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2015年07月13日

風を感じる「足こぎ車いす」、その実力は?|リポート◎楽しむリハビリで麻痺側の関節も動く

【日経メディカルAナーシング pick up】

 

手で車輪を回すのではなく、足でペダルを軽く踏み込んで動かす「足こぎ車いす」が、片麻痺などのリハビリテーションに使われ始めている。既に国内で5000台以上の販売実績があり、その臨床効果を検証しようとする動きも出てきた。

(満武里奈=日経メディカル)

 

 

「下肢をうまく動かせなかった患者さんでも、ペダルをこぎ、スムーズに移動できることで大きな満足感が生まれる。QOL向上につながる可能性がある」。

横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科部長の菊地尚久氏は20例以上のリハビリで使用した経験を基に、足こぎ車いすをこう評する。

 

製品名は「プロファンド」(写真1)。手で車輪を回して動かす従来の車いすとは異なり、足でペダルをこいで動かす。

写真1 足こぎ車いす「プロファンド」

身長180cm未満用のプロファンドソリッドイエローと、身長180cm以上用のプロファンドイタリアンレッド。メーカー希望小売価格は32万9000円と37万円(いずれも非課税)。

 

 

製品名は「プロファンド」(写真1)。手で車輪を回して動かす従来の車いすとは異なり、足でペダルをこいで動かす。

東北大学大学院医学系研究科客員教授の半田康延氏が開発し、2008年設立のベンチャー企業TESS(仙台市青葉区)が商品化した。2009年の発売からこれまでに5000台以上を販売。TESSによれば、その半数程度は医療機関や老人保健施設、特別支援学校などで使われているという。介護保険を利用すれば月1500円程度でレンタルも可能だ。

 

 

足こぎ車いすの特徴は、ペダルをこぐことでリハビリ効果が得られること。片麻痺でうまく移動できなかった患者が動かせる方の足で軽くペダルを踏むことにより、麻痺側の足の関節が動くといった効果が確認されている。

 

写真2は杖歩行では足首や膝関節の動きが見られない患者が足こぎ車いすに乗っている動画の一コマで、「反動ではなく、明らかに麻痺側の足首、膝の両関節が動いているのが確認できる」(菊地氏)。脳卒中患者では、個々の関節を独立して動かすことが難しいとされるが、「足こぎ運動はそれを実現できる可能性を秘めている」と菊地氏は期待する。

 

写真2 足こぎ車いすでは麻痺側の足首、膝の関節の動きを確認できた(菊地氏提供の動画より)。

 

 

東北大の研究では、膝の屈伸運動では見られなかった麻痺側の筋電図の変化が、足こぎ車いすの使用では見られ、筋肉が収縮していることが示された(図1)。

こうしたデータについて菊地氏は、「強制的に麻痺側を動かすことで、その刺激が上行し、大脳レベルで賦活化されていることを示唆する。麻痺側を強制使用させることで新しい神経回路の形成を促して動けるようにするCI療法(constraint-induced movement therapy)に近い効果があるのではないか」とみる。

 

図1 3カ月寝たきりの70歳男性(要介護5)の筋電図データ(半田氏による)
脳梗塞により左半身完全麻痺の患者が膝を屈伸した時(A)、足こぎ車いすをこいだ時(B)の筋電図。膝屈伸では左側に波形は見られなかったが(A)、足こぎ車いす運動では波形が見られ(B)、筋収縮が起きていることが確認できた。

足こぎ車いすの使用で見られた麻痺側の筋電図の変化

 

麻痺側を動かすことによる身体的な効果について、はっきりとしたエビデンスはまだ示されていないのが現状だ。ただし、「脳卒中治療ガイドライン2015」の運動障害・ADLに対するリハビリテーションの項では足こぎ運動について、「下肢機能や日常生活動作(ADL)に関しては、課題を繰り返す課題反復訓練が勧められる」(グレードB)と推奨し、「ペダリング運動が下肢麻痺筋の再教育に有効であるなどの研究報告がある」と記載している。

 

施設ごとにメニューを模索

1年前から足こぎ車いすをリハビリに取り入れた菊地氏が考える良い適応は、中等度から重度の片麻痺状態の脳卒中患者。思ったように歩行できずに気持ちが落ち込んでいる患者が、前向きにリハビリに取り組めるようになるという理由からだ。

 

「急性期の患者では、装具などを使わないと足が動かせないという状況に戸惑い、精神的に落ちてしまっていることが多い。麻痺側の足が動くことで、希望を持ってリハビリに取り組んでもらえるとともに、リハビリのきっかけ作りにもなる」(菊地氏)。

