脳梗塞に関するQ&A
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今回は「脳梗塞」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
〈目次〉
- 1.脳梗塞ってどんな病気?
- 2.脳梗塞って何が原因なの?
- 3.脳梗塞にはどんな種類があるの?
- 4.脳梗塞ではどんな症状が出現するの?
- 5.前頭葉が障害されるとどうなるの?
- 6.頭頂葉が障害されるとどうなるの?
- 7.側頭葉と後頭葉が障害されるとどうなるの?
- 8.視床や視床下部が障害されるとどうなるの?
- 9.大脳基底核が障害されるとどうなるの?
- 10.大脳辺縁系が障害されるとどうなるの?
- 11.小脳が障害されるとどうなるの?
- 12.脳幹が障害されるとどうなるの?
- 13.脳梗塞が起こるとなぜ頭蓋内圧が亢進するの?
- 14.頭蓋内圧が亢進するとどうなるの?
- 15.脳梗塞にはどんな検査が行われるの?
- 16.脳梗塞にはどんな治療が行われるの?
- 17.脳梗塞の看護のポイントは?
脳梗塞ってどんな病気?
脳梗塞とは、脳の動脈が詰まることによって、その血管が支配する脳細胞が虚血状態になり、壊死した状態です。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血を合わせて脳血管障害といいます。脳梗塞は脳血管障害の中で最も発症率が高く、約75%を占めます。脳出血は15〜20%、くも膜下出血は5〜10%前後です。また、脳血管障害の中で最も死亡率が高いのも脳梗塞です。
脳梗塞って何が原因なの?
脳梗塞の原因は大きく2つに分かれます。
1つは動脈硬化です。動脈硬化によって血管内腔が狭くなり、ついに閉塞してしまいます。これを脳血栓といいます。
もう1つは、血栓による閉塞です。これを脳塞栓といいます(図1)。
脳梗塞にはどんな種類があるの?
脳梗塞は、閉塞の原因により、①アテローム血栓性脳梗塞、②心原性脳梗塞、③ラクナ梗塞(メモ1)、の3つに分類されています(図2)。
①アテローム血栓性脳梗塞:脳や頚部の比較的太い血管が動脈硬化を起こし、その部位に血栓が生じたり、あるいは血栓が剥がれて先端の血管で塞栓を起こします。
②心原性脳梗塞:心房細動、心筋梗塞、弁膜症などにより生じた心臓内の血栓が、脳動脈に流入して塞栓を起こします。梗塞は大きな範囲に及びます。
③ラクナ梗塞:主幹動脈から垂直に枝分かれする、脳の深部にある細動脈に血栓が生じ、小さな範囲の梗塞が起こります。
脳梗塞の初期症状は、身体の痺れ、舌のもつれ、脱力感、意識混濁などです。
脳梗塞ではどんな症状が出現するの?
脳梗塞は、初期症状の後、様々な機能障害が出現し、ほとんどは後遺症になります。出現する機能障害は、血流が途絶えた血管の支配領域によって異なります。アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞は、徐々に症状が進行するケースが多く、心原性脳梗塞は、突然、激しい症状が現れるのが特徴です。また、頭蓋内圧が上昇するために、頭痛、悪心・嘔吐が出現します。
前頭葉が障害されるとどうなるの?
前頭葉には、手、足、体幹などの運動中枢、運動性言語野(ブローカ中枢)があります。また、意欲、感情、思考、学習、注意などの機能が集中しています。したがって、前頭葉が障害されると、運動麻痺や運動性失語症、性格・人格の変化、情緒障害などが出現します。
運動麻痺は、反対側に現れます。たとえば、右脳の前頭葉が障害されると、左側の運動機能が麻痺します。それは、大脳皮質から伸びている運動神経が、延髄の錐体で交叉し(錐体交叉)、反対側に伸びているからです。神経細胞の交叉は、知覚神経も同様です(図3)。
運動性失語症は、優位半球(メモ2)の障害で起こります(表1)。失語症は話す、書く、読む、聞くという4つの機能が全般に障害されます。
運動性失語症の特徴は、相手の話していることは比較的理解できますが、自分が話すときにスラスラと言葉が出ずに口ごもったり途切れたりすること、読み書きは漢字よりひらがなが困難になることです。
頭頂葉が障害されるとどうなるの?
