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2017年07月10日

「これから認知症は減っていく」は本当か|リポート◎海外で減る認知症、日本では?

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

近年、欧米で認知症の有病率・発症率が減少傾向にあるという研究結果が相次ぎ報告されている。これらの研究では、健康管理への動機付けや生活習慣病への早期介入によって認知症が減った可能性が示唆されている。では、海外のデータを専門家はどう読み解くのか、また将来、日本で認知症の患者数が減る可能性はあるのか。

 

加納亜子=日経メディカル

 

「2025年の認知症者数は推定で675万人となり、65歳以上の5人に1人の割合まで増える」──。九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター教授の二宮利治氏らは2015年3月、認知症の有病率について長期的かつ縦断的に調査した久山町研究のデータを基に、こうした推計結果を報告した。

 

二宮利治氏

「高齢化が進む日本では、認知症の患者数は急速に増加する。治療や介護に携わるマンパワーや医療費を考えると、早急に何らかの対応策を講じる必要に迫られている」と九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンターの二宮利治氏は指摘する。

 

急速に進む高齢化に伴い、認知症患者数の急激な増加が懸念される一方で、欧米からは認知症の有病率が減ったという研究結果が相次いで示され、注目を集めている。

 

今年1月には米国ミシガン大学のグループが、Health and retirement stud(HRS)のデータを用いて、認知症の有病率が2000年の11.6%から2012年には8.6%と有意に低下した(P<0.001)ことを報告した(KM Langa, et al.JAMA Intern Med 2017;177: 51-8.)。

 

この結果は、2000年(1万546人)と2012年(1万511人)の65歳以上の米国人口縦断調査によるもの。認知症の有病率が低下した一方で、教育年数が2000年の11.8年から2012年には12.7年に増えていた(P<0.001)。これらの結果から認知症の有病率低下と教育年数の増加の関係が示唆されている。

 

米国で行われたFramingham Heart Studyでは、1977年から2008年の30年間で認知症の有病率が10年当たり約20%低下し、有病率の減少は学歴が高卒以上の者でのみ認められたことが示されている(CL Satizabal,et al. N Engl J Med 2016 ; 374 : 523-32.)。

 

こうした報告は米国以外からも寄せられている。 英国では、3つの地域の認知症有病率から、英国人口全体の認知症の有病率と認知症者数を推計。その経年変化を調べる研究が行われた。

 

具体的には、まず1989~1994年における当該地域の65歳以上の年齢・性特異的認知症有病率をベースにした場合に、2011年時点で英国全体の年齢・性特異的認知症有病率(65歳以上)がどの程度の水準になるかを推計(CFAS I)。次に、2008~2011年の当該地域の実際の認知症有病率から、同期間における英国全体の年齢・性特異的認知症有病率と認知症者数(65歳以上)を推計した(CFAS II)。

 

CFAS IとCFAS IIの推計結果を比較すると、CFAS IIの有病率は6.5%(67万人)となり、CFAS Iから推計された8.3%(88万4000人)よりも認知症者数が減ったことが示された(CFAS II推計値のCFAS I推計値に対するオッズ比は0.7、95%CI:0.6~0.9、P=0.003)(FE Matthews,et al.Lancet 2013;382:1405-12.)。

 

その他、オランダ、ドイツ、スウェーデン、米国での調査でも、認知症発症率の減少が報告されている。 

 

「高齢化が急速に進む日本では、今後もしばらくは認知症患者が増加し続ける。そのため、多くの医師は、認知症の有病率が減るという海外の研究結果を懐疑的に見ているのが現状だろう」と話すのは国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長で内科総合診療部長の遠藤英俊氏だ。

 

遠藤英俊氏

「認知症の発症予防や進行を遅らせる方法を模索するためにも、過去のデータを読み解く必要がある」と語る国立長寿医療研究センターの遠藤英俊氏。

 

それぞれの研究を細かく見れば、診断基準が厳格に定められていなかったり、疾患・重症度が分類されていなかったり、バイアスが生じかねない患者群での検討だったりと、大規模研究ゆえの限界が見えてくる。「そもそも疫学研究は対照群の定め方や診断基準などにより、様々なバイアスが生じるもの。そのため、有病率やそこから導き出される推計の認知症者数といった数値が今後変動する可能性はあるだろう。だが、有病率が減少したという傾向は信頼に足る結果だと捉えている」と二宮氏は評価する。 

