緩和ケアチームはカーナビ!? 終末期だけじゃない緩和ケアとは

こんにちは。緩和ケア医の金井良晃です。

あなたは、「緩和ケア」についてどういうイメージをもっていますか?

ホスピスやお看取りなど、終末期のイメージが中心かな、と思います。

でも実は、「緩和ケア」はそれだけではありません。日頃から、患者さんのつらさを和らげるために、病棟や外来で様々な活動を行っているんです。

 

この連載では、緩和ケアの現場を知ってもらえればと思います。今回は「緩和ケアチームの活動」をお伝えします。


 

そのとき、緩和ケアチームは【1】

緩和ケアチームはカーナビ!? 終末期だけじゃない緩和ケアとは

 

今回は、緩和ケアチームのとある1日の活動を、「カーナビ」にたとえて紹介します。

 

◆目次

 

【朝】カンファレンス (1)~看護師の発言でチームの行動に変化

当院(東京大学医学部附属病院)緩和ケアチームのコアメンバーは、緩和ケア医と、チーム専従の看護師・薬剤師・臨床心理士です。がんの患者さんを中心として、院内横断的に活動を行っています。

 

「おはようございます!」

緩和ケアチームの朝は、引き締まった雰囲気で始まります。

朝のカンファレンスでは、担当している患者さん全員(40~60人)について話し合うので、効率的に進めるために、スピードも重要です。

 

話し合いの内容は、「自分たちが行っている治療・ケアが、患者さんにとって適切であるか」です。この評価が甘くなると、患者さんが不利益を被ってしまいます。

そのため、まずは患者さんの状態を正確に把握することが不可欠です。

 

医師に対して、問題点や要望を言い出せない患者さんは多いもの。状態把握には、看護師からの情報が重要です。

カンファレンスで、以下のような会話が聞かれることも少なくないですよ。

 

医 師:この患者さんは、「痛みがとれてよく眠れました」と言っていたので、薬物治療はうまくいっていると思います。薬は現状のままで様子をみましょうか。

 

看護師:確かに言ってましたね。でも、話しているときに、ちらっとしかめっ面をしたことが気になって、チーム回診のあと、残ってお話を聞いてみたんです。そしたら、「昨日よりは良いけど、動くとまだ痛いんだよね」と話していました。

 

医 師:そうか…。では、改めてお話を聞き、診察する必要がありますね。このあとのラウンドでは、この患者さんから訪室しましょう。

 

このように、患者さんの困りごとが看護師から共有され、チームのその後の行動が決まることもよくあります。

患者さんの様子をみる眼が一番鋭いのは看護師だと、チームメンバー全員が信頼しています。

 

【昼】ラウンド ~看護師同士の情報共有で、患者さんの状態把握がより正確に

 

 

朝のカンファレンスが終わると、すぐにチームで病棟や外来をラウンドします。

カンファレンスで話したとおり、治療・ケアに改善の必要がある患者さんから、優先的に訪れます。

 

ここで、緩和ケアチームが「カーナビ」として動き始めます。

治療とケアが、患者さんを目的地(「つらさの少ない生活」など)まで連れていく車だとすると、運転手は主治医です。

緩和ケアチームは、カーナビのように、患者さんの現在地(「どのようなつらさがあるか」など)を聴取し、目的地までのルート(「どの薬を使えばよいか」など)を考えます。

 

 

聴取のために、ラウンドでは、まず医師からこのように尋ねます。

 

・調子はどうですか?

・今日はどんなご気分ですか?

 

患者さんからの返答が痛みのことであれば、痛みについての問診が始まります。

会話の中には、次のような内容を織り交ぜていきます。

 

・いつ痛かったですか?

・そのせいで眠れなかったりしましたか?

・気持ちが悪かったりはしませんか?

・ほかに何か気がかりなことはありますか?