頭頂葉には、おもに、触覚、痛覚、圧覚、温度感覚などの体性感覚を感じる働きや、身体の姿勢や手足の位置を認識する空間的認識などの働きがあります。
頭頂葉が障害されると、知覚障害、失行症、失認症、ゲルストマン症候群などが出現します。失行症は、運動機能には障害がないのに、目的にあった動作や行動ができない状態です。衣服をうまく着られなく着衣失行症などがあります。失認症は、視覚や聴覚などには異常はないのに、その感覚情報が何かわからない状態です。見えているのに、それが何かわからない視覚性失認症や、空間における物の位置関係がわからなくなる視空間失認症(半側空間無視)などがあります。
ゲルストマン症候群とは、失書(書けない)、失算(計算ができない)、左右失認(左右がわからない)、手指失認(手指が認識できない)が出現している状態です。
側頭葉と後頭葉が障害されるとどうなるの?
側頭葉には、聴覚、嗅覚の中枢、聴覚性言語野(ウェルニッケ中枢)があります。
側頭葉が障害されると、聴覚障害や感覚性失語症などが出現します。感覚性失語症は、優位半球の障害によって起こります。運動性失語症とは異なり、簡単な言葉の意味もわからなくなることが多いです。言葉はスラスラ出てきますが、言葉を思い出せないために代名詞が多くなったり、錯語が見られます。また、読み書きにおいても、錯読や錯書が目立ちます。
後頭葉が障害されると視覚障害や視覚性失認症などが出現します。
視床や視床下部が障害されるとどうなるの?
視床は、嗅覚を除くすべての知覚情報を脊髄や脳幹から中継して、大脳皮質につないでいます。視床下部は自律神経をつかさどり、生体の恒常性を保ち、摂食、睡眠、体温などを調節しています。また、ホルモンの分泌をコントロールしています。
視床が障害されると、知覚過敏、縮瞳(しゅくどう)、内下方への共同偏視が現れます。瞳孔の大きさは、正常では3〜5mmです。それより小さい場合を縮瞳といいます(図4)。共同偏視とは、両眼が同じ方向に、持続的に偏位している状態をいいます(図5)。
図5眼球の位置の異常
視床下部が障害されると、ホルモンの分泌異常、体温調節異常、睡眠障害などが現れます。
大脳基底核が障害されるとどうなるの?
大脳基底核は、尾状核(びじょうかく)、レンズ核(被殻、淡蒼球)、前障、扁桃体で構成されています。全体として、姿勢の保持などの運動を調節しています。
大脳基底核が障害されると、不随意運動、筋緊張の変化などが出現します。また、視床とレンズ核との間に内包があり、大脳皮質と延髄・脊髄を結ぶ大部分の神経が内包を通っています。そのため、内包が障害されると、反対側に片麻痺が起こります。麻痺が反対側に出現するのは、錐体交叉(すいたいこうさ)のためです。
大脳辺縁系が障害されるとどうなるの?
大脳辺縁系(古皮質)は、帯状回(たいじょうかい)、海馬(かいば)などで構成されており、怒りや恐れなどの情動や、記憶に関係しています。大脳辺縁系が障害されると、てんかん発作やコルサコフ症候群などが出現します。コルサコフ症候群では、最近の事柄の記憶障害、見当識障害、作話などが現れます。脳は大脳基底核、大脳辺縁系、大脳皮質(新皮質)の順に進化しました。
小脳が障害されるとどうなるの?
