ある一般病院のせん妄ケア改善の取り組みから効果的だったこと

『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、責任者が病院全体のせん妄ケアの改善に取り組んだ実例を紹介します。

 

〈目次〉

ある一般病院のせん妄ケア改善の取り組みから効果的だったこと

宣言

病院の職員全員に対して,「これから組織的にせん妄ケアの改善を行う」ということを明確に宣言します.

 

折に触れニュースレターやホームページなどで病院の内外にせん妄ケアの改善に取り組んでいることを発信します.この宣言や発信は,病院長,看護部長など経営にかかわる管理者が行うことが重要です.職員の意識がせん妄ケアに向きますし,自尊心も高まります.キックオフシンポジウムなどを企画すると周知の効果が高いです.

 

学習支援

病院の全職員に対してせん妄の学習会を開催します.

 

このときには,多様な職種がともに,共通の内容の学習を行うことが大切です.学習の内容は,せん妄の基礎知識,J-NCS の使用目的,方法,せん妄発症因子,せん妄治療薬や睡眠導入薬の検討,日常生活機能維持など職員のニーズに応じてアレンジします.

 

レクチャーだけでなく,病棟への出前講義,個別の質問に答えるなど,さまざまな教育方法を駆使して,何度も繰り返し行うこと,職員の学習ニーズに応えることでせん妄ケアの知識が確かなものになります.

 

技術支援

学習会だけでは不十分で,せん妄ケアにかかわるテクニカル,ノンテクニカル(コミュニケーションの取り方など)スキルを病棟で直接指導したり相談に乗ることも効果的です.

 

せん妄ケアにくわしい医師,看護師,薬剤師,作業療法士などが技術支援のために現場に出向くことで,対応できます.また必要に応じてほかの専門職にどんどん依頼を出していくと,せん妄ケアに介入する職種が増え,せん妄要因への低減方法の選択肢が増えることにつながります.

 

課題解決支援

職員が基本的な知識や技術を獲得することで,現行のせん妄ケアでの解決すべき課題が浮かび上がってきます.

 

病院全体を横断的に見渡すことのできるせん妄ケア改善の担当者が,病棟ごとの課題を収集し,病院全体に適用できる解決策を立案し,治療とケアを変えていくように,病棟の代表者(多くの場合,医師と病棟看護管理者)と合意形成していきます.

 

実践改善に関する情報共有

病院のしくみをかえて,実践をよくすることにつながった事例,ほかの病棟で行って改善できた事例,あるいは失敗した事例を共有できる場と機会を積極的につくります.

 

ニュースとして発信するだけでなく,対話によって出席者が共有できるような事例検討会も有効です.

 

定期的な評価による成果の可視化と共有

せん妄ケアの改善効果を図る指標として,病棟ごとのインシデント件数とせん妄ありと判断された患者さんに起因したインシデント発生件数があります.またせん妄の発生率,せん妄の持続期間も実践改善の効果を表現するものです.

 

私たちの病院では,せん妄ケアを改善することで,せん妄を有する患者さんのインシデント件数(転倒・転落,チューブ類の計画外抜去)が有意に減少しました.

 

このような数字だけではなく,「せん妄患者さんへの対応で相談できる場があることで,安心する」,「せん妄を予測できるようになったので,慌てなくなった」というような現場の生の声を集めて分類し,発信することで成果の可視化と共有になります.

 

実践を改善するコツ

職員の抵抗感にていねいに向き合う

実践方法を変えることに抵抗のある職員,今までの方法でついつい行ってしまう職員を見逃さず,アサーティブに話し合うことが大切です.

 

考え方を変更することは容易ではありません.職員が不安に思っていること,新しい方法に対する感情的なわだかまり,信用できなさなどは,理詰めの説得では解消できません.

 

まず職員が安心して改善に取り組むことができるように,業務を整理し,迷いを許容し,患者ケアの改善に向かう意欲を高められるように労働環境を整備したうえで,話し合いをいとわないことです.

 

また一方で,どうしても考えを変えない職員にあまりエネルギーを取られないようにすることも必要でしょう.つまり,自ら,病院の理念の確認と理念に照らした現在のケアの評価ができる職員が増えていけば,抵抗勢力は力を弱めます.

 

ルールを守ることができるように支援する

治療やケアの方法を変えるには,ただ「変えましょう」ではだめです.「変えようとしたときにあると便利なツール」,「仕事のしかたを変えないと進まない環境」が必要です.

 

変えようとするときに便利なツール

たとえば,私たちは基本的な知識の中でも重要なもの,「せん妄を引き起こす薬剤リスト」「せん妄を引き起こす要因」,「せん妄ケアのフローチャート」をつくりました.またこれらはポケットに入るサイズにしていつでも携帯できるようにしました.チェックリストなども便利なものです.あくまでも現場のニーズに応じることが大切です.

 

仕事のしかたを変えないと進まない環境

たとえば,せん妄アセスメントのためのスケールを電子カルテ内に装備する,入院時のせん妄リスクアセスメントチェック表をチェックしないと,その先のカルテに進めないつくりにする,電子カルテの経過表に選択式のせん妄症状の項目を設定するなどのことは,日常業務の中に組み込むことになり,職員がルールを守らざるを得ない環境になり,効果的だと思います.

 


[Profile]
矢野かおり (やの かおり)
平塚共済病院看護部

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行

 

“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100

 

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