患者さんの状態に配慮したケア|鎮痛・鎮静管理時に注意すべき看護ケア

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、鎮痛・鎮静管理における患者さんの状態に配慮したケアについて解説します。

 

患者さんの状態に配慮したケア

1)患者さんの感受性に配慮したケア

鎮痛・鎮静されている患者さんは,痛みを感じない,不快感を覚えないから,痛みや不快感に配慮しないでケアをしても大丈夫なのでしょうか?

 

それは違います.むしろ,鎮痛・鎮静されているからこそ,より愛護的にケアすることが大事です.

 

たとえば,鎮静薬によって鎮静はされていますが,気管チューブの違和感・痛みや術後創部痛に対する鎮痛が十分ではない状態の患者さんに対して清拭を行った場合,体動に伴う疼痛があるかもしれません.しかし,鎮静されているため,その痛みを訴えることができません.

 

また,鎮痛・鎮静されていても,体を動かせない苦痛,慣れない環境や治療への不快感・ストレスを感じているものです.

 

患者さんはうまく訴えられませんので,看護師からニードを引き出し,緩和する姿勢が必要です.

 

ICUに入室し,人工呼吸管理を始めたからといって,鎮静薬でベッド上安静を強いり,気管挿管中だから動けないのはしかたがない,訴えられないのはしかたがない,よくなるまで我慢してもらうしかしかたがない,とわれわれ看護師は決めつけてはいないでしょうか?

 

2)患者さんへの侵襲に配慮したケア

重症患者さんへのケアは,そうでない患者さんにとっては些細なことでも,その実施を慎重に判断しなければなりません.

 

たとえば,日常的に行われるケアの清拭を考えてみます.

 

清拭を行う場合は衣服の着脱を行わなければなりませんが,それには,静脈点滴ライン動脈留置ラインを一度外す必要が生じることもあります.ラインを外した部分の汚染は免れず,感染のリスクが高まります.また,カテーテルが予定外に抜けてしまうこともあります.少なからず体動を伴うことで,痛みや筋収縮から酸素消費量も増えるでしょう(酸素消費量増大が問題となるような場合では鎮静薬を考慮する必要が生じます).

 

これらのデメリットが清拭で得られるメリットを上回るのであれば,清拭をすべきではありません.

 

早期離床についても同様です.

 

本連載でこれまで繰り返し述べてきたように,人工呼吸管理中にベッド上で安静を強いられていた患者さんを離床させることはとても重要ですが,手段が目的になっては本末転倒です.

 

人工呼吸管理中の患者さんを離床させることは,気管チューブやルートドレーンの計画外の抜管や,呼吸・循環に過度な負荷を与えるなど,リスクを伴うものです.

 

安全に実施できるか基準を定め,それに従って多職種で検討し,実施の可否を判断することが大切です.

 


[引用・参考文献]

 

  • 1)パトリシア・ベナー著,井部俊子監訳:ベナー看護論,新訳版,医学書院,p.56,2010
  • 2)福田友秀ほか:集中治療室入室を経験した患者の記憶と体験の実態と看護支援に関する研究.日クリティカルケア看会誌 9(1):29-38,2013
  • 3)卯野木 健ほか:ICU 退室後の神経精神障害―外傷後ストレス障害と認知機能障害. 日集中医誌 17(2):145-154,2010

 


[Profile]
嶋田 一光 (しまだ いっこう)
日本医科大学付属病院救命救急センター

 

剱持 雄二 (けんもつ ゆうじ)
東海大学医学部付属八王子病院ICU・CCU
集中ケア認定看護師

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

 

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

 

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