小脳には、身体の平衡や姿勢を保持したり、共同運動や細かな運動を調整する働きがあります。そのため、小脳が障害されると、平衡障害、共同運動の不能、測定障害、企図振戦などが現れます。
平衡障害は、身体のバランスがとれなくなる障害で、真っ直ぐに歩くことが困難になります。目を閉じただけで倒れてしまうこともあります。
共同運動は、調和のとれた状態で行われる運動のことです。たとえば、スムーズな動きで歩行できるのは、上肢と下肢の筋肉が協調して収縮したり弛緩しているからです。小脳が障害されると、その共同運動がうまく行われないため、歩行がぎこちなくなります。また、拮抗筋の相互協調が円滑に行われないために、手の回内・回外(メモ4)を早く繰り返すといった反復運動が困難になります。
測定障害は、運動する距離をうまく測れなくなる障害です。たとえば、自分の鼻先に触れようと思っても頬に触れたり、机の上の鉛筆を取ろうと思って手を伸ばしても、行きすぎてしまって上手く取ることができません。
企図振戦とは、小刻みに震えることで、何かの随意運動をしているときに、おもに手に現れます。たとえば、先述の机の上の鉛筆を取ろうとして手を伸ばしたときなどもそうです。目標に近づくに従って、震えが激しくなるのが特徴です。
脳幹が障害されるとどうなるの?
脳幹は、左右の大脳・小脳に挟まれた、長さ約10cm、太さ約1〜4cmの小さな部位です(図6)。
遠心性神経と求心性神経のすべてがここを通り、また嗅神経と視神経以外の第3〜第12の脳神経核が配列されている大事な部位です。脳幹は、間脳、中脳、橋、延髄からなり、それぞれが重要な役割を担っています。上行性網様体賦活系、下行性網様体賦活系という特殊な働きもあります。
上行性網様体賦活系や、呼吸・循環中枢がある延髄が障害されると、意識障害、呼吸・循環不全が起こり、重篤な状態になります。中脳や下行性網様体賦活系が障害されると、異常な筋緊張が生じ、四肢を硬直させて伸展・内旋する除脳硬直という体位をとります(図7)。除脳硬直が見られたときは、重篤な状態です。
延髄にある錐体路(皮質脊髄路)の交叉部が障害されると、交叉性片麻痺や四肢麻痺が起こります。交叉性片麻痺とは、脳幹部で障害が起こった場合で、一側の片麻痺と、反対側の脳神経麻痺が生じた状態のことをいいます。麻痺の出現部位は、交叉部のどこが障害されるかによって異なります。そのほか、嚥下障害や排尿障害などが起こります。
メモ5神経経路
- 遠心性神経:大脳からの運動の指令を伝える神経。
- 求心性神経:感覚器などからの知覚情報を伝える神経。
- 神経:大脳皮質から伸びてきた神経線維の末端が、次のニューロンにバトンタッチする神経細胞。
メモ6脳幹の働き
- 間脳:視床(感覚系の神経の中枢)、視床下部(自律神経、内分泌の中枢)などがあります。
- 中脳:正しい姿勢や直立の保持、対光反射(光に対して瞳孔を収縮させる)などの眼球運動に関与。
- 橋:小脳との重要な連絡通路、意識の保持に関与、小脳と協調的に膀胱を収縮させ、内・外尿道括約筋を弛緩させる。
- 延髄:呼吸運動と心臓・血管の運動(拡張・収縮)を調整、消化器系の調整に関与(唾液の分泌、嚥下、嘔吐など)。
メモ7脳幹網様体
脳幹には、神経線維が網の目のように張り巡らされ、そこに神経細胞が数多く分布している。その神経系を脳幹網様体という。脳幹網様体には、上行性網様体賦活系と、下行性網様体賦活系と呼ばれる働きがある。
- 上行性網様体賦活系:知覚情報が脳幹網様体を通過するとき、大脳での知覚情報認識を高めたり、意識状態を保持したりするために、特別な指令を出す。
- 下行性網様体賦活系:大脳基底核や小脳からの情報に基づき、姿勢の保持や平衡機能を維持するため、筋の緊張を調整する。
脳梗塞が起こるとなぜ頭蓋内圧が亢進するの?
