看護師の摂食障害の実態―ある看護師の場合

わたしは、看護学生の頃、当時の彼氏に勧められた厳しいダイエットがきっかけで、摂食障害(拒食症・過食症)になりました。身長161cm体重45㎏程度だった体重は、35㎏台まで落ちた時期もありました。

 

わたしの実体験に基づいた摂食障害を患う看護師の実態を皆さんにお伝えすることで、疾患の理解に役立てていただければと思います。

 

【筆者:H.U】看護師・保健師。大学在学時に摂食障害を発症。大学病院勤務を経て、現在は保健師として勤務中。

 

 

彼氏に「痩せて可愛くなったね」と言われるのが嬉しくて

大学の看護学部に入学後、わたしはバイト先で知り合った彼氏から、DVのような行為を受けるようになりました。

 

特に、彼はわたしの外見に対して執着があり、「デブになるから食うなよ。」と、冷蔵庫の中身をチェックしたり、バイトのまかないの内容をチェックしたり…せっかくのデートでも、「外食はカロリー高いから。」と、彼の残した分をほんの数口食べるのみでした。

 

食べることを極端に制限するダイエットは正直辛かったのですが、少しずつ体重が落ちる度「痩せてかわいくなったね」と、彼氏に言われるのが何より嬉しくて、ダイエットを止めようとは思いませんでした。

 

痩せていくにつれ、体力も気力も奪われていったので、在学中は最低限の単位を取るための講義と実習を何とかこなし、バイトも辞めてしまいました。

 

気づかないうちにダイエットがエスカレート

その後、彼の指導でダイエットは徐々にエスカレートし、わたしは痩せることにいつも必死で、ダイエットのことで頭がいっぱいになりました。早朝のジョギングを始めてみたり、1日に食べられたものが、サラダかおかゆだけの日もありました。

 

食べたいものが食べられずに、イライラしてしまうことが多く、講義のない日は家に引きこもり、ただずっと泣いて過ごした日もありました。また、このような状態ではサークル活動や飲み会等に参加することが難しく、友達とも疎遠になりがちでした。本当は、みんなでワイワイすることが大好きで、ダイエットを始める前までは、どちらかというとアクティブで明るい性格だったのですが…

 

看護師には意外と身近な摂食障害

摂食障害は先進国に多くみられ、患者の90%が女性です。摂食障害には拒食症(神経性食欲不振症)と過食症(神経性過食症)があり、どちらも食に関して異常なこだわりや精神的な依存がある疾患です。

 

過食症は、食べたい衝動が抑えられず、大量の食物を短時間で詰め込むように食べます。その後、食べたことを後悔して憂うつになったり、太ることを恐れて吐いたり(過食嘔吐)下剤を使ったりすることもあります。

 

夜勤で生活が不規則になりやすく、肉体労働を強いられる看護職では、おいしいものをたくさん食べることがストレス発散法である人が少なくありません。自分は病気というほどではないと思っていても、それがエスカレートすると、短時間のうちに、自分の意志とは関係なく詰め込むように食べてしまう“むちゃぐい症候群(嘔吐や下剤を使わない過食症)”という状態になってしまうことがあります。むちゃ食い症候群の人は、食べた後に自分の食欲をコントロール出来ない罪悪感で、ひどく落ち込んでしまうことが特徴です。

 

あなたの周りにも、看護師になって急にぽっちゃり体型になったり、情緒不安定になった人はいませんか。

 

わたしのような拒食症の場合は、明らかに痩せていてもまだ太っていると感じ、体重が増えることを病的に強く恐れてしまいます。例えば、頻回に体重計に乗ったり、1日の摂取カロリーを1200kcalと決めてそれ以上食べないようにしたり、電車を極力使わずウォーキングしたりして、とにかく痩せることに必死になります。今思えば、ほとんど食べていないフラフラな状態で、留年することなく、よく気力だけで大学の筆記試験や実習をこなせていたなと思います。

 

「看護師なら理解してくれるはず」と思っていた

摂食障害の症状は徐々に悪くなるばかり。「これでは卒業できないかもしれない」と危機を感じ、やっと彼と別れたあとも極端な痩せ願望は消えず、ダイエットをせずにはいられない状態でした。

