白血病に関するQ&A
『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。
今回は「白血病」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
〈目次〉
- 1.白血病ってどんな病気?
- 2.白血病はどのように分類されているの?
- 3.白血病ってなにが原因なの?
- 4.白血病ってどんな症状が出現するの?
- 5.白血球が減少するとなぜ感染症状が出現するの?
- 6.赤血球が減少するとなぜ貧血症状が出現するの?
- 7.血小板が減少するとなぜ出血傾向になるの?
- 8.白血病に特徴的な検査所見は?
- 9.白血病にはどんな治療が行われるの?
- 10.分子標的治療ってどんな治療?
- 11.化学療法ってどうするの?
- 12.造血幹細胞移植ってどうするの?
- 13.白血病の看護のポイントは?
白血病ってどんな病気?
白血病は、多能性造血幹細胞が骨髄で分化する過程において腫瘍化(白血病細胞)し、増殖した状態です。血液の癌とも呼ばれています。
骨髄で白血病細胞が増殖すると、正常な血液細胞が作られる場所がなくなり、正常な白血球、赤血球、血小板が減少し、さまざまな症状が出現します(図1)
(勅使河原薫:白血病。看護過程セミナー、統合改訂版、p.602、医学芸術社、2006より改変)
白血病はどのように分類されているの?
白血病は細胞の種類による分類があり、腫瘍化した細胞が顆粒球の場合は骨髄性白血病、リンパ球の場合はリンパ性白血病、単球の場合は単球性白血病といいます(表1)。
骨髄性白血病とリンパ性白血病の発生率は、成人では4:1、小児では1:4です。
また、細胞の分化・成熟段階による分類があり、分化していない未熟な段階である芽球(がきゅう)が腫瘍化したものを急性白血病、分化した成熟細胞が腫瘍化したものを慢性白血病といいます。
芽球は細胞分裂が盛んなため、急性白血病は一般的に進行が早く、成熟細胞は細胞分裂をほとんどしないため、慢性白血病は一般的に進行が遅いのが特徴です。急性白血病と慢性白血病の発生率は、約4:1です。
上記2つの分類を組み合わせ、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などといいます。
メモ1白血病の分類
赤血球と血小板の未分化な細胞が腫瘍化したものをそれぞれ赤血病性白血病、後者を巨核芽球性白血病という。
メモ2成人T細胞白血病(ATL)
レトロウイルスである成人T細胞白血病ウイルスの感染によって、リンパ球のT細胞が異常を起こす白血病。日本人に多く、40歳以上の成人に発症。母親がATLウイルスに感染している場合には、母子感染を防止するため母乳は与えないようにしましょう。
白血病ってなにが原因なの?
白血病は、他の悪性腫瘍と同様に、細胞分裂の際の突然変異が原因です。突然変異には、遺伝的素因、放射線や化学物質などの外的因子、ウイルス感染などが複雑に関与しています。
白血病ってどんな症状が出現するの?
白血病の症状としては、白血球減少による感染症状(発熱など)、赤血球減少による貧血症状(全身倦怠感、めまい、動悸、息切れなど)、血小板減少による出血傾向(点状出血など)が認められます。
また、白血病細胞が臓器に浸潤し、脾臓や肝臓が腫大したり、機能障害が起こります。
メモ3出血傾向
出血傾向とは、出血しやすい状態のことをいう。具体的には、①わずかな外力でも出血する、②わずかな外力でも多量に出血する、③少量の出血でも止血できず、じわじわ出血する、④いったん出血しても再び出血するという状態である。
白血球が減少するとなぜ感染症状が出現するの?
白血球が減少すると感染症状が出現するのは、白血球が、免疫のおもな担い手だからです。免疫とは、体内に侵入(出現)した異物を認識し、それを排除して生体を守ろうとする働きです。
免疫の働きを復習してみましょう。生体は何重もの免疫で病原微生物から身を守っています。
第1のバリアは、皮膚や粘膜です。全身をおおう皮膚は厚い細胞層で病原微生物の侵入を防いでいます。また、たとえば気道粘膜は線毛運動によって病原微生物を体外に排出し、胃粘膜は胃酸を分泌して殺菌します。
病原微生物が皮膚や粘膜のバリアを通過して体内に侵入し、細胞を傷害すると、毛細血管内から好中球が真っ先に局所に移動します。好中球は病原微生物を細胞内に取り込んで処理し(貪食/どんしょく)、自滅します。好中球が病原微生物を殺菌できなければ、単球が組織内でマクロファージになり、病原微生物を貪食します。同時に、マクロファージは病原微生物のかけらを細胞表面に揚げて(抗原提示)、リンパ球に応援を求めます。
リンパ球のおもな働きは、ウイルス感染細胞を傷害し、また、抗体を産生することです。抗体とは、抗原に特異的に結合するタンパク質で、血清タンパク質中のガンマグロブリン分画にあることから、免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)とも呼ばれています。抗体は、抗原に結合して病原微生物の毒素を中和するなどの働きをします。
このように、白血球は免疫になくてはならない細胞です。白血球が減少すると感染しやすい状態になり、その状態を易感染性といいます。易感染性になると、容易に病原微生物に感染し、発熱などの症状が出現します。
赤血球が減少するとなぜ貧血症状が出現するの?
