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2017年01月23日

癌の治療法を患者に選ばせるのは間違っている|シリーズ◎癌治療医が癌患者になって気付いたこと(1)

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

<シリーズ◎癌治療医が癌患者になって気付いたこと(1)>

 

金沢赤十字病院副院長の西村元一氏に聞く

癌の治療法を患者に選ばせるのは間違っている

金沢赤十字病院副院長の西村元一氏は昨年3月、勤務時間中に突然の下血と軽いショック症状に襲われた。精査の結果、胃の噴門部にステージ4の腫瘍が見つかり、食道、横隔膜浸潤、膵浸潤疑い、小弯側に腫大リンパ節が複数個、さらに肝転移が認められ、「治療をしなければ余命は半年」と宣告を受けた。大腸癌の専門医から胃癌患者という立場になった西村氏に、自分が治療を受ける立場になって気付いた点を聞いた。

 

聞き手:加納亜子=日経メディカル

 

西村元一

西村元一(にしむら げんいち)●1958年金沢市生まれ。83年金沢大医学部卒。金沢大病院などを経て、2008年に金沢赤十字病院第一外科部長に就任。09年から現職を兼務。13年から、がん患者や医療者が集うグループ「がんとむきあう会」代表を勤めている。

 

――癌患者として、つい最近までご自身が働いていた医療現場を改めて見渡してみて、どのように感じられましたか。

症状が現れた日を境に、私は癌と宣告された患者という立場になり、これまで医師目線で見てきた医療を、患者として見ることになりました。そこで初めて、患者が求めるものと医療者の対応のズレを体感しました。

 

まず、今の立場になって患者同士で交流する中で気付かされたのは、医師と患者の溝を深める最大の要因は、言葉の選び方だということです。例えば、「リンパ節」という言葉。患者向けの本にも使われている言葉なので、癌患者に対するインフォームドコンセントでも普遍的に使っているのではないでしょうか。 

 

ですが、少し考えてみてください。医学知識がなく、解剖の勉強をしたことのない患者が、「リンパ節」と言われたところで理解できるはずがありません。医療者が「リンパ節転移が……」といくら熱心に話をしたところで、患者は話の頭でつまづいているのです。

 

癌患者やその家族が抱える不安を和らげるために立ち上げた交流の場で、癌患者やその家族と話をする中で、「腫瘍マーカーが上がっていると言われたのだけれど、これはどういうことなのかしら? お医者さんにはこんなこと聞けなくて……」と相談を受けたこともあります。医療者から説明はされているけれど、患者はそれを理解できていないし、理解していないから質問もできない――。今の医師・患者関係はそんな状況なのだと気付かされたのです。

 

伝わらない説明をする医師、理解せずサインする患者

 

 

――医療者は治療に当たり、必ず説明書を見せながらしっかりと解説をし、同意の上で患者にサインをしてもらうインフォームドコンセントを行っているはずですよね。

本来のインフォームドコンセントは、処置の内容や治療の選択肢を説明し、患者の理解・納得の上で治療を進めるための取り組みです。しかし現実には、何かがあったときに備えて医療者がリスクマネジメントをすることが主な目的となってしまっています。

 

説明を受ける患者からしてみれば、淡々と難しいことを説明され、その中で分からないことがあっても「目の前の医療者は忙しそうだから」「こんなくだらないことを聞いたらわがままだと思われて嫌がられるかもしれない」という思いから、分かっていなくてもとりあえず……とサインをしています。

 

医療者は、患者が質問もなくサインすれば、十分に理解をしてくれたと機械的に判断してしまいます。医療者と患者のすれ違いが起きているのが、今のインフォームドコンセントなのです。

 

こうしたすれ違いは様々なところで起きています。医療者は医療を提供する立場で、患者は医療を受ける立場。患者が病院を訪れた時点で暗黙の上下関係ができています。もちろん、患者側にも自分の訴えを包み隠さず伝え、分からないことは聞く姿勢も必要でしょう。

 

ですが、まずは医療者が、患者が話しやすい環境を作る必要があります。そして、患者がどこまで理解しているかを確認しながら、積極的に会話を重ねていくことで正しい理解を促し、信頼関係を築いていくことは医療者の責務だと感じています。

 

――信頼関係の必要性はどんなときに実感されましたか?

自分が実際に体験してみると、「悪い知らせ」ほど入念に行うべきですね。重要なことを曖昧に伝えられるほど、後に本当のことが分かったときに大きなショックを受けるからです。正しい情報を患者に理解してもらえれば、トータルとして患者に与える衝撃を減らせると思うのです。

 

私は医療者なので、宣告を受け入れやすかったという面はあるでしょう。そうしたこともあり、余命の宣告を受けたときは、癌で本当に自分が死ぬかどうかよりも、いつまでに何をやらないといけないかで頭がいっぱいになっていました。そんな自分の経験を振り返ると、結果として患者に正しい情報を伝えることは、非常に大切だと思うのです。

 

3カ月なら3カ月、半年なら半年と言われれば、当然ながらその期間内でやらなければいけないことに急いで取り組んでいくことになります。逆に、曖昧なことを伝えて変に期待を持てば、治療のことで頭がいっぱいになり、やらなければならないことに手が付かなくなってしまいます。その結果、覚悟もなく人生を終えざるを得なくなってしまうと、本人はもちろんのこと、残された家族も困惑するし、悔いも残るでしょう。最初は酷でも、どんなに状態が悪くても、患者の状態をきっちりと説明することが医療者の務めの一つではないかと思うのです。

