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2017年06月05日

国が本腰「かぜに抗菌薬を使うな!」|リポート◎外来におけるかぜ患者への対応示す「手引き」登場

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

厚生労働省は「抗微生物薬適正使用の手引き」の第一版を今年5月以降に公表する。これは、いわゆるかぜ症候群への抗菌薬処方の見直しを促すもの。抗菌薬耐性菌の急増に対応すべく、この手引きを基に、国が医師に処方の見直しを迫る可能性も見えてきた。 

 

古川湧、小板橋律子=日経メディカル)

 

「日本は抗菌薬の使用量自体は多くないが、セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系の経口抗菌薬の使用が極めて多い。ギリシャに次いで世界で2番目になっている」。厚生労働相の塩崎恭久氏は4月8日、第91回日本感染症学会総会・学術講演会と第64回日本化学療法学会学術集会の合同学会でこのように話し、これら薬剤の使用量の削減が日本の課題であると指摘した。加えて塩崎氏は今後、レセプト審査機能の強化によって、抗菌薬処方の適正化を推進していきたいとも話した<関連記事(全文を読むためには「日経メディカル」へのログインが必要です)>。 

 

表1 AMR対策アクションプランが掲げる2020年時点での成果目標

 

抗菌薬に対する耐性菌(薬剤耐性:AMR)の蔓延は国際協力の下で解決すべき喫緊の課題とされている<関連記事(全文を読むためには「日経メディカル」へのログインが必要です)>。日本政府は昨年4月にAMR対策アクションプランを打ち出し、表1の成果目標を掲げた。2020年までに抗菌薬の使用量を2013年比で3分の2に減らすというもので、上記3種類の抗菌薬については使用量を50%まで削減するという項目も盛り込む。

 

アクションプランに沿って抗菌薬の不適正使用を減少させる具体的な方策を示すため、厚生労働省の厚生科学審議会感染症部会は「抗微生物薬適正使用の手引き」(以下、「手引き」)の第一版を今年5月以降に公表する予定だ。現在は第一版案が厚生労働省のウェブサイト上で公開されており、5月以降に公表する第一版もほぼ同様の内容になる見込み。

 

国立国際医療研究センターの大曲貴夫氏 

「ウイルス感染による感冒と考えられる患者には抗菌薬を処方せず、痛みなどへの対症療法で対応してほしい」と話す国立国際医療研究センターの大曲貴夫氏。

 

「手引き」を作成したのは厚生科学審議会感染症部会の下に設けられた「抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会」。その座長を務めた、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏は「手引き通りの診療が全国で行われるようになれば、抗菌薬の使用状況は大きく変わるだろう」と期待する。

 

「手引き」は外来診療を行う医療従事者を対象にする。日本では抗菌薬の1日使用量の92.4%を経口抗菌薬が占めるためだ。第一版では急性気道感染症(感冒、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎)と急性下痢症(サルモネラ腸炎、カンピロバクター腸炎、腸管出血性大腸菌腸炎)に焦点を当て、原則として抗菌薬の投与を行わないよう求めている。

 

感冒とは、発熱の有無を問わず、鼻症状(鼻汁・鼻閉)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(咳・痰)の3つが同時に同程度存在する病態と定義。くしゃみ、鼻汁、鼻閉を主症状とするものは急性鼻副鼻腔炎、のどの痛みが主なものは急性咽頭炎、咳が主なものは急性気管支炎と定義した。

 

大曲氏は「鼻、のど、咳の症状がほぼ同時に同程度生じている場合は、ウイルス感染による感冒と考えられる。このような症状を呈する患者には抗菌薬を処方せず、痛みなどへの対症療法で対応してほしい」と話す。

 

成人の急性気管支炎に対しては、バイタルサイン異常などのレッドフラッグ(危険症状)を認めず、百日咳を除外できれば抗菌薬を投与しないことを推奨する(図1)。 

 

図1 急性気道感染症の診断および治療の手順

出典:抗微生物薬適正使用の手引き

 

