急性ウイルス性発疹症|ウイルス感染症④

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は急性ウイルス発疹症について解説します。

 

古賀文二
北九州市立八幡病院皮膚科

 

 

Minimum Essentials

1麻疹風疹などに代表される、ウイルス感染に伴い発疹が出現する疾患の総称。

2紅色丘疹、紅斑、時に紫斑、小水疱が混じ、これらが局在性もしくはほぼ全身に分布する。臨床像は、感染するウイルスの種類によっては特異的であるが、多くは非特異的であり、発疹型だけでは診断がつけにくい。

3対症療法で安静、保温、水分、栄養の補給に努める。

42~4週間で全身症状の改善とともにおおむね皮膚症状も軽快する。

 

急性ウイルス性発疹症とは

定義・概念

ウイルス感染に伴い紅色丘疹、紅斑、小水疱、時に紫斑が混じた形で、局在性もしくは全身性に皮疹が出現する疾患の総称。日常臨床で遭遇する頻度が高く、認知しておくべき疾患として麻疹、風疹、伝染性紅斑、手足口病などがある。本稿では、これら4疾患について概説する。

 

原因・病態

麻疹

麻疹ウイルスは、パラミクソウイルス科モルビリウイルス属に属するRNAウイルスである。感染力が非常に強い。通常、前駆期、発疹期、回復期と経過する。

 

風疹

風疹ウイルスは、マトナウイルス科ルビウイルス属に属するRNAウイルスである。春から夏に流行し、発疹は3~4日で消退することから「3日ばしか」ともよばれる。

 

伝染性紅斑

ヒトパルボウイルスB19(PVB19)による感染症。いわゆる「りんご病」といわれる。春から夏にかけて流行する。

 

手足口病

エンテロウイルス(entero virus:EV)感染症である。ヒトエンテロウイルスはピコナウイルス科エンテロウイルス属に分類されるRNAウイルスで、起因ウイルスとしてコクサッキー(coxsackie virus:CV)A16、A10、EV71がよく知られる。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見・検査

麻疹(図1図2

8~12日の潜伏期のあとに高熱、鼻汁、、眼結膜充血などの症状が出現する前駆期を経て発疹期に移行する。この前駆期~発疹期へ移行する時期には、口腔内にコプリック(Koplik)斑とよばれる白色粘膜疹がみられる。

 

発疹は、一般的に顔面より始まりほぼ全身に広がる。性状は、浮腫性紅斑~紫紅色斑で、徐々に拡大・癒合して不正形~網目状となる。

 

図1 麻疹(成人例、体幹)

麻疹(成人例、体幹)

 

図2 麻疹(成人例、手背)

麻疹(成人例、手背)

 

その後、回復期になると全身症状、皮疹は消退するが、しばらく色素沈着が残る。

 

検査は、血算(白血球数血小板数の減少、異型リンパ球の出現)、血液生化学(肝酵素の上昇)などに加えてウイルス抗体価の上昇、麻疹特異的IgM抗体などを行う。

 

風疹(図3図4

16~18日の潜伏期のあとに発熱、リンパ節腫脹( 介後部)とともに皮疹が出現する。顔面から始まり、頭部、躯幹、四肢へと拡大し、淡紅色の粟粒大の点状皮疹が無数にみられ、徐々にびまん性となる。

 

図3 風疹(成人例、体幹)

風疹(成人例、体幹)

 

図4 風疹(成人例、上腕)

風疹(成人例、上腕)

 

検査は、麻疹と同様に血算、血液生化学、HI抗体の上昇やEIA法で風疹IgG、IgM抗体価を見る。

 

伝染性紅斑(図5図6

約2週間の潜伏期のあとに、顔面の両頰部に平手打ち様と称される紅斑が出現し、その後、四肢伸側にレース状紅斑となって拡大する。ただし成人例では、顔面の皮疹がはっきりしない場合もある。また、成人例では前駆症状として関節痛、筋肉痛、発熱などの症状が顕著である。

 

図5 伝染性紅斑(小児例、顔面)

伝染性紅斑(小児例、顔面)

 

