ARDS(急性呼吸促迫症候群)の鎮痛・鎮静管理

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、ARDS(急性呼吸促迫症候群)の鎮痛・鎮静管理について解説します。

 

〈目次〉

ARDS(急性呼吸促迫症候群)の病態生理

急性呼吸不全とは,さまざまな原因から急激な発症形態を示す病態の総称です.

 

ARDS(acute respiratory distress syndrome,急性呼吸促迫症候群)は,非心原性の肺水腫による急性の呼吸不全を特徴とする病態です.急性肺損傷(ALI:acute lung injury)という用語を用いて,ALI/ARDSとも呼ばれます.死亡率が高い予後不良な病態です.

 

原因には,肺自体に疾患をもつことで引き起こされる直接損傷(肺炎誤嚥)と,肺以外に疾患をもち引き起こされる間接損傷(敗血症,外傷や熱傷)があり,どちらの場合も,原疾患がコントロールされていなくては,ALI/ARDSを改善することはできないと言われています.

 

直接損傷と間接損傷いずれにしても,肺胞にある血管内皮細胞が損なわれて血管透過性が亢進し,血管内の水分が肺胞腔に移動・貯留した状態になる急性肺水腫がもたらされます(図1).

 

図1健康時と肺水腫時の比較簡略図

健康時と肺水腫時の比較簡略図

 

肺水腫になると,正常な換気が行われず,呼吸不全になります.心不全によるうっ血が原因の肺水腫とは異なるため,非心原性肺水腫と言われることもあります.

 

発症経過から病期が分けられ,急性期(滲出期,発症から3~7日以内),亜急性期(増殖期,発症から7~21日),慢性期(線維化,21~28日以降)に分類されます.

 

現在用いられている診断基準は急性発症,胸部X 線撮影による両側の浸潤影,低酸素血症(P/F 比300以下でALI,200以下でARDS)であり,心機能評価では左心房圧の上昇(18mmHg 以上)の所見がない(左心不全ではない)ことです.

 

ARDS(急性呼吸促迫症候群)の鎮痛・鎮静管理の目標

①鎮痛管理

ARDSは低酸素血症を伴うため,原疾患が改善するまでは気管挿管や人工呼吸管理が必要となってきます.

 

ARDSにおける苦痛には,ARDSそのものによる呼吸困難や,人工呼吸管理における苦痛や疼痛(人工呼吸管理中の患者の鎮痛・鎮静管理参照)があります.それらの苦痛が持続的に起これば,ストレス反応が起こります.そのため,まず疼痛に対して適切に鎮痛管理をしなければなりません.

 

②鎮静管理

急性期では,進行する低酸素血症の改善と肺実質へのさらなる障害を避けるため,人工呼吸器は自発から調節換気へと変更され,鎮静レベルはやや深くする傾向があります.

 

そのため,医師と早期から目標とする鎮静レベルを検討し,深い鎮静が長期間そのままにならないようにします.

 

亜急性期から慢性期にかけては,肺の器質化に伴うコンプライアンスの低下から呼吸困難感は継続しており,通常,人工呼吸管理が継続されていますが,離脱に向けた鎮静管理を医師と検討します.

 

いずれの時期においても,患者さんの状態にあった鎮静薬の投与量を判断するために,RASS を用いた評価や,患者さんが訴えることができる鎮静レベルであれば訴えを聞くことが必要になります.

 

one point最新のARDSの診断基準

2012年に,欧州集中治療医学会から新しいARDSの診断基準が発表されています(ベルリン定義:Berlin Definition).

 

基準は,発症が1週間以内で,胸部X 線で両側肺浸潤影(胸水や無気肺,結節性で説明がつかない),心不全や輸液過多で説明されない肺水腫(ARDSの危険因子がない場合は心エコーで心原性肺水腫を否定する)です.

 

また,PEEP使用下での酸素化の程度によって,軽症,中等症,重症に分類しています.ALIという概念はなくなりました(谷口博之:急性呼吸不全とARDS.呼吸器疾患最新の治療2013-2015,p.203-207,南江堂,2013).

 

いくつかの項目(期間,PEEPやFIO2,肺動脈カテーテルの使用,心不全・多量輸液に関してなど)で定義が明白になったことで,今後,ARDSの研究が進み,さらに有効な治療方法が明らかになっていくと考えられます.

 


[Profile]
嶋田 一光 (しまだ いっこう)
日本医科大学付属病院救命救急センター

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

 

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

 

SNSシェア

看護知識トップへ