鎮静し過ぎると何がいけない?

『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座』より転載。
今回は、過鎮静による弊害について解説します。

 

これだけはおさえておこう

  • 鎮静薬による鎮静の弊害には,鎮静薬そのものによる弊害と,過鎮静による弊害がある.
  • 過鎮静は,患者さんに直接的に悪影響を及ぼし,また,医療者の管理・治療を難しくします.

 

〈目次〉

「鎮静薬による鎮静の弊害」とは

「鎮静薬による鎮静の弊害」には,大きく2つあります.

 

鎮静薬そのものによる弊害(副作用)と,過鎮静による弊害です.

 

図1鎮静薬による鎮静の弊害

鎮静薬による鎮静の弊害

 

前者の「鎮静薬そのものによる弊害(副作用)」については,イメージしやすいと思います.くすりですから,少なからず副作用はあるものです.

 

一方,「過鎮静による弊害」ですが,過鎮静とは深い鎮静のことで,患者さんが呼びかけまたは疼痛刺激に反応しないレベルです.RASSで言うと-3から-5です.過鎮静では,患者さんは覚醒できず,不動化します.そうなると,患者さんに直接弊害が発生し,医療者の管理・治療も難しくなります.

 

逆に,浅い鎮静とは,呼びかけで覚醒可能で,アイコンタクトやコミュニケーションが可能なレベルです.RASSでは-1か-2です.

 

それでは,具体的にみていきましょう.

 

鎮静薬そのものによる弊害(副作用)

鎮静薬はそれ自体に弊害(副作用)があります.

 

たとえば,健忘,記憶の欠損を起こしたり,頻脈頻呼吸,あるいは徐脈(呼吸抑制)などの生命にかかわる症状を引き起こしたりすることもあります.また,せん妄の原因にもなります.

 

鎮静薬の種類によって副作用や注意点は異なりますので,投与中の鎮静薬の特徴を把握して,患者さんの観察を行う必要があります.個別の薬剤の注意点は,「鎮静薬には何がある?」で確認してください.

 

過鎮静による弊害①患者さんに直接生じる弊害

過鎮静にされることで,以下のようにさまざまな弊害が患者さんに生じます.これをみるだけでも,過鎮静がよくないことは明らかでしょう.

 

  • 人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)のリスク1)が高くなる.
  • 不動化に伴い,廃用性障害(筋力低下,関節拘縮など)や褥瘡,DVT(深部静脈血栓症)などが生じる.
  • 呼吸抑制などの鎮静薬の副作用が強く生じるおそれがある.
  • 患者さんの自己コントロール感を奪い,大きなストレスとなる.
  • せん妄が生じるリスクが高まる.

重症患者さんにとって,肺炎は命にかかわりますので,VAP の発生は重大な弊害と言えます.

 

廃用性障害は患者さんの長期的なQOLにかかわります.また,ICU-AW(ICU-acquired weakness)という全身の筋力低下を生じる神経・筋障害にまで進行するおそれがあります.

 

DVTによる血栓は,致死率のかなり高いPE(肺塞栓)の原因になります.

 

自己コントロール感とせん妄については,後ほど改めて解説します.

 

one point

VAP(人工呼吸器関連肺炎)予防には,手指衛生,胃液の逆流による誤嚥を減らすようヘッドアップを行う,気管チューブのカフ圧の管理をこまめにする,歯科連携による口腔ケアを行う,などがあります.

 

循環動態の変化(血圧低下,徐脈など),心電図変化が予測される場合は,注意してアセスメントし,早期発見・早期対応に努めます.

 

不動化に伴う廃用性障害や褥瘡,DVTには,それぞれ,早期離床や他動運動,受動的ROM(関節可動域)訓練,体位調整・除圧,弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置(フットポンプ)の使用などの予防策をとり,早期の発見に努めます.

 

過鎮静による弊害②医療者の管理・治療に対する弊害

過鎮静になると,患者さんの意識がないため,患者さんの評価が非常に難しくなります.

 

たとえば,不穏に対して鎮静薬によって過鎮静になっていたとすると,不穏がそれ以上表に出ず,不穏の原因が低酸素血症やアシドーシスといった生理学的な要因であった場合に,検索する機会を失い,それらを見逃す危険性があります.

 

また,「鎮静薬には何がある?」で述べたように,痛みは鎮静薬によって抑えることはできません.過鎮静になってしまうと,実際には患者さんが痛みを感じていても表情や体動などに現れないため,適切な疼痛評価・鎮痛管理ができず,それが不穏・せん妄の原因になることが考えられます.

 

神経学的徴候の変化も見逃します.たとえば意識障害血管疾患含む)があった場合に,鎮静が深いと意識状態,言語,脳神経,運動系,感覚系,反射,協調運動などの神経学的所見の変化がわからなくなります.

 

過鎮静による弊害③患者・医療者間の意思疎通への弊害

深い鎮静でまったく動かない患者さんとは,医療者は関係性を築くことができません.

 

医療者は,患者さんにオリエンテーションが行えず,インフォームドコンセント(説明と同意)も行えません.

深い鎮静と浅い鎮静

 

鎮静と自己コントロール

ICUにおける患者さんの苦痛を調査した報告によると,痛み,恐怖,不安,緊張,不眠,話ができない,自分で自分のことができないなどの自己コントロール感の不足,機器のアラーム音,口渇などの苦痛を経験しています2,3)

 

ここで注目してほしいのは,自己コントロール感の不足です.

 

私たちは,安易に「今から身体を拭きますね」,「横に向けますね」といったようにケアを進めますが,患者さんにとっては自分で自分のことができない,コントロール感の不足に苛まれているのです.

 

ストレスフルな体験は生理的反応の変化も起こしていきます.

 

  • 内因性カテコラミンの増加(末梢血管の収縮・組織還流の低下),血圧の上昇,頻脈,呼吸数の増加
  • 異化亢進高血糖筋肉組織を含むタンパクの分解,創傷治癒の遅延,感染のリスク増加)

自己コントロール感の不足により精神的に安寧が保てないでいると,患者さんの意思で治療に参加しよう,ケアに参加しようという気力が起こらず,早期回復に向けたケアや理学療法などへの参加が阻害されてしまいます.

 

鎮静とせん妄の関係

せん妄は,幻覚や妄想,怒り,抑うつ,思考の混乱などのさまざまな症状を伴う急性の意識障害です.

 

せん妄を発症すると,自己・事故抜去や転落などの危険性が高まり,抑制(過鎮静を含む)せざるを得なくなることもありますので,重症患者さんの管理において,せん妄はなるべく発症させたくない症状の1つです.

 

せん妄が発症するくわしいメカニズムはわかっていませんが,さまざまな要因によって引き起こされるとされています.その大きな要因とされているものに,ストレスや不安,睡眠覚醒リズム障害,薬剤の影響があります.

 

適正な鎮静を行えば,患者さんのストレスや不安が軽減でき,睡眠も改善し,せん妄や不穏をおさえる効果が期待されます.

 

一方で,過鎮静になると,睡眠覚醒リズムが乱され,自己コントロール感の不足によるストレスも高まり,また,鎮静薬そのものの影響も強くなり,せん妄の発症リスクになります.

 

つまり,深い鎮静はせん妄を起こりやすくさせ4),せん妄があるとさらに鎮静が必要になるため,悪循環に陥る危険があります.

 


 


[Profile]
剱持 雄二(けんもつ ゆうじ)
東海大学医学部付属八王子病院ICU・CCU 集中ケア認定看護師

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~』(監修)道又元裕、(編集)剱持雄二/2015年2月刊行

 

基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~

 

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