成人の急性鼻副鼻腔炎では、軽症例に対しては抗菌薬投与を行わないよう推奨し、中等症以上の症例に対してのみ、アモキシシリンの内服(5~7日間)を推奨している。また小児の急性鼻副鼻腔炎に対しては、原則抗菌薬投与を行わないよう推奨し、遷延性または重症の場合にアモキシシリンの内服(7~10日間)を推奨するとした。

 

急性咽頭炎に対しては、迅速抗原検査または培養検査でA群β溶血性レンサ球菌(GAS)が検出されない急性咽頭炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨。GASが検出された場合は、成人、小児ともにアモキシシリンの10日間の内服を推奨している。 

 

ただし、高齢者の場合は症状が非定型なため、注意深く診察する必要があるとも大曲氏は指摘する。そもそも急性気道感染症は、年齢が高くなるにつれて罹患率が低くなることが報告されている。そのため「手引き」では、高齢者が「かぜを引いた」と受診した場合、その病態が本当に急性気道感染症なのかと疑問を持って診療すべきと注意を喚起している。

 

高齢者が肺炎を起こしていたとしても発熱や咳の症状に乏しいこともある。大曲氏は「高齢者が眠たがる、だるいと話す、ご飯を食べないといった普段とは違う状態を呈した場合、肺炎も含めて様々な疾患を念頭に精査することが大切」と話している。 

 

AMR対策は国境を越えた政策課題

国連事務総長補佐特別顧問で、WHO事務局長候補の1人であるデイヴィッド・ナバロ氏がこのほど来日した。感染症対策に詳しい同氏に、薬剤耐性菌の問題が国際的にどのように考えられているかを聞いた。

 

 

薬剤耐性(AMR)問題は、国境を越えた政策課題となっています。世界の政治指導者がAMRの問題について情報を共有することがとても重要です。昨年、G7伊勢志摩サミットに、国連事務総長に帯同して参加しましたが、伊勢志摩サミットでもAMRが議題に上がり、対応強化が合意されました。

 

AMR対策としては、まず、抗菌薬処方の適正化が不可欠です。これは、ヒトに限らず動物への処方も含みます。ヒトへの処方を適正化する上では、この問題を国民一人ひとりに理解してもらう必要があります。医師には、積極的に迅速診断を活用することを勧めたい。

 

例えば、RSウイルス感染を疑い、その迅速診断を実施して「陽性」という結果がでれば、RSウイルス感染症と診断できます。そうすれば、「ウイルス感染症なので抗菌薬は効きません」と説明できるわけです。科学的な診療が可能になります。今後、バイオテクノロジーの進歩により、様々な感染症の迅速診断薬が実用化するでしょう。抗菌薬に対する感受性なども迅速に検査できるようになるはずですので、医師には、そのような新しい検査をうまく活用してほしいと思っています。

 

WHOは、現在、各国にアクション・プランの策定を要望しています。今後は、そのプランに沿って、各国がどこまで達成できているかを調査し、情報を公開することで、AMRへの世界的な対応を強化していきます。これは、これまで様々な課題において、WHOが行ってきたやり方です。WHOは強制力を持ちませんが、情報を公開することで、各国の自助努力を推進するわけです。

 

もし、私が事務局長に選出されたら、このシステムを踏襲するとともに、各国の達成状況についてはより客観的なデータで評価できる仕組みにしたいと思っています。それは、外部評価(external evaluation)と呼ばれるものです。各国からの自主的な報告に頼るだけでなく、WHOの監督下で、第三者機関が各国の達成度に関するデータを収集し、WHOに報告するというものです。実は、国によっては、国内の進捗状況を報告したがらないところもあります。また、報告されたデータの信頼性がどこまであるかという問題もあります。外部評価を強化すれば、各国の対策の進行状況をより客観的に把握できるようになり、様々な問題への対策が進みやすくなると考えています。(談)

 

 

<掲載元>

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