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2017年02月20日

DNAR指示は「治療不要」という意味ではない◎日本集中治療医学会倫理委員会委員長の丸藤哲氏に聞く

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」を提示

 

日本集中治療医学会は2016年12月16日、「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」をウェブサイト上に掲出した。勧告では、この数十年で終末期医療のあり方に関する理解は深まったとする一方で、いまだに「DNAR指示の誤解」を続ける医療者がいるとして、再度注意を呼び掛ける目的で出されたものだ。今回の勧告が出された経緯とDNAR指示の正しい捉え方について、日本集中治療医学会で倫理委員会委員長を務める丸藤哲氏に聞いた。

 

北海道大学病院先進急性期医療センター部長 丸藤哲氏

丸藤 哲(がんどう さとし)氏●1978年北海道大卒。北海道大学病院、大阪府立病院、市立札幌病院などを経て、1999年より北海道大学病院先進急性期医療センター部長。

 

まとめ:増谷 彩=日経メディカル

 

2014年、日本集中治療医学会は日本救急医学会、日本循環器学会と共同で「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」を発表した。厚生労働省が2007年に公表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」も、同年度の2015年3月に改訂され「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」となった。これらのガイドラインが整ったことから、終末期医療のあり方に関する議論は一段落し、患者の尊厳を無視した延命治療の継続は大きく減少していると考えている。

 

一方で、DNAR指示についてはいまだに本来の定義とは違う意味で用いられるケースがあると考え、日本集中治療医学会倫理委員会は2015年4月からDNAR指示のあり方に関する検討を開始した。2016年10月13日から27日までの15日間、日本集中治療医学会の評議員(メール送信数261通、回答率33.0%)、医師会員(メール送信数6588通、回答率9.0%)、看護師会員(メール送信数2352通、回答率16.3%)に意識調査を行った結果、根深い「誤解」が明らかになった。

 

DNARは「心停止時」の心肺蘇生不開始の指示

調査では、評議員が所属する施設のうち1群、2群、3群の要件を満たす47施設でDNAR指示が出たときにどのような行為を差し控えるかを聞いた。その結果、差し控えるべき「心肺蘇生(CPR)」の割合が高いのは当然だが、DNAR指示とは無関係であるはずの非蘇生行為の終了・減量・差し控えがかなり高い割合で考慮されていることが分かった(図1)。中には、DNAR指示が出ている患者に対しては鎮痛・鎮静薬すら差し控える施設もあった。

 

図1 DNAR指示で終了・減量・差し控えが考慮される医療行為

DNAR指示で終了・減量・差し控えが考慮される医療行為

出典:日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査1

 

DNAR指示は本来、悪性腫瘍の末期など、CPRの適応がない患者が尊厳を保ちながら死にゆく権利を守るために「心停止時にCPRを行わないように」とするための指示である。DNAR指示によってCPR以外の治療を差し控えることにはならない。

 

米国医師会(AMA)が1991年に公開したDNR(Do Not Resuscitate)指示に関するガイドラインでも、「指示は心停止時のみ有効であり、その他の治療内容に影響を与えてはいけない」ことを推奨している。数年ごとに改訂されてきた「Guidelines CPR and ECC」も、AMAのガイドラインを踏襲してきた。中でも、「ICU入室を含めて栄養、輸液、酸素、鎮痛・鎮痛薬、抗不整脈薬、昇圧薬など具体的治療名を挙げて、DNR指示により自動的にこれらの不開始、差し控え、中止をすべきではない」と繰り返し記載されてきたことは特に重要である。

 

こうした結果を受け、今回の勧告では「1.DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである」「DNAR指示の下にCPR以外の酸素投与や気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始や差し控え、中止を自動的に行ってはならない」と示した。 

 

DNARと終末期医療の混同は危険

DNAR指示でCPR以外の治療が差し控えられてしまう理由は、終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止にDNAR指示が含まれることがあるために、DNARと終末期医療が混同されていることにある。一部ではDNAR指示は治療をやめていいという指示だと誤解されている。DNAR指示が出ている患者でも、CPR以外の治療をやめるためには終末期医療に関する手続きを踏む必要があるが、それが全く守られていない。

 

勧告では「2.DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示にかかわる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである」とした。さらに、「7.DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する」とし、倫理委員会はDNAR指示と終末期医療に関するマニュアルをそれぞれ作成することを強く推奨している。

 

合意形成はガイドラインに準じて行うべきだが…

また、勧告では「3.DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである」としており、DNAR指示や終末期医療の方針を決定するための合意形成は、厚労省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」や3学会合同の「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」の内容にのっとって行うべきだとした。

 

