派遣法改正(2015年)ポイントと看護師に与える4つの影響

2015年9月に労働者派遣法が改正されました。今回の改正では、「派遣労働者の雇用の安定とキャリアアップ」という側面から、派遣会社側に次の4つが求められるようになりました。

この記事のポイント

派遣会社に対する変更
  • 雇用安定措置の実施
  • キャリアアップ措置の実施
  • 均衡待遇の推進
  • 雇入れ努力義務/募集情報提供義務
派遣会社と派遣スタッフに対する変更
  • 派遣先事業所単位の期間制限と派遣労働者個人単位の期間制限、それぞれの派遣期間の制限の変更。

この変更が派遣で働く看護師にどんな影響をもたらすのか。ここではわかりやすく、看護師に関係する派遣法の改正点を解説します。

参照:
厚生労働省「派遣で働く皆さまへ~平成27年労働者派遣法改正法が成立しました~」(PDF)別ウィンドウで開きます

1. 派遣法改正による看護師への4つの影響

派遣法改正による看護師への影響度を一言で表すと…

今回の派遣法改正による看護師への影響は…

  1. 派遣先の職員と同程度の給与が保証されるようになった
  2. 1年間に最低8時間以上の教育研修を受けられるように(しかもお給料が発生)
  3. 直接雇用への切り替えを求められやすくなるかも
  4. 1つの職場で働ける期間は最大3年で変わらないが、最大期間まで働ける可能性がUPした

の4点です。

“派遣労働という働き方、およびその利用は臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るため労働者派遣法が改正されます。”

と厚生労働省のページにも記載があるように、全体的に派遣スタッフの立場をより守るために行われた側面が大きく、改正によるデメリットはほとんどありません。1つずつ、わかりやすくご説明していきます。

1. 派遣先の職員と同程度の給与が保証されるようになった

均衡待遇の推進

派遣先の社員と同等の給与が保証されるようになったため、低賃金で働かされるリスクがなくなりました。

しかし、気になるのは、派遣スタッフの方が給与が高い場合。派遣先の社員の給与に合わせて、派遣スタッフも時給を下げられてしまうことはないの?という点です。

確かに高時給の派遣会社から派遣されている人は、派遣先の従業員よりも良いお給料をもらっている場合があります。ですが、今回の法律改正の主旨はあくまで派遣スタッフの立場を守るためのもの。派遣先に合わせて時給を引き上げる派遣会社は多々あるものの、引き下げる会社は今のところほとんどありません。

2. 1年間に最低8時間以上の教育研修を受けられるように(しかもお給料が発生)

キャリアアップ措置の実施

フルタイム(1日8時間以上)で1年以上の雇用見込みの方は、年間に8時間以上、短時間の方はフルタイムに比した訓練時間ということになっています。年間に合計8時間以上の教育研修が受けられるようになりました。

原則、教育研修は無償で受けられるだけでなく、休日に受講すると給与が発生する「有給」扱いになります。仕事帰りに受けると残業と同じ扱いになるため、時間外手当が付くことに。

なお、研修の実施は派遣会社の義務のため、派遣スタッフは必ず受講することになります。なお、研修の内容は派遣会社によって異なります。

3. 直接雇用への切り替えを求められやすくなるかも

雇入れ努力義務/募集情報提供義務・雇用安定措置の実施

派遣会社は、派遣会社から勤務して3年