 

中年期以降の生活習慣病の有無が認知症発症に影響

日本では今後、人口の高齢化が急速に進むため、認知症者数もおのずと増加する。ただ、何らかの介入により発症を遅らせたり防ぐことができれば、有病率の伸びを抑えることは可能だ。

 

「これまで日本では認知症患者が増加する推計ばかりが大きく取り上げられ、生活習慣病や食事、運動、精神面に対する介入により、発症時期を遅らせられるかもしれないという視点は持たれていなかった。認知症の発症予防や進行を遅らせる方法を模索するためにも、過去のデータを読み解く必要がある」と遠藤氏は指摘する。

 

既存の研究から、認知症のリスク因子として挙げられているのは、年齢、頭部外傷、生活習慣病、喫煙、社会的・経済的要因、遺伝的要因、うつ病、難聴、視力低下などだ。特に介入が可能なリスク因子である生活習慣病の中では、高血圧、糖尿病、肥満などが強いリスクとされている。 

 

久山町研究の結果では、健診に参加した65~79歳の住民を17年間追跡したところ、高血圧とアルツハイマー型認知症には有意な関連は認めなかったものの、脳血管性認知症の発症頻度は高血圧の患者で有意にリスクの上昇を認めた(図1)(Ninomiya T,et al.Hypertension. 2011;58:22-8.)。 

 

図1 老年期と中年期の血圧レベル別に見た脳血管性認知症のハザード比

1988年に久山町の健診を受診した65~79歳の住民668人を17年間追跡した結果。血圧値は追跡開始時を老年期とし、同一集団が15年前の健診を受診した際の血圧値を中年期としてハザード比を算出した。

 

そして、中年期から老年期の血圧レベルの変化と脳血管性認知症の発症リスクを検証した結果では、中年期・老年期ともに血圧が140/90mmHg未満と高血圧ではなかった群と比べ、老年期のみ高血圧であった群で有意に3.3倍高く、中年期に高血圧だった群は老年期の血圧に関係なく約5倍のリスク上昇を認めていた。

 

また、同様に久山町研究では、糖尿病がアルツハイマー型認知症の有意な危険因子であることも示している(ハザード比2.1)。1988年に健診で75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)を受けた60歳以上の住民を15年間追跡し、追跡を開始した時点での耐糖能レベル別に認知症発症率を見た研究では、耐糖能レベルの悪化に伴い脳血管性認知症・アルツハイマー型認知症の発症率が上昇することが明らかになった(図2)(Ohara T,et al.Neurology. 2011;77:1126-34.)。 

 

図2 耐糖能機能のレベル別に見た脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症発症の発症率

1988年の久山町の健診で75gOGTTを受けた認知症のない60歳以上の住民1017人を15年間追跡した結果。耐糖能機能のレベルは、1998年のWHO分類に基づき分類した(空腹時血糖障害:IFG、耐糖能異常:IGT)。

 

これら久山町研究の結果を念頭に置き、海外のデータを見ると「この10~20年で、疾患予防が重要という認識が広まったことに加えて、高血圧や糖尿病をはじめとする生活習慣病を適切にコントロールできるように治療法が進歩している。リスク因子となる疾患への治療の成果が有病率の低下という結果につながったと推察できる」と遠藤氏は読み解く。

 

前述した米国ミシガン大学のHRSの研究結果でも、認知症の有病率の低下は学歴が高卒以上の人にのみ認められたことが示されており、「生活習慣病をはじめとする疾患や健康管理に対する知識レベルの違いにより、発症予防への取り組みや早期からの治療介入といった行動変容に差が生じたことで、認知症の有病率にも差が生まれた可能性があると解釈することもできる」と筑波大学神経内科教授の玉岡晃氏は話す。なお、同研究では2012年における高齢者の糖尿病や脳卒中、肥満などの有病率は2000年と比べ有意に高くなっていたが、この点については健診の頻度の向上や診断基準が変わったことなどが影響したのではないかとする見解が記載されている。

 

日本でも認知症は減らせる?