厚労省のガイドラインでは、人生の最終段階における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止などについて、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきとしている。人工呼吸器や透析などを中止するかどうかは、こうした合意形成プロセスを経る必要があるということだ。正式なプロセスを経てDNAR指示が出された場合は、儀式のようなCPRを行うことなく、やすらかに死を迎えるべきだ。こうしたプロセスを踏むことなく、1人の医師が自分の価値観に基づいてDNARと決め、治療を止めるといったことが今回の調査で明らかになった。さらに、ガイドラインの存在を知りながら、DNAR指示を「無駄な延命治療をやめて尊厳を保って死を迎えさせること」と解釈する医師もいることも問題だと考えている。

 

医師会員に対する調査で、DNAR指示を検討する際の判断や決定プロセスについて尋ねたところ、DNAR指示を検討する場合に本人や家族と話し合いを始める際に一番多いのは、「自分を含めた複数の医師と医療従事者で協議する」(42.7%)だった(表1)。

 

表1 DNAR指示を検討する際の判断や決定プロセス

出典:日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査

 

ただし、「自分と他の複数の医師で協議する」(25.4%)、「自分だけで判断する」(23.0%)という医師も少なくない。DNARを決めて実際に指示を出す際にも、16.4%が「自分だけで判断する」と回答した。評議員が所属する施設でも、DNARや終末期医療について患者や患者家族と話し合う際、医療・ケアチームで話し合いを行うことが義務づけられているという施設はわずか8.0%(ICUの方針としている施設を合わせても41.3%)にとどまった(表2)。

 

表2 DNAR指示あるいは終末期医療の決定プロセス

DNAR指示あるいは終末期医療の決定プロセス

出典:日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査

 

「POLSTは患者切り捨ての免罪符になりかねない」と危惧

また、DNAR指示は患者が終末期に至る前の段階で出されている可能性がある。一度はDNAR指示が決まっても、その妥当性は繰り返して評価し、指示に関する合意形成をその都度行うべきである。しかし、患者や患者家族と方針を見直すことが義務づけられている施設は8.0%(ICUの方針としている施設を合わせても41.0%)のみとなっている。このことからも、「4.DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話し合い、評価すべきである」と勧告している。

 

終末期医療の議論は高齢者救急医療など近年存在感を増す課題もはらみ、他学会も動きを見せている。日本臨床倫理学会は、DNAR指示の諸問題の解決策として日本版「POLST(DNAR指示を含む)」を作成し、公開している。日本臨床救急医学会は救急隊が蘇生処置を中止する基準を策定しようとしており、現在「傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生のあり方に関する検討委員会報告書」案のパブリックコメントを募集している。こうした動きに対し、私はDNAR指示の誤解が完全に解消するまでは、「POLST(DNAR指示を含む)」などの議論は進めるべきでないと考えている。

 

日本版POLSTは、米国のPOLST(生命維持治療に関する医師による携帯用医療指示書)を改変して導入したもので、米国でも導入以来有用とする声と根強い反対意見がある。POLSTは医療費削減の道具である、必要な医療を制限しているといった批判もある。誤ったDNARの認識が一人歩きしている状況の日本にPOLSTをそのまま導入すれば、患者がPOLSTを携帯していれば救急隊が搬送しない、あるいは高齢者を切り捨てる免罪符に使われるなど、転がるように悪い方に進むのではないかと懸念している。こうしたことから、今回勧告で「6.DNAR指示は日本版POLST―Physician Orders for Life Sustaining Treatment―(DNAR指示を含む)『生命を脅かす疾患』に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書に準拠して行うべきではない」と言及している。

 

また、勧告には「5.Partial DNAR指示は行うべきではない」とも記している。Partial DNAR指示とは、CPRの内容をリストとして提示し、「胸骨圧迫は行うが気管挿管はしない」といったように、CPRの一部のみを実施するというものである。救命できない終末期でDNAR指示であるならば、CPRの全内容を行うべきではない。反対に、救命の可能性があるのであればきちんとCPRを行うべきだ。

 

終末期医療の問題解決は、法律による運用ではなく、ガイドラインによって運用することが国レベルで認められてきた。しかし、医療従事者が専門家としての矜持と責任を持ってガイドラインを遵守する姿勢を見せなければ、医療従事者のプロフェッショナル・オートノミーは世間から信頼されなくなってしまう。医師自身がガイドラインを守らず、間違ったDNAR指示の運用をする現状が改善されなければ、これまで医療従事者が築いてきた終末期医療の実践に対する社会的信頼はたちまち崩壊してしまうだろう。

 

【参考文献】
1) DNAR(Do Not Resuscitation Attempt)の考え方 

 

2)生命維持治療に関する医師による指示書(Physician Orders for Life-sustaining Treatment, POLST)とDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示 

 

3)日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査 

 

4)日本集中治療医学会会員看護師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査(看護師用アンケート) 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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