脳梗塞に伴い、頭蓋内圧が亢進するのは、梗塞巣の周囲に浮腫が生じるからです。
脳は硬い頭蓋骨に囲まれて保護されています。頭蓋骨の中の頭蓋内腔は、大脳鎌や小脳テントという硬い膜でいくつかのスペースに区切られています。そのスペースの中に軟らかい脳実質が収まっているので、浮腫によって容積が増加すると、頭蓋内圧が亢進するのです。
頭蓋内圧亢進の原因には、浮腫のほかに、脳腫瘍、血腫、脳膿瘍などがあります。
頭蓋内圧が亢進するとどうなるの?
頭蓋内圧が亢進すると、致命的な脳ヘルニアを起こすことがあります。脳ヘルニアとは、脳実質の一部が隣接する腔へはみ出した状態のことです(図8)。
頭蓋内圧が亢進すると、最初は、血液や髄液が頭蓋内から排除されたり、頭蓋内への流入が抑制されたりし、急激に頭蓋内圧が上昇しないように代償機構が働きます。ところが、病変が大きくなると代償機構が追っつかなくなり、圧迫された脳実質が隣接する腔へはみ出してしまうのです。そのことにより、もともとその位置にあった脳組織も圧迫されてしまいます。
はみ出した脳実質はゆがんで破壊されます。はみ出した脳実質により圧迫された脳組織も虚血や変形をきたします。こうして意識障害や神経症状が起こります。脳ヘルニアにより、呼吸と循環の中枢である延髄が圧迫されると、救命困難な状態になります。
脳梗塞にはどんな検査が行われるの?
脳梗塞では、CT検査、MRI検査、MRA検査、SPECT検査、脳血管撮影検査などを実施し、梗塞や浮腫の状態を見ます。
CT検査では、脳内の出血や血腫は白く、梗塞による浮腫は黒く写ります。MRA検査は磁気共鳴血管撮影検査のことで、MRIと同様に撮影し、コンピュータの画像処理によって血管だけを写し出します。血管の狭窄状態を3次元的に評価できます。
SPECT検査は、脳の血流量を測定する検査です。脳血管造影検査は、腕や大腿の血管から挿入したカテーテルを、頚動脈や内頸動脈へ到達させ、造影剤を注入してX線撮影する検査です。脳内の血管の走行がわかります。
脳梗塞にはどんな治療が行われるの?
脳梗塞の急性期には、血栓に対する治療、浮腫を抑制する治療、血圧コントロールが行われます。
血栓に対する治療には、①血栓溶解療法、②抗凝固療法、③抗血小板療法があります。
①血栓溶解療法:血栓溶解薬を静脈に点滴で注入し、血栓を溶解させる療法です。t―PA(tissue-plasminogenactivator;組織プラスミノゲン活性化因子)は血栓を溶かす作用がありますので、発症後4.5時間以内であれば使用可能です。t―PAは静脈注射します。
②抗凝固療法:抗凝固薬を与薬し、凝固因子の作用を阻害して血栓形成を抑制させる療法です。おもにアテローム血栓性脳梗塞の進行抑制、心原性脳梗塞の再発予防を目的に行われます。
③抗血小板療法:抗血小板薬を与薬し、血小板の形成を抑制させる療法です。おもにアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞の症状改善を目的に行われます。
浮腫を抑制するためには、高浸透圧利尿薬や副腎皮質ステロイド薬が与薬されます。
血圧が上昇した場合は出血性再梗塞の危険性があり、血圧が低下した場合は、脳血流量が低下して梗塞巣が拡大することがありますが、降圧治療は1か月以降に開始します。
脳梗塞の慢性期は、再発を予防するために、抗凝固薬や抗血小板薬が使用されます。また、身体機能が障害された場合は、自立に向けてリハビリテーションが行われます。
脳梗塞の看護のポイントは?
脳梗塞の看護では、急性期は、異常を早期発見することがポイントです。とくに注意すべき異常は脳ヘルニアです。意識レベルを始めとするバイタルサイン、瞳孔、対光反射などを観察し、異常を発見すればただちに医師に連絡します。
慢性期は、機能障害が生じた場合は、残存機能を生かした日常生活援助を行います。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版