 

このように、患者さんの現在地を把握するためのコミュニケーションを大切にしています。

 

また、ラウンドでは患者さんとのやりとりだけでなく、看護師同士の情報共有も重要です。

緩和ケアチーム看護師は、以下のように病棟看護師に問いかけます。

 

緩和ケアチーム看護師:この前のラウンドでは、「動くときに痛い」って言っていたけど、その後、トイレ歩行を介助しているときの様子はどうだった?

 

病棟看護師:チームの提案通り、動く前に痛み止めを使ってみたら、痛みは和らいだみたいだけど、今度は副作用で気分が悪くなったみたいなんですよ。

 

緩和ケアチーム看護師:わかりました。痛み止めの再検討と、副作用の緩和の方法を検討してみますね。

 

このように、異なる立場から看護師が情報を持ち寄り意見交換することで、患者さんの状態がより正確にわかります。

ここでは、患者さんに薬の副作用があること、それを緩和するための検討が必要であることが明らかになりました。患者さんの現在地がより明確になりましたね。

 

 

【午後】フィードバック ~主治医との相談で治療方針を決定

ラウンドで、患者さんの現在地を聴取したあとには、ドライバーである主治医にそれを伝えます。

カーナビとして、いくつかのルートを提案したうえで、主治医と相談し、実際に進む道順を決定します。

 

緩和を要する症状が抗がん治療や退院の妨げになっているような場合は特に、その後の方針を左右しかねませんので、カーナビの役割は重要です。

 

また、患者さんを乗せた車には、ご家族も同乗していることも大切なポイントです。

緩和ケアチームは、ご家族とも相談したり、アドバイスをしたりと、コミュニケーションをとる相手は多岐にわたります。

 

緩和ケアにおいては「双方向性のコミュニケーション」を特に大事にします。

実際には、聴取とフィードバックは表裏一体であり、2つを切り分けずに行うことが多いのです。

たとえば、ご家族と看護師は、以下のようにコミュニケーションをとることもありますよ。

 

緩和ケアチーム看護師:痛み止めを上手に使えば、立ったり座ったりも楽にできるようになっていますね。〔フィードバック〕 ご家族からみて気がかりなことはありますか?〔聴取〕

 

家 族:本人は私たちの前では、「痛くなるかもしれないから」ってなかなか動こうとしないんですよ。

 

緩和ケアチーム看護師:そうなのですね。動かないことで新しい痛みが出てきてしまうことも、これからは心配です。痛みを予防するためのリハビリについても、主治医や理学療法士と相談しておきますね。〔フィードバック〕

 

このようなやりとりを経て、さらにリハビリ専門職へフィードバックを行います。

看護師のコミュニケーションにより、目的地へ早くたどりつけるルートがみつかることも多いのです。

 

【夕方】カンファレンス(2) ~そして、チームはまた患者さんの元へ

夕方のカンファレンスでは、ラウンドとフィードバックの結果、さらに検討が必要な患者さんについて話し合います。

たとえば、痛みが改善していない場合など、そのまま夜を迎えさせるわけにはいかないときには、同日に2度、3度とベッドを訪れることもあります。

カーナビとして、常に「より良いルートがないか」検討を重ねています。

 

 

「緩和ケアチームの1日」いかがでしたか?

患者さんが目的地へたどりつくために、聴取や相談を繰り返し、ルートを提案していく役割があると、知ってもらえればと思います。

 

そして、重要なのは、どの場面でもチームの要は看護師であること。看護師を中心に、それぞれの職種が専門性を発揮しています。

緩和チームは、「看護師にしかできないこと」に敬意をもって日々活動しているのです。

 


【金井 良晃(かない よしあき)】

東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部副部長。

1995年、防衛医科大学校 卒業。2004年より緩和ケア専従医師として5年間ホスピス医長を務めたのち、2次医療圏の中核病院で在宅・外来・入院をシームレスにつなぐ地域総合緩和ケアを実践。2012年より現職。

日本内科学会認定 総合内科専門医、日本緩和医療学会 暫定指導医。

 

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