 

その他にはパーキンソン病、脊髄小脳変性症などの神経疾患、脳外傷患者でも使用することがある。いずれの場合も、車いすでリハビリ室に移動できるようになった段階の患者に使用することが多く、40分間のリハビリ時間で行うメニューの1つに組み込んでいる。

 

菊地氏の施設は急性期患者が中心だが、中には慢性期の患者もいる。こうした患者に対しては、麻痺側の緊張を弱める効果があるボツリヌス注射と併用することで、さらなる治療効果を引き出せるのではないかと菊地氏は考えている。

 

 

同じく1年前からこの車いすをリハビリに導入しているのが東京大学病院リハビリテーション部理学療法士の田中太郎氏だ。

田中氏らも急性期の患者に使用しており、脳血管疾患、骨折、パーキンソン病などの神経疾患から、心肺機能が低下し疲れやすくなっている患者など10例ほどに使用した経験を持つ。

 

車いすには、いわゆる標準型のほか、リクライニング機能付き、ベッドへの移乗機能付き、電動型などがあるが、「患者の残存機能を生かせるよう、病態に合わせた車いすの選定が欠かせない。その選択肢が増えるのは、とても喜ばしいこと」と足こぎ車いすの登場を歓迎する。

リハビリの目標は杖を用いて歩行できるまでになることだが、リハビリの通過点として使用しているという。

 

田中氏も、患者が「楽しい」と感じて、リハビリに前向きに取り組める効果を評価する。

「足でペダルをこぐ動作というと、エルゴメーターを思い浮かべる人も少なくないだろうが、決定的な違いは『風を感じられる』点。エルゴメーターではペダルをこいでも景色が変わらず、この差は私たちが想像する以上に患者さんにとって大きい。足こぎ車いすで風を感じながらリハビリすることで、楽しみながら自然に残存能力を引き出せる可能性がある」と指摘する。

 

さらに田中氏は、車いすに座った姿勢でリハビリを行うことで、心肺機能が低下した患者が安全に実施できるという点も評価している。通常の平行棒による歩行訓練中に疲れた場合、数メートル先の休憩場所までさらに頑張って移動しなければならないが、足こぎ車いすの場合は、こぐのをやめればすぐに休めるからだ。

 

東京大学の田中太郎氏

 

足こぎ車いすを使ったリハビリは、急性期だけでなく、回復期の患者にも検討されている。2年前から脳血管疾患患者へのリハビリに足こぎ車いすを導入しているのが七沢リハビリテーション病院脳血管センター(神奈川県厚木市)。

 

同院の入院患者の多くは、発症から1~3カ月の回復期の脳卒中患者だ。特に移動に制限のある重症例に対して早期から使用することで、体力低下を防止したり、歩行動作の獲得につなげるという意図がある。

 

同院の理学療法士の尾崎将俊氏らは、足こぎ運動により「大腿部の筋肉を鍛える」「股関節を深く曲げる」「体が反り気味な患者を良好な姿勢にする」といった効果が得られる可能性があると考えている。

「漫然と使用するのではなく、足こぎ運動によってもたらされる効果について仮説を立て、使用することが重要」と話す。

 

七沢リハビリテーション病院の尾崎将俊氏

 

 

臨床効果の検証はこれから

リハビリ関係者の注目を集める足こぎ車いすだが、目下の課題は足こぎ運動がもたらす臨床効果の検証だ。

 

2014年春から年末にかけて実施された神奈川県の「平成26年度介護ロボット普及・実証調査研究事業」で、菊地氏は足こぎ車いすを使用した患者のADLや気分(フェーススケールにより評価)を測定した。

これらの数値が改善する結果を得たが、「そもそも急性期なので数値が上がるのは当たり前。この製品単体による効果を立証するのが難しい」とこれからの課題を指摘する。

 

菊地氏は今後、機能性MRIを使って、足こぎ車いす運動が脳のどの部位を賦活するのかを検証する方針。田中氏も身体的効果を測定するための指標を現在検討している。また、尾崎氏は複数のカメラの画像データを使う三次元動作分析装置と床反力計を用いることで、「どういった身体状態に足こぎ車いすが有効なのかを検証したい」と語っている。

 

リハビリの選択肢の1つとして取り入れられ始めた足こぎ車いす。このツールをきっかけに「楽しいリハビリ」がもたらす効果を評価する手法の開発が進み、新たな「楽しいリハビリ」の登場につながることを期待したい。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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