せん妄が発症するとき,細胞レベルで何が起こっているのですか?

『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、脳細胞レベルでのせん妄発症のメカニズムについて解説します。

 

せん妄が発症するとき,細胞レベルで何が起こっているのですか?

 

の細胞レベルでのせん妄発症のメカニズムについては,現在も研究途上にあります.
その中でも炎症反応により,神経伝達物質の代謝異常が引き起こされたり,血液脳関門の破綻で毒物・薬物の影響を受けやすくなったりすることが,せん妄の原因と考えられています.

 

〈目次〉

脳の細胞レベルの病態生理

せん妄を発症した患者さんの脳を細胞レベルでみた病態生理として,主に次の2つの機序の関与が提唱されています.

 

1つは「炎症反応の亢進により神経伝達物質の代謝がアンバランスになる」,もう1つは「血液脳関門の破綻により薬物や毒物の影響を脳が受けやすくなる」というものです.

 

炎症反応の亢進により神経伝達物質の代謝がアンバランスになる

患者さんの身体にストレスフルで侵襲的な刺激が重なると,視床下部を経由した神経系や内分泌系の反応を介し,脳内の神経細胞は補体炎症性サイトカインなどの炎症性因子をつくり出します.また,脳以外でも感染や生体侵襲反応,創傷治癒などの影響で炎症反応が起きている場合,免疫細胞を介して同様に炎症性因子がつくり出されます.

 

これらの炎症性因子は,神経伝達物質の代謝や吸収など,神経細胞の働きの多くに影響を及ぼします.そうすると,脳内のシナプスにおける神経伝達物質の代謝にアンバランスが生じ,せん妄の状態が引き起こされる,という仮説が提唱されています1-4)

 

具体的には,セロトニンやドパミンなどの脳内神経伝達物質の代謝が正常から逸脱するため,コリン作動性の低下や,グルタミンの分泌過剰,セロトニンやGABA(γアミノ酪酸)の活動低下または活動亢進が起こります.このような状態が,せん妄の原因となるような意識の変容や意識の混濁をもたらす可能性があります1-4)

 

血液脳関門の破綻により薬物や毒物の影響を脳が受けやすくなる

脳の血管には,血管内の薬物や毒物が脳実質に浸透しないよう,血液脳関門の機能がもともと備わっています.

 

この血液脳関門の機能が脳血管障害などによって破綻してしまうと,血液中の薬物や毒物が脳実質に浸透し,せん妄が発生することがあります.

 

炎症とせん妄に関する生理学的な研究

炎症反応により神経伝達物質の代謝異常が生じ,血漿アミノ酸の分布異常が起きる

心臓外科手術後のせん妄患者さんを対象にした研究によると,術後の炎症反応によって神経伝達物質の代謝異常が生じ,それが血漿中のアミノ酸の分布状況の異常として反映されることがあります.

 

実際に,せん妄患者さんの血漿では,中性アミノ酸に対する総トリプトファンの比率が通常よりも低くなったり,フェニルアラニンの比率が高くなったりしていることが,報告されています1-3)

 

炎症反応により血液脳関門機能が破綻し,薬物や毒物が脳に侵入しやすくなる

全身性炎症反応などがあると血液脳関門の機能が破綻してしまいます.

 

たとえば,肝不全は炎症反応も強く出るため,血液脳関門の機能も障害されます.肝不全のために高アンモニア血症になると,血液循環に乗って脳内血管に運ばれたアンモニアは,血液脳関門を通過してしまい,脳がアンモニアの作用を受けて認知機能が障害され,肝性脳症によるせん妄が発生します5)

 

全身性炎症反応やアンモニアは,好中球顆粒減少を引き起こしたり,活性酸素を末梢循環に放出したりします.そして,最終的には活性酸素が血液脳関門を越えることになります.活性酸素もまた,せん妄の原因として関与している可能性が指摘されています5)

 

コラム炎症反応はせん妄の長期化・発症率の上昇と関係する

炎症反応とせん妄との関連を示唆する根拠がいくつかあります.

 

重症患者さんのICU入室から48 時間以内のプロカルシトニンやCRP(C 反応性タンパク)の血漿レベルが高いと,せん妄や昏睡といった急性脳機能障害の期間が長期化するという関連が示されました6)

 

また,重症患者さんがICU に入室する際,入室時のCRP レベルが高いほど,ほかの諸因子の影響を除いたとしても,せん妄の発症率が高いことが報告されています7)

 


[文献]

  • 1)van der Mast RC et al:Is delirium after cardiac surgery related to plasma amino acids and physical condition? J Neuropsychiatry Clin Neurosci 12(1) : 57-63, 2000
  • 2)van der Mast RC et al:Serotonin and amino acids : partners in delirium pathophysiology? Semin Clin Neuropsychiatry 5(2) : 125-131, 2000
  • 3)Pandharipande PP et al:Plasma tryptophan and tyrosine levels are independent risk factors for delirium in critically ill patients. Intensive Care Med 35(11) : 1886-1892, 2009
  • 4)門司晃:精神疾患の神経炎症仮説.精神経誌 114(2):124-133, 2012
  • 5)Tranah TH et al:Systemic inflammation and ammonia in hepatic encephalopathy. Metab Brain Dis 28(1) : 1-5, 2013
  • 6)McGrane S et al:Procalcitonin and C-reactive protein levels at admission as predictors of duration of acute brain dysfunction in critically ill patients. Criti Care 15(2) : R78, 2011
  • 7)Zhang Z et al:Prediction of delirium in critically ill patients with elevated C-reactive protein. J Crit Care 29(1) : 88-92, 2014

 


[Profile]
綿貫 成明 (わたぬき しげあき)
国立看護大学校

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行

 

“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100

 

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