肝炎・肝硬変に関するQ&A

 

『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は「肝炎、肝硬変」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

肝炎、肝硬変って、どんな病気?

肝炎は、何らかの原因によって肝細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊死(えし)し、肝機能が低下した状態です。経過によって急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。肝硬変は、慢性肝炎が進行した状態です。

 

急性肝炎の経過中には、広範な肝細胞の壊死により、急性肝不全状態に陥ることあります。これを劇症肝炎といい、発症すると重篤な状態に陥り、肝硬変に移行することがあります(図1)。

 

図1慢性肝炎から肝硬変への進行

慢性肝炎から肝硬変への進行

 

肝炎からどのように肝硬変に進行するの?

肝炎の炎症が長期間続くと、再生できずに壊死する細胞が増えて線維化が進み、肝臓の基本構造である肝小葉は結節という線維に取り囲まれた状態になります。その結果、肝臓内の血流が阻害され、さらに肝細胞が壊死するという悪循環に陥ります。こうして肝臓は硬化、縮小し、さらに機能が低下します。また、肝硬変から肝癌に移行することもあります。

 

肝細胞が炎症を起こすのは何が原因なの?

肝細胞が炎症を起こす最も多い原因は肝炎ウイルスです(表1)。その他、EBウイルス(エプシュタイン-バールウイルス)、アルコール、薬物、自己免疫なども原因になります。

 

肝炎ウイルスには経口感染するA型、E型、非経口感染するB型、C型、D型などがありますが、A型、B型、C型のウイルスによる感染がほとんどです。

 

アルコールが原因になるのは、アルコールを大量に摂取するとアルコールの中間代謝産物であるアセトアルデヒドが過剰に産生され、それによって炎症が起こるためです。

 

薬物が原因になるのは、肝臓で薬物が代謝されるからです。薬物の中間代謝産物が、肝細胞を構成するタンパク質と結びついたり、ハプテン(不完全抗原)となってアレルギー反応を起こします。

 

発生機序として肝細胞に対する自己免疫が示唆されています。

 

表1ウイルス性肝炎の特徴

ウイルス性肝炎の特徴

 

A型肝炎の特徴は?

A型肝炎の感染源は、汚染された飲料水やカキなどの魚介類です。感染力が強く、2〜6週間の潜伏期間を経て急に発症します。

 

最初は発熱、食欲不振、嘔吐、全身倦怠感などが現れ、その後、黄疸(おうだん)が出現します。予後は良好で、慢性化することなく、また劇症化することもほとんどありません。

 

B型肝炎の特徴は?

B型肝炎は、輸血、血液製剤、性交、針刺し事故、母子感染など、血液を介して感染します。母子感染(垂直感染)の場合は、思春期以降に発症し、慢性化することがあります。それ以外の感染では、4〜24週間の潜伏期間を経て急に発症し、発熱や黄疸が出現します。

 

B型急性肝炎は、劇症化することがあるので注意が必要です。劇症肝炎を起こさなければ、予後は良好です。

 

C型肝炎の特徴は?

C型肝炎は、輸血、血液製剤、針刺し事故など、血液を介して感染します。発熱、食欲不振、全身倦怠感などの症状は軽く、感染に気づかないこともよくあります。

 

A型やB型とは異なり、慢性化しやすいのが特徴です。慢性化すると、治療しなければ肝硬変や肝癌に進行することもあります。

 

ウイルス性肝炎の特徴的な検査所見は?

ウイルス性肝炎では血液検査で、AST(GOT)、ALT(GPT)、LDHの上昇が認められます。ASTとALTは、アミノ酸からタンパク質を合成するときに働く酵素で、肝細胞が障害されていると細胞外に放出される血清逸脱(いつだつ)酵素です。LDHは糖質をエネルギーに変換するときに働く酵素です。AST、ALTと同様に、血清逸脱酵素です。

 

memo1血清逸脱酵素

正常な状態では細胞内にしか存在しない酵素で、細胞が障害されると細胞外に放出される酵素のこと。血清中に逸脱するので血清逸脱酵素という。

 

memo2血清逸脱酵素の基準値
  • AST(GOT):8〜30U/L
  • ALT(GPT):4〜30U/L
  • LDH:100〜200U/L

ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ、LDHは乳酸脱水素酵素の略である。

 

肝硬変はどんな症状が出現するの?