赤血球の減少にともない、貧血が出現するのは、赤血球の減少によって、酸素と二酸化炭素の運搬が障害されるためです。
酸素と二酸化炭素を運搬しているのは、赤血球のおもな構成成分であるヘモグロビンです。ヘモグロビンは、肺で酸素を受け取って全身の組織に酸素を運搬し、組織で生じた二酸化炭素を肺に運ぶ働きをしています。
この働きが障害されると、組織に二酸化炭素が蓄積して酸素不足になります。その結果、易疲労感、全身倦怠感、めまい、顔面などの蒼白、という症状が出現します。また、組織が酸素不足になると、心臓は心拍数を増やし、組織への酸素供給量を維持しようとします。その結果、頻脈、息切れ、動悸などの症状が現れるのです。
血小板が減少するとなぜ出血傾向になるの?
血小板の減少に伴い出血傾向になるのは、血小板が、血漿中の血液凝固因子とともに、止血に重要な役割を果たしているからです。
止血は、一次止血と二次止血の2段階で行われ、血小板は一次止血にかかわっています(図2)。
①一次止血:血管が傷害されて出血すると、3〜4分で血管の収縮が起こり、血液量が少なくなります。その後、血小板からセロトニンという物質が放出されて、血管収縮が起こります。また、血小板が傷害組織に凝集してゼリー状に固まり(一次止血、血小板血栓)、傷口を塞ぎます。
②二次止血:血液凝固因子が複雑に関係し合いながら行われます大きくは内因系と外因系に分かれます。内因系は血液が異物面に接触することによって、外因系は血液と組織液が混じることによって、血液凝固因子が活性化します。
最後は、プロトロンビンがフィブリノゲンを活性化します。それによってフィブリノゲンが糸状の線維素(フィブリン)に変化して凝固し、止血が完了します(二次止血、フィブリン血栓)。
白血病に特徴的な検査所見は?
慢性骨髄性白血病は、末梢血中にさまざまな成熟段階にある細胞が出現しています。また、多くのケースに、白血病細胞の増殖を促すフィラデルフィア染色体が認められます。
急性骨髄性白血病は、末梢血に芽球と成熟好中球のみが発現し、中間の成熟段階にある細胞が見られません。このような中間の成熟段階にある細胞の減少を白血病裂孔(れっこう)といいます(図3)。
慢性リンパ性白血病は、発症すると、白血球数が50,000〜200,000/μLにまで増加します。急性リンパ性白血病は、末梢血中と骨髄でリンパ芽球が優位を占めます。
白血病にはどんな治療が行われるの?
白血病に対する治療には、化学療法、放射線治療、造血幹細胞移植法などがあります。治療の目的は、白血病細胞の根絶です。
分子標的治療ってどんな治療?
慢性骨髄性白血病の細胞は、フィラデルフィア染色体という異常があります。この染色体に対して特異的に効果を発揮する薬剤が開発され、現在では慢性骨髄性白血病の治療薬として第1選択薬となっています。このような、ある特定の分子を標的として、その機能を制御することによる治療を分子標的治療といいます。
化学療法ってどうするの?
急性白血病には、何種類かの抗がん薬を組み合わせて使用する多剤併用療法がおもに行われます。慢性白血病には、単剤での与薬やインターフェロンなども使用されることがあります。
いずれの薬物にも副作用があり、また抗がん薬によって骨髄抑制がおこるため、成分輸血などを行います。このような副作用に対する治療を支持療法といいます。
化学療法には寛解(かんかい)導入療法と寛解後導入療法の2段階に分けて実施されます。
寛解導入療法は、完全寛解をめざして行われる療法です。完全寛解とは、骨髄の中の白血病細胞が骨髄総細胞数の5%未満に減少し、末梢血・骨髄が正常化し、白血病の症状がなくなった状態のことです。しかし、完全寛解が得られても、体内には白血病細胞が残っています。残っている白血病細胞を根絶するために、繰り返し行われるのが寛解後導入療法です(図4)。
(勅使河原薫:白血病。看護過程セミナー、統合改訂版、p.605、医学芸術社、2006より改変)
造血幹細胞移植ってどうするの?
造血幹細胞移植は、大量の化学療法や全身の放射線治療により、全身の骨髄組織を消滅させた後、正常な造血幹細胞を静脈から注入します。
すると、何もなくなった骨髄に健康な造血幹細胞が生着し、健康な造血組織が血球を回復させます。
骨髄中の造血幹細胞を注入する場合は骨髄移植、末梢静脈中の幹細胞を注入する場合は末梢血幹細胞移植、臍帯(さいたい/へその緒)の幹細胞を注入した場合は臍帯血移植といいます。
メモ6造血幹細胞移植
・同種移植:ヒト白血球抗原(HLA)の一致した血縁者または他人の細胞を移植する。適合したドナーが見つかるとは限らず、またGVHD(移植片対宿主病)が起こることがある。
・同系移植:一卵性双生児の細胞を移植する。HLAは完全に一致。
・自家移植:自己の細胞を移植する。化学療法後、正常と思われる造血幹細胞を採取し、薬剤で処置した後に冷蔵保存して用いる。移植細胞に白血病細胞が残っていることがある。
白血病の看護のポイントは?
患者が病気のことが理解でき、自分の意思で治療法が選択できるように支援しましょう。
化学療法や造血幹細胞移植法では、骨髄抑制のために易感染性、出血傾向になりやすく、感染や出血の予防が重要です。また、抗癌薬の副作用である脱毛、悪心・嘔吐などへの援助も必要です。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版