 

告知は何のためにしているのか

――とはいえ、重篤な疾患であることを告知するには、その前後でフォローが必要ですよね。

前置きなく突然告知をしてしまえば死刑執行人と同じです。告知の前に患者と医療者の信頼関係をある程度、築く必要があります。検査の段階から少しずつ重篤さを匂わせるといった配慮も必要かもしれません。なぜこんなにも、信頼関係について言及するかといえば、悪い知らせ(告知)を伝えた後に決める治療方針が患者にとっては重要になるからです。

 

告知は最適な治療を受けてもらうために行うものです。今は、最初にどの先生に当たるかによって、治療がうまくいくかどうか、最期に後悔するかどうかまで決まってしまう傾向が強まっています。患者から見て、相性の良い先生に巡り会えれば全てがうまくいくように捉えますし、合わない先生に当たってしまうと、ドクターショッピングを重ねたり、結果として変な方向へと進んでしまうケースもあります。

 

本来受けられる最適な治療を受けるには、医師と患者の双方が良い関係を築けるよう努力する必要があります。加えて、患者が相性のいい医療者、医師と巡り合える仕組み作りも必要ではないかとも思います。

 

医療者はこうした認識を持って、患者がセカンドオピニオンを希望したら、「行ってらっしゃい」と後押ししたり、重篤な疾患になるほどセカンドオピニオンを受けることを勧めるぐらいの度量を持っていただきたいのです。

 

――セカンドオピニオンをあえて医療者から勧めるのですか。

多くの医療者の意見を聞いてもらうという意味合いだけではなく、治療までの時間をある程度取ってあげることで、患者が診断や宣告を1度持ち帰って納得するための余裕を確保するという意図があります。もちろん、様々な医療者に話を聞けば、理解ができていないことが明確になったり、追加で確認したいことに気付くきっかけにもなります。

 

今は医療者が忙しいため、手術のインフォームドコンセントを手術の1日前や、2日前にしたりします。患者からすれば、納得どころか理解する余裕もありません。こうした儀礼的なインフォームドコンセントはすべきではないと改めて感じています。

 

患者が考える時間を取りながら、医療者は患者が理解して納得できるよう情報を提供する。対話の積み重ねがあって初めて、患者はメリット・デメリットを踏まえて治療方針を考えられるのです。そして、この対話を主導するのが本来の医療者の仕事であるはずです。

 

自分なら、自分の家族ならという視点でおススメを

 

 

――告知の後、治療方針を決める際に医療者がすべきことは何でしょうか。

治療については、医療者が理由とともに「おススメ」を示すことですね。そうすれば、たとえ治療後に良い結果が得られなかったとしても、患者は納得できるものです。患者自身が選んだ治療法がベストと思うかもしれませんが、良い結果が得られなかったときには自分を恨んだり、選択を振り返って後悔ばかりしてしまうことになると思っています。

 

どんな治療にも、長所と短所がありますが、そうした情報を集めたり、セカンドオピニオンを駆使して、自分で治療方針を選べる人はさほど多くはありません。恋愛結婚ができる人ならば放っておいてもいいけれど、ある程度サポートするほうが良さそうな人には見合い結婚が向いているのと同じです。自分ならばこういう理由でこちらを選ぶとか、自分の家族ならばどうするかという例を挙げて伝えるのが、患者にとっても納得しやすい説明方法なのだろうと感じています。

 

医療者にしてみると、自分が勧めた治療法で「効果が得られなかったらどうしよう」「強い副作用が起きてしまったら…」と不安に感じるかもしれません。ですが、医師が勧めたことに納得していれば、患者は良い結果が得られなくても納得しやすいものなのです。そして、医療者が勧めた治療で良い結果が得られれば、信頼関係はより一層深まります。

 

加えて、医療者には、掛ける言葉一つひとつが患者に大きな影響を与えるものだと知ってほしいとも感じています。

 

――医療者が患者に声掛けをする際に気を付けるべき点はどこでしょうか。

例えば、私のように予後不良の癌患者であれば、その時々の状態によって言葉を素直に受け止められるときと、猜疑心に満ちあふれて言葉の裏を考えてしまうときがあります。「痛みはありませんか」と言われたら、そのときに痛みはなくても、「きっとまたすぐ痛みが出るんだ」と思ってしまったり、「おいしいものを食べられていいですね」と声を掛けられたときには「いつまで食べられるか分からないわね」ということの裏返しに聞こえてしまったり――。

 

癌に限らず、予後が悪い疾患を抱えた患者はそのときの調子や精神状態によって言葉の受け止め方は大きく変わるもの。「お大事にしてください」「大丈夫ですか?」という声掛けも同様です。調子がよければどんな声掛けでもうれしいものですが、患者は常に不安を抱えています。病状によっては掛けられた言葉をどうしてもネガティブに捉えてしまうときがあるのだと思って声を掛けるようにするのがよいと思います。

 

当然、何でも話せるとか、この医療者は親身になってくれる人だと思えるほど患者との信頼関係が構築できていていれば、声掛けをネガティブに捉えることは少なくなるはずです。できるだけ早い時期からそんな信頼関係を築けるのが理想だと思います。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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コメント一覧(1)

1匿名2017年01月23日 11時18分

こういう患者に寄り添う医師が増えるように、医師の教育内容も充実させて欲しいです。看護師は患者の言葉に出来ない思いに気付けるようになりたいものですね。

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