図6 伝染性紅斑(成人例、下肢)

伝染性紅斑(成人例、下肢)

 

検査は、典型例では皮疹の性状と分布で視診のみで可能であるが、非典型例では血清のPVB19特異的IgM抗体の上昇を確認することが有用である。

 

手足口病(図7図8

3~5日間の潜伏期を経て、約半数に37~38℃の発熱、倦怠感感冒症状がみられ、1~2日間経過後に特徴的な皮疹、粘膜疹が出現する。下痢嘔吐などの消化器症状を伴う場合もある。

 

その名の示すとおり、おもに手、足および口唇、口腔粘膜に皮疹、粘膜疹を形成する。個疹は数mmの紅暈(こううん)を伴う紅色丘疹として出現し、すみやかに丘疹は水疱へと変化し、その後癒合していく。

躯幹に生じた場合、紅斑や紫斑が主となった症例も報告される。掌蹠(しょうせき)に生じた場合、皮膚紋理(皮膚の皮溝、皮丘の形成する割線方向)に長軸をとった楕円形の皮疹を呈することが多く、診断に有用な所見である。

 

図7 手足口病(成人例、手掌)

手足口病(成人例、手掌)

 

図8 手足口病(成人例、足底)

手足口病(成人例、足底)

 

また罹患後、1~3ヵ月で爪甲の横線(Beau線)、陥没、脱落が生じることも知られる。

 

検査は、伝染性紅斑同様に典型例は視診のみで可能であり不要である。非典型例については、ウイルス抗体価の上昇を確認することが診断に有用であるが、手足口病の原因ウイルスは多種であり、同定できない場合も少なくない。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法、合併症

治療は原則として安静、保温、水分・栄養の補給に努めることである。
おもな合併症を以下に列挙する。

 

①麻疹:肺炎、中耳炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が知られている。

 

②風疹:抗体のない妊婦が妊娠前半期に感染すると、白内障や先天性心疾患、難聴などの先天異常をもつ子供が生まれる可能性がある(先天性風疹症候群、CPS)。

 

③伝染性紅斑:妊娠初期の感染で胎児水腫を合併することが知られている。またPVB19は、papular-purpuric gloves-and-socks syndrome(PPGSS)や赤芽球癆(せきがきゅうろう)の原因ウイルスでもある。

 

④手足口病:口腔内の粘膜疹は強い疼痛を示すことがあり、重症例では摂食困難を訴える場合もある。まれに髄膜炎、脳炎などの中枢神経系合併症のほか、心筋炎、続発するネフローゼ症候群などの報告もある。

 

papular-purpuric “gloves-and-socks” syndrome:PPGSS

PVB19感染症に関連する症候群で、瘙痒感や疼痛を伴う紅斑と浮腫が手関節および足関節より遠位側の手足に生じ、紅斑は徐々に丘疹、紫斑へと進行する。しばしば口腔粘膜疹、リンパ節腫脹を伴う。紫斑は、免疫複合体が血管に沈着し物理刺激により形成されるといわれている。

 

治療期間・期間の見通しと予後

上述する各疾患により若干異なるが、およそ2~3週間で全身症状は軽快する。

 

看護の役割

治療における看護

本稿で述べたすべてのウイルス性発疹症に共通するが、治療の基本は安静、保温、水分・栄養補給であり、ほとんどの例が軽快することを説明する。

 

自宅で十分に安静にできない、口腔内病変、悪心・嘔吐などにより水分・食事の摂取が困難な場合には、入院のうえ個室隔離し補液を行う。

 

また、肺炎や脳炎の合併(高熱、頭痛など)が疑われる場合も入院にて慎重に経過観察とする。入院させる際には、マスク着用などを指導し、感染が拡大しないように院内マニュアルに沿った対応を心がける。

 

登校、登園について

①麻疹:解熱後3日間。
②風疹:発疹が消失するまで。
③伝染性紅斑:解熱し全身状態が改善するまで。
④手足口病:びらんがなくなり、全身状態が改善するまで。ただしウイルスの排出期間が長いので、とくに排便後の手洗いは登園、登校後も徹底する。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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