では、日本でも認知症の有病率の伸びを抑えられる可能性はあるのだろうか。 

 

日本では今後、高齢化がさらに進展するため、「生活習慣病のコントロールにより認知症の発症が減少することがあっても、高齢者の増加の割合が上回り、結果としてその成果が見えにくくなることが想定できる」と玉岡氏。

 

玉岡晃氏

筑波大学神経内科の玉岡晃氏は「認知症の発症率が低下しても高齢者の多い日本ではその傾向が目に見えて分かるまでには時間が掛かるだろう」と推測する。

 

遠藤氏も、「現時点では日本で認知症の有病率や発症率が減ったという疫学データはない。だが、認知機能低下や発症の予防に向けた取り組みが各地で広まり始めている。今後、そうした取り組みがさらに普及し、発症予防に対する国民の意識が高まれば、認知症の発症率が減り、結果として認知症の有病率の伸びを抑えられる可能性がある」と言う。

 

「認知症の発症を抑えるために特に有用とされているのが社会活動と運動、そして食事だ」と遠藤氏は強調する。久山町研究でも、健診を受診した認知症のない65歳以上の高齢者を17年間追跡したところ、「週1回以上の運動習慣がある」人は、運動習慣のない人に比べてアルツハイマー型認知症発症のハザード比が0.6となり、有意にリスクが低下していたことが報告されている。

 

また、脳画像や認知機能テストなどでMCIと判定された65歳以上の高齢者を対象に愛知県大府市で行われた研究では、計算やしりとり、ラダーを用いた多重課題を加えた運動(コグニサイズ)を行うと、MMSEやウェクスラー記憶検査、Word fluencyテストの結果が向上し(図3)、さらには脳容量測定により脳の萎縮の進行が抑えられたことが示されている。 

 

図3 MCIの高齢者における認知機能の変化

愛知県大府市在住の65歳以上の高齢者を対象に6カ月間週2回、1回につき90分間のトレーニングを行った運動教室群と、介護や疾病予防に関する健康講座を行ったコントロール群で認知機能の変化を比較した。健忘型MCI高齢者26人(介入群13人、コントロール群13人)での群間比較を行ったところ、有意に認知機能の低下が抑えられていた(出典:鈴木隆雄 老年精神医学雑誌 2015;26(増刊):159-66.)。

 

「運動指導をする際には、心拍数110回/分程度の強度で30分以上の有酸素運動を週3回以上行うよう伝えるのがポイントとなる。ただ運動するのではなく、考えながら運動をする習慣をつけてもらうのが理想だ」と遠藤氏。さらに、生活習慣病のコントロールに加え、抗酸化物質や抗炎症成分を多く含む食物の摂取を徹底すれば、「認知症の発症は少なくとも遅らせることができる」と遠藤氏は説明する。

 

食事指導は、「主食(米)に偏らず、積極的に野菜や牛乳・乳製品を摂取する食事を心掛けるよう伝えることが認知症の発症リスクを下げるには有用となる」と遠藤氏。その根拠は、緑黄色野菜や牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、単色野菜、海藻類、果物、魚、芋、卵を多く摂取し、米や酒の摂取が少ない食事パターンの方が認知症の発症リスクを有意に低下させていたという、久山町研究の結果だ。

 

「認知症の発症には様々な要因が関わっている。どこまで徹底できるかは分からないが、地域住民に向けて医師や保健師、自治体、医師会などが協力して健康管理に対する啓発を続け、早期からの生活習慣病のコントロールに加え、食事への配慮、運動・知的活動の習慣付けを促せば少なくとも認知症の発症時期を遅らせることはできるのではないか。このような取り組みにより、将来の認知症患者数が、久山町研究の成績から導き出された推計値より下回ってくれることを願っている」と二宮氏は展望を語る。

 

さらに、現在は認知症発症に影響するアミロイドβの脳内への蓄積を減少させる治療薬の臨床試験も進められている。「将来的には新薬により、認知症発症の原因となるアミロイドβの蓄積を解消できる可能性がある。そうなれば、アミロイドイメージングによりアミロイドβの蓄積を超早期に拾い上げて治療介入をすることができ、認知症の発症や認知機能の低下を大幅に遅らせることができるはずだ。このように考えれば、将来的には発症率を大幅に減らせるようになるのではないか」と遠藤氏は話している。 

 

<掲載元>

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