せん妄と認知症の違いは何ですか?

『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、せん妄と認知症の違いについて解説します。

 

せん妄と認知症の違いは何ですか?

 

せん妄も認知症も,ともに認知機能(記憶,見当識,注意集中など)を障害する疾病として,もっとも一般的なものです.
しかし,両者は原因,経過などが異なり,前者では注意力,後者では記憶力が主に侵されます.

 

〈目次〉

せん妄と認知症は,発症や症状の変動・持続性の違いに着目

せん妄と認知症は,認知機能が障害される点で症状が似ており混同されやすいものですが,原因,経過などはかなり異なります.

 

せん妄は典型的には,時として生命にかかわる急性疾患や中毒,慢性疾患の進行に伴って,比較的急激に発症し,しばしば可逆的であるのに対し,認知症は典型的には,の神経細胞の変性や脳血管病変によって生じ,発症がより緩徐で,一般に非可逆的です.

 

そのほかにも特異的な特徴があります(表1).

 

表1せん妄と認知症の違い

せん妄と認知症の違い

 

せん妄と認知症の鑑別はむずかしい

上記のような違いがある一方で,せん妄と認知症はしばしば合併し,認知症の患者さんはせん妄を引き起こしやすく,またせん妄症状を特徴とした認知症のタイプがあります.

 

このことが,臨床現場において両者の鑑別をむずかしくしています.

 

やってはいけない

高齢の入院患者さんが興奮して言葉やふるまいに混乱がみられる場合,現れている症状を「認知症」によるものとして,原因精査や対応をおろそかにしてしまうと,せん妄を見逃し,治療の可能性を逸してしまうばかりか,基礎疾患の重篤化をまねくことがあります.

 

せん妄の症状である可能性も考え,身体診察,諸検査,現在の症状(とくに症状経過)はもとより,詳細な病歴やもともとの生活機能を把握することが大切です.

 

“せん妄と認知症は併存することがある”を念頭に

せん妄の多くは,急性,一過性,可逆性の症状であり,早期発見・早期介入により,基礎疾患の重篤化や,転倒や転落などの院内事故を防ぐことが可能なことから,認知症との違いを見極め,迅速に適切な対応を図ることが重要とされています.

 

しかし,せん妄と認知症のどちらか一方のみであると診断すればよいのではなく,両者の併存を常に念頭に置くことが大切です.

 

2012年時点で,わが国の65歳以上の認知症の有病率は約15%(約462万人)と推定されています.いくつかの報告によれば,わが国の認知症患者さんの15~20%にせん妄を認めています.認知症は,せん妄の準備因子の代表的なものなのです.

 

医療サービスを受ける方の多くは高齢者であり,認知症の併存は避けられません.結果,認知症とせん妄が合併することが多くなるのは当然ともいえます.

 

「入院したから認知症になった」と誤解されないために

せん妄がいったん収束しても,記憶力や生活機能の障害が前面に現れ,この時点で初めて認知症だったことがわかるという事例によく遭遇します.

 

患者家族としては,「入院や治療を受けたら認知症になった」「くすりを飲んだら認知症になった」と誤解して医療への不安・不信にかられます.

 

このような問題を避けるために,高齢者では,入院時面接・診察の際に,自宅での生活機能を聞き,認知機能をあらかじめ評価し,本人,家族と情報を共有しておくことが大切です.

 

一方で,『せん妄』が中核症状の1つである,レビー小体病という認知症のタイプが最近注目を集めています.

 

病初期には記憶障害が目立たないことがある反面,典型的には,日中傾眠と幻視を伴う夜間せん妄を繰り返し,抗精神病薬により容易にパーキンソン症状を呈します.せん妄とは,経過も治療方法もまったく異なりますので,この疾患の鑑別も念頭に置くべきでしょう.

 


[文献]

  • 1)金子 稔,天野直二:高齢者せん妄を伴う認知症.老年精神医学雑誌17(6):616-623,2006

 


[Profile]
渡邉 博幸
千葉大学社会精神保健教育研究センター

 

*所属は掲載時のものです。

 


本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行

 

“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100

 

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