 

このまま看護師になるのは不安ではあったけれど、国家試験の勉強をしているとき、過去問で摂食障害についての問題をみつけて、「きっと職場でもわたしの病気のことをわかってくれるスタッフがいるだろう。」「もしかしたら、同じように悩んでいるスタッフもいるかもしれない。」と思ったのを覚えています。

 

でも、わたしの予想は大きく外れていました。病院の赤字と看護師不足のため、スタッフの大半はいつもイライラ。病棟はピリピリした雰囲気で、休憩時間中もスタッフ間の交流はなく、相談するタイミングもありません。

 

自分の病気のことを理解してくれる人がいる安心感がどうしても欲しくて、病状を告白するタイミングを見計らっていたところ、業務目標について師長と面談する機会があり、その時に伝えようと決めました。

 

夕飯を食べ始めると、過食に走ってしまうことが多く、憂うつな気分になりやすいことや、その気持ちを引きずったまま翌日の業務をこなさなければならず、職場でも注意散漫な状態になりやすいことが、日々の看護業務に影響し困っていると、勇気をもって師長に伝えました。

 

ところが、師長からは「メンタルの問題を抱えている看護師はたくさんいるから、通院しながら内服薬を管理すれば、十分働けるよ。」と助言されました。

 

「つまり耐えるしかないんだ。」

覚悟を決め、何も食べる気になれずお茶しか飲めないような状態でも、毎日勤務し続けました。せっかく第一希望の病院に勤められたのに、病気のせいで辞めてしまうのは絶対に嫌だと思いましたし、「もし離職してしまったら、生活はどうなるんだろう。」と、経済的な心配もありました。

 

看護部長に言われた言葉

入職から4か月がたった頃、突然涙が止まらなくなりました。「頑張りたいけれど、こんな生活では身がもたない。」「早く業務を覚えたいけれど、拒食と過食の繰り返しで、勉強する時間がほとんど取れない。」「同期の子たちよりも、遅れているのかな。」等、見通しのつかない不安に押し潰されそうでした。

 

学生時代とは違い、落ち着いて立ち直るための時間がなくなってしまったことが、大きく影響していたのだと思います。

 

誰にも相談することができず、どうすればいいのかわからなくなり、泣きながら看護部長に直接事情を説明しに行きました。

 

看護部長には、退職したいとお願いしたのですが、「うつは、きちんと治療すれば治るから。」と励まされ、退職ではなく病気休暇を取り、しばらく実家に帰り療養することになりました。

 

わたしには抑うつ症状もありましたが、大半は摂食障害の症状です。

医療者である看護師にこれほど理解されないということは、わたしにとって衝撃でした。

 

4か月程度休んでも病棟には復帰できず、外来で勤務したあと、病院を辞めました。

 

症状コントロールと寛解

現在は、保健師としての仕事をしています。日勤で規則的な生活ができるようになったことで、内服時間を守ることで拒食・過食の症状が出る前に予防できるようになったことは大きな変化でした。

 

一番の理解者である夫が側にいてくれるので安心できますし、幸いにも相性の良い医師が見つかり、症状は回復傾向にあります。自分に合ったコントロール方法を見つけられることが重要なのだなとひしひし感じています。

 

摂食障害は、寛解と再発を繰り返すことが多いものの、時間をかければ治る病気と言われます。厚生労働省の調査では、拒食症の回復率は受診後4年未満では約30%、4-10年で50%、10年超で70%とされています。

 

普通に食べることがこんなに難しいことだとは、この病気になるまで考えたこともありませんでした。わたしの摂食障害を寛解の状態まで持っていくには、まだまだ努力と工夫が必要ですが、わたしは必ず克服し、支えてくれた主人や家族に感謝の気持ちを伝えたいと思っています。そして、症状コントロールがもう少し上手になったら、近いうちに赤ちゃんを授かり育てることが、今のわたしの小さな夢です。

 

(参考)

摂食障害:神経性食欲不振症と神経性過食症(e-ヘルスネット)

摂食障害情報ポータルサイト

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