が必要だが、チューブ交換は医師が行っていたため、往診が難しければ病院へ緊急搬送せざるを得ないこともあった。緊急時に看護師がカテーテル類を交換できるようになれば、患者の状態悪化のリスクは減り、医師の負担も減らせる。

 

さらに、同ステーションの新規利用者では10%近くに多発褥瘡があり、週1回の訪問診療だけでは壊死組織が除去しきれないという課題もあった。医師の診療時間の大半が処置に費やされてしまう上、一度に除去しきれないため治癒が遅れることもあった。毎日訪問する看護師が処置を行えるようにするため、2016年度には事業所内のもう1人の訪問看護師が「創傷管理関連」(褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法)の特定行為区分について研修を受講している。

 

緊急時の対応を医師と看護師の二重体制に

研修を修了してから9カ月。木下氏は現在、法人内外2カ所の診療所の医師と連携して、3人の利用者に対する膀胱ろう、胃ろう、気管カニューレの定期交換などを担っている。日頃から定期的にカテーテル交換を担うことで医師の負担を軽減できる上、木下氏もいざ緊急交換が必要になった時に備えて、技術を磨くことができる。手技は包括的指示が示された「手順書」(図1)に基づいて実施しており、何か異常があるなど手順書の範囲を超えていたらすぐ医師に相談することとしている。

 

図1 気管切開カニューレ交換に対する特定行為手順書

(提供:愛美園)

 

連携する診療所の1つ、法人内の大和クリニック(茨城県桜川市)院長の木村洋輔氏は、「大変な研修を乗り越えてきた過程をそばで見てきたので安心して任せられる。まずは状態が安定している患者さんのカテーテル交換をお願いしており、これからさらに2人担当してもらう予定だ」と話す。木村氏は木下氏の指導も担っており、初めて担当する利用者に対してはまず、木村氏の訪問診療に木下氏が同行して手技を見学。次回は一緒に実施し、スキルを確認してもらっている。

 

最大のメリットは、緊急時の対応を主治医と木下氏の二重体制にできた点だ。「カテーテルの閉塞時などに、手の空いている方が対応できるようになるため、カテーテルが入った患者を受け入れやすくなるだろう」と木村氏は話す。さらに、同クリニックは研修医など多くの若手医師を受け入れているが、「診療所の医師たちは、短時間で多くの患者を訪問しなければならない。信頼できる看護師に処置を任せることで、患者と体調や今後のことなどについて話せる時間が増えた、心の余裕ができた、といったメリットを感じている」(木村氏)という。

 

医師のほしい情報を予測して提供

特定行為研修の成果は、ステーション内の他の訪問看護師のスキルアップにもつながっている。木下氏がフィジカルアセスメントや臨床推論ができるようになったことで、「朝のカンファレンスのレベルが上がっている」と中島氏は実感している。医師に報告する際にも、必要に応じて木下氏がスタッフの相談に乗り、患者の病態を一緒にアセスメントする。主治医への報告が早期に、要点を押さえて行えるようになってきているという。

 

実際、嘔吐があった癌の終末期患者に対して、医師の診察を待たずに制吐剤を処方してもらい、スムーズに投与できたケースもある。癌の終末期で肺転移、脳転移があり全脳照射の治療を受けた後の患者の呼吸苦に対してモルヒネ(MSコンチン)を処方されたが、週末を挟んだ月曜、吐き気と嘔吐が出現。以前なら担当看護師が主治医に嘔吐している事実を報告していたが、まずは木下氏に相談。吐き気や嘔吐の要因として考えられるのは、オピオイドの副作用のほか、脳転移が大きければ頭蓋内圧亢進の可能性もあることを担当看護師に説明した。

 

木下氏は担当看護師と一緒に、薬剤による呼吸苦の改善度合いや、頭蓋内圧亢進の可能性として意識レベルの変化やアイサイン、頭痛の有無などを確認した上で、自分の観察した項目を踏まえて報告。制吐剤の追加処方について相談した。患者は、診察を待つことなくすぐ主治医から処方してもらえた。

 

木下氏はこの10月からさらに2つの特定行為区分、「感染にかかる薬剤投与関連」(感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与)、「血糖コントロールにかかる薬剤投与関連」(インスリンの投与量の調整)の研修を受講する予定だ。「誤嚥性肺炎を繰り返している利用者から夜間訪問依頼を受けることもあるが、事前に包括的な指示をもらっておけば抗菌薬投与などを行うことができる。また在宅でのインスリンの管理についてもう少し看護師が判断できるようになれば、外来中、医師に電話して指示を仰ぐ回数が減らせるだろう」と中島氏は話す。

 

周囲からの理解を得るため奔走

ここまでメリットを紹介してきたが、特定行為研修制度の認知度は低く、研修を修了した看護師の役割について連携先の医療・介護スタッフに十分理解してもらえていないのが現状のようだ。同ステーションは、法人外の様々な医師から指示書を受けているため、彼らからの包括的指示で特定行為を行えるようにするためには、制度や研修修了者の役割について理解を得ることが重要になる。

 

大和クリニック院長の木村洋輔氏

「医師と研修修了者との信頼関係があることが欠かせない」と話す大和クリニック院長の木村洋輔氏。

 

これまでも、訪問看護の利用者と家族向けに制度について記載したパンフレットや同意書を作成しており、法人外の医師向けにも制度について解説したパンフレットを用意。木下氏は、信頼関係のできている連携先の医師に研修修了の報告を行うとともに、今後の役割分担について相談に出向いている。いくつかの診療所は興味を持ち始めているという。

 

特定行為を行うためには、主治医の「包括的指示」を記した「手順書」を患者ごとに作成してもらう必要がある。「ベースには『あなたなら任せられる』という医師と研修修了者との信頼関係が欠かせない。その上で、現場で技術を取得・向上してもらいながら徐々に任せる範囲を広げていくことになるだろう」と木村氏は話す。

 

今年度はさらに、連携しているケアマネジャーの集まる会で特定行為研修について紹介したり、大学病院のメディカルソーシャルワーカーにも特定行為研修修了者がカテーテル類の交換や褥瘡の処置などを行えることを広報する方針だ。特に、最近訪問看護の利用が増えている重症心身障害児にも対応していきたいという。「主治医が大学病院の医師であるため、ろう孔交換のために苦労して通院する難病や小児の患者さんたちは少なくない。そうした方に我々が在宅で交換できるようになれば患者や家族の負担は大きく減るだろう」(中島氏)。

 

とはいえ、看護師が特定行為を行っても診療報酬上の評価はなく、経営上のメリットは限られる。愛美園のケースなどから分かるのは、特定行為研修制度が機能するには、看護師や事業所の高いモチベーションという条件が不可欠。これが現状ということだ。制度の普及を目指すならば、現場の頑張りに過度に依存することのない仕組みを作る必要がある。

 

 

※1 日本医師会地域医療情報システム(2017年1月26日)

※2 社会保障制度改革推進本部 医療・介護情報の分析・検討ワーキンググループ第7回資料(2015年1月28日) 

 

<掲載元>

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