生活リズムと生活機能を維持・回復することは,せん妄患者さんにとってどのような効果があるのですか?
『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、せん妄と生活リズムの関連について解説します。
生活リズムと生活機能を維持・回復することは,せん妄患者さんにとってどのような効果があるのですか?
せん妄は生活リズム障害の結果でもあり原因でもあります.
生活リズムと生活機能は相互に影響し合っています.患者さんの生活リズムと生活機能を立て直すことは,せん妄からの回復を促進し,重症化の予防につながります.
〈目次〉
せん妄は生活リズム障害の結果でもあり,原因でもある
入院治療は,多くの患者さんにとって全人的苦痛の伴う非日常的なイベントであり,患者さんの生活リズムが崩れる要因となりえます.
睡眠が中断されることが続いたり,苦痛が続いたりすることはせん妄の誘発因子です.すなわち,せん妄は生活リズム障害の結果です.
また,せん妄は,症状として昼夜の逆転,過活動,低活動などを引き起こし,生活リズム障害が形成されていきます.すなわち,せん妄は生活リズム障害の原因にもなります.
生活リズムと生活機能は相互に影響す
生活リズム障害とは,日常性の維持が困難な状態になることです.
生活リズムが崩壊すると,適切な活動と休息ができなくなります.痛みで眠れない,体が痛い,食事が食べられない,せん妄になるという状態はその人を消耗させ過労状態を引き起こします.
一方,低活動型せん妄による傾眠,過活動型せん妄に対しての過鎮静あるいは行動抑制は廃用を引き起こします.過労も廃用も長引くことで活動耐性の低下を招き,生活機能を障害し,日常生活動作がむずかしくなります.日常生活動作が困難となれば,生活リズムはますます障害されます.
このように,生活機能と生活リズムは相互に影響し合っているのです.
日常性を維持する,あるいは取り戻す
せん妄という非日常的な状態に陥ることのないように,あるいは早期に離脱できるようにするためには,日常性を維持するという考え方が重要です.
なるべく患者さんの睡眠・覚醒,食事・排泄のリズムを維持し,回復させ,日常生活を心地よく送ることができるということを念頭に置いてバランスを取りましょう.
起きている時間が患者さんにとって安全,安楽で心地よい状態となるように体調と環境を整えることが重要です.
やってはいけない
患者さんの不快な状態を長引かせてはいけません.過労状態なのに「夜眠れなくなるから」と車いすに乗せて,勤務室に連れてきて,「起こしておく」というような対応は患者さんにとって不快であるばかりでなく過労状態を増強させます.
[Profile]
酒井 郁子 (さかい いくこ)
千葉大学大学院看護学研究科
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行