検査の後に「支払えない」と言われないためには◆リポート◎外国人患者とのトラブルはこう防ぐ(2)

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

医療機関が外国人患者とのトラブルを避けるには、(1)本人確認の徹底、(2)受付から会計をするまでの診療の流れや診療・治療に掛かる概算費用の提示。そして、これらを的確に行うための(3)通訳の確保――が必要になる。前回に引き続き、(2)以降を説明する(前回記事:日本の常識は通用しないと肝に銘じよ)。

 

加納 亜子=日経メディカル

 

診療費の後払いは当たり前じゃない

患者が来院したら保険証で本人確認を行い、保険で許される範囲でできる限りの診療や処置をする。その後、患者は自ら会計スペースに向かい精算する。日本人にとって当たり前のこの流れは、外国人にとって当たり前ではない。

 

例えば中国では、最初に窓口で受付料を支払い、続いて医師の指名料、カルテ作成料などの支払いを済ませなければ、診察や検査に進むことができない。

 

一方、ブラジルの公立病院では医療費は原則無料。たとえ深夜に救急外来を受診したとしても支払いは発生しない。無料の医療機関を設けている国はブラジル以外にも複数ある。いずれにせよ「診療後に代金を支払う」というシステムは外国人患者にとっての常識ではないのだ。 

 

国際医療研究センターで使われている患者説明用の資料

国際医療研究センターで使われている患者説明用の資料

 

国によっては一つひとつの検査や処置について、医療者と患者が内容や目的、費用について議論し、行うか否かを決めていくところもある。そうした医療費に対する捉え方の違いを理解して診療をしないと、「『こんな高額な診療費は払えない』『こんな検査は希望していない』とクレームを受けたり、医療費の支払いが滞ることがある」と話すのは、国立国際医療研究センター国際診療部の堀成美氏だ。 

 

検査・処置前に見積もりを示して確認を

患者が保険に加入していなければ、診療費は全額自己負担となる。保険外診療で概算を示す場合、医療機関により金額設定は異なるが、1点20~30円に設定しているところが多く、患者の負担額は高額になる。

 

1点20円換算の医療機関であれば、インフルエンザの診療と検査なら請求額は2万円程度、MRIやCT検査などを行うケースでは10万円以上になる。「当院で外国人患者を診療する場合には、緊急度や重症度が非常に高い場合を除き、必要と見られる検査・治療と掛かる費用を提示し、患者の同意を得てから実施している」と堀氏は言う。

 

検査や処置の内訳と概算額を示すことで、患者や家族は納得して検査や治療を受けられる。医療機関にとっても、患者の支払い能力を確認して不安なく処置を行えるというメリットがある。

 

検査や処置に掛かる費用を提示して、患者が「こんな高額な検査・処置はしてもらいたくない」と拒否する場合には、「医療機関側の免責のため、患者自身が検査や処置を拒否したことを示す書類を作成し、署名をしてもらっている」(堀氏)。 

 

さらに国際医療研究センターでは、入院や手術を要する場合など、治療費が高額になることが予測される患者や、支払いが可能かどうかが曖昧な患者では前払い制や保証人を立ててもらうなどの対策をとり、未収金の発生を予防している。海外では先に支払いを済ませてから検査や処置をするのが一般的だからだ。 

 

一方、支払いが困難であることが分かっている場合でも、症状の悪化が懸念される場合など、診療を断れないケースもある。そうした患者では「患者の滞在期間を確認し、飛行機に乗って帰れる状態にまで回復させることを目標に、治療を行うのがよいだろう」とAMDA国際医療情報センター理事長の小林米幸氏(小林国際クリニック[神奈川県大和市]院長)は言う。

 

AMDA国際医療情報センターの小林米幸氏

「診断結果や医療制度の解説など、専門的な知識を要する説明をする際には、通訳を依頼したほうがよい」と話すAMDA国際医療情報センターの小林米幸氏。

 

「滞在が長引いて治療・滞在費の金額が増えるほど、支払いが滞るリスクが高くなる。医療目的で滞在している患者でなければ、自国に戻るよう勧め、必要なら航空会社に提出する診断書も作成することを申し出るのが医師患者双方にとって良い対応だ」と小林氏は話す。 

 

言葉の壁は通訳サービスで解消を

ここまで示してきたような日本の診療の説明、検査や処置の費用についての交渉を的確に行うには通訳を必要とするケースが少なくない。

 

「通訳を介するかどうかを尋ねると、費用の発生を理由に患者から断られることもある。本人や同行者が理解できていると主張していても、簡単な動作の説明や会話の中で理解できていないと判断したら、トラブル回避のためにも通訳を活用するようにしたい」と堀氏。患者には「診断結果や治療内容をあなたの国の言葉で正しく伝えるため」と説明すれば理解を得られやすいようだ。

 

最近は経済産業省や厚生労働省、観光庁が中心になって、医療通訳を担う人材の育成を進めている。それに伴い、常勤の通訳を雇ったり、多言語遠隔医療通訳サービスを活用する医療機関も増えてきている。

 

遠隔医療通訳サービスの業態は、ボランティアが無料で行うものから、2時間1万円前後の費用が発生するもの、自治体が運営するもの、医療機関側が包括的に契約するものなど様々。実地主体としては、AMDA国際医療研究センター多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)東京都保健医療情報センター「ひまわり」みえる通訳などがある。 

 

医療通訳の使い分けについて小林氏は「来院理由の説明や『前医から紹介を受けた』といった簡単な対話はボランティアやある程度日本語が使える家族などで対応できる。日本の医療制度を的確に説明したり、患者の病態や検査や処置内容の解説、薬剤の服用方法といった内容を正しく伝えるには通訳側にも専門的な知識がいる。こうした話をする場合には翻訳レベルがある程度担保された通訳を確保することが望ましい」と説明する。

 

そして、医療通訳を介して話をするときには、「誤解が生じないよう、できる限り平易な言葉を使い、翻訳しやすいように短く区切って端的に分かりやすく説明する必要がある」と小林氏は話している。 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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