肝硬変では、黄疸、浮腫・腹水門脈亢進による症状(腹壁静脈の怒張(どちょう)、食道静脈瘤(りゅう)、痔核)、肝性症などが見られます。

 

なぜ黄疸が出現するの?

肝臓には、ビリルビン、アンモニア、アルコールを解毒する機能があります。黄疸が出現するのは、ビリルビンが解毒されず、血中に増加するためです。ビリルビンは黄色い色素なので、皮膚などが黄色く見えます(図2)。

 

寿命になった赤血球が脾臓で破壊され、その際にヘモグロビンが還元され、鉄を失って間接ビリルビンになります。通常、肝臓に運ばれた間接ビリルビンは有害な物質なので、グルクロン酸抱合されて(解毒されて)直接ビリルビンになり、胆汁とともに腸管に排泄されます。

 

ところが、肝細胞が障害されていると、間接ビリルビンが肝臓に運ばれても、摂取されにくかったり、摂取されても直接ビリルビンに処理されなくなり、血中に逆流してしまうのです。通常、血中のビリルビン濃度は1mg/dLですが、2mg/dL以上になると黄疸が確認できます。

 

図2黄疸の種類

黄疸の種類

 

(堤寛監:病理学。クイックマスター、新訂版、p.42、サイオ出版、2015より改変)

 

memo3解毒

有害物質を酸化、還元、抱合(他の物質で包むこと)によって水に溶けやすい形にし、尿や胆汁の中に排泄する働き。

 

memo4ビリルビンの基準値
  • 総ビリルビン:0.3〜1.0mg/dL
  • 直接ビリルビン:0.1〜0.4mg/dL
  • 間接ビリルビン:0.1〜0.7mg/dL

 

memo5代謝(メタボリズム)

摂取した栄養素は、化学反応により常に分解と合成が行われ、生命維持、成長、生活活動に必要なエネルギーや、身体の構成成分を産生している。そのような一連の化学反応を代謝という。

 

浮腫や腹水が出現するのはなぜ?

浮腫(ふしゅ)とは、皮下組織の細胞外、とくに細胞の間に水分が異常に貯留した状態をいいます。腹水とは、腹腔内に異常に貯留した液体のことです。

 

浮腫や腹水が生じるのは、肝臓のアルブミン血漿タンパク質)の合成能が低下しているためです。肝臓には栄養素を代謝する働きがあります。タンパク質は、小腸でアミノ酸に分解・吸収されて肝臓に運ばれ、肝臓でアミノ酸から別のタンパク質に合成されます。その1つがアルブミンです。アルブミンには血中の浸透圧を維持する働きがあり、血液中の水分の血管外への流出を防いでいます。

 

そのため、アルブミンが減少すると浮腫や腹水が生じます。

 

門脈圧が亢進するとなぜ腹壁静脈が怒張するの?

門脈圧の亢進は、肝細胞が障害されると肝臓内の血流抵抗が増大するために起こります。門脈圧が亢進すると、静脈血が門脈を通らずに心臓に戻ろうとし、側副血行路が形成されます(図3)。

 

側副血行路は食道、胃、肛門などに形成されますが、いずれも細い静脈のために血流量の増大に耐えられず、腹壁静脈の怒どちょう張、静脈瘤りゅうの形成、痔核が生じます。また、静脈瘤が破裂すると下血・吐血し、大量出血では生命に危険が伴うことがあります。

 

図3門脈圧亢進による側副血行路の形成

門脈圧亢進による側副血行路の形成

 

(勅使河原薫:肝硬変。看護過程セミナー、統合改訂版、p.326、医学芸術社、2006より改変)

 

肝性脳症ってどんなものなの?

肝不全に伴う精神・神経症状で、見当識障害、せん妄、意識障害などが出現します。肝性昏睡とも呼ばれます。

 

肝性脳症の原因の1つは、アンモニア濃度の高い血液が脳に運ばれることにあります。通常、アンモニアは肝臓で無毒な尿素に解毒され、尿中に排泄されます。ところが肝機能が障害されていると尿素に変換できず、血中のアンモニア濃度が上がります。

 

また、門脈圧が亢進すると、静脈血が肝臓での解毒作用を受けずに大循環に入るため、アンモニアなどの有害物質が血中に溜まり、それも原因となります。

 

memo6肝性脳症の昏睡度分類(犬山シンポジウム、1981)

昏睡度Ⅰ

  • 睡眠-覚醒リズムの逆転
  • 多幸気分、ときに抑うつ状態
  • だらしなく、気にとめない態度

昏睡度Ⅱ

  • 指南力(時、場時)障害、物をとり違える
  • 羽ばたき振戦
  • 異常行動(例:お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てるなど)、ときに傾眠状態(ふつうの呼びかけで開眼し会話ができる)
  • 無礼な言動があったりするが、医師の指示に従う態度をみせる

昏睡度Ⅲ

  • しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる
  • 嗜眠状態(ほとんど眠っている)、外的刺激で開眼しうるが、医師の指示に従わない、または従えない(簡単な命令には応じ得る)

昏睡度Ⅳ

  • 昏睡(完全な意識の消失)、痛み刺激に反応する

昏睡度Ⅴ

  • 深昏睡
  • 痛み刺激にもまったく反応しない

 

肝硬変の特徴的な検査所見は?

肝硬変では、血清アルブミン(Alb)、コリンエステラーゼ(ChE)、総コレステロール(TC)の低下が認められます。アルブミンとコレステロールは肝臓で合成されます。コリンエステラーゼは、タンパク質の合成を助ける酵素です。

 

したがって、これらの値が低下していると、肝臓の栄養素の合成能が低下しているといえます。

 

また、血中アンモニア、ICG試験、ヒアルロン酸、Ⅲ型プロコラーゲンNペプチド(PⅢP)、Ⅳ型コラーゲンが上昇します。

 

アンモニアは、通常は肝臓で尿素に変換されます。ICG試験は、通常は肝臓で除去・排泄されるICG(インドシアニングリーン)を静脈内注射し、15分後に採血してICGの割合を調べる検査です。血中アンモニアやICGが上昇している場合には、肝臓の解毒機能が低下しています。ヒアルロン酸、Ⅲ型プロコラーゲンNペプチド(PⅢP)、Ⅳ型コラーゲンは、肝細胞の線維化の指標です。

 

ASTとALTは、肝細胞の変性・壊死の指標になりますが、肝硬変ではそれほど上昇しません。

 

memo7肝機能の基準値
  • Alb:3.5〜5.5g/dL
  • ChE:120〜460U/L
  • TC:130〜220mg/dL
  • 血中アンモニア:12〜66μg/dL
  • ICG試験:10%以下(15分値)
  • PⅢP:0.3〜1.0U/mL以下
  • Ⅳ型コラーゲン:6.0ng/mL以下

 

ウイルス性肝炎にはどんな治療が行われるの?

ウイルス性肝炎の治療では安静、食事療法、薬物療法が行われます。

 

安静は、肝臓への血流量を維持するために必要です。食事療法は、肝組織の再生を促すことが目的です。高エネルギー・高タンパク質・高ビタミン食が基本となり、重症期などの経口摂取が不能な時期は、中心静脈栄養法や経管栄養法が実施されます。

 

薬物療法は、B型にはインターフェロンやラミブジンなどの抗ウイルス薬、C型にはインターフェロンやレジパスビル、ソホスブビルなどの抗ウイルス薬が使用されます。インターフェロンには、肝炎ウイルスのタンパク合成を阻害する働きがあります。

 

肝硬変にはどんな治療が行われるの?

肝硬変の治療は安静と食事療法が中心になります。また、様々な症状に対しては、対症療法が実施されます。

 

食事療法は、ウイルス性肝炎と同様に、高エネルギー・高タンパク質・高ビタミン食が基本です。しかし、病状が進行すると、アンモニアの発生を抑えるために、タンパク質が制限されることもあります。

 

浮腫・腹水に対しては、利尿薬の使用、塩分(ナトリウム)・水分摂取量の制限、アルブミン製剤の補給などが行われます。胃・食道静脈瘤に対しては、門脈圧降下薬の使用や内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などが実施されます(図4)。

 

図4食道静脈瘤の内視鏡的治療

食道静脈瘤の内視鏡的治療

 

肝炎、肝硬変の看護のポイントは?

肝炎の急性期は、発熱などによる身体的苦痛を軽減するよう援助します。肝炎の慢性期や肝硬変に移行した場合は、生活指導や食事指導を行います。

 

生活指導には、安静、便秘の予防などがあります。安静は、肝臓への血流量を維持するために必要です。便秘を予防するのは、便秘になると腸内細菌によりアンモニアの産生が上昇するためです。また、怒責によって静脈瘤が破裂する危険性もあります。食事指導は、病期の推移に会わせてタンパク質を増減するなど、細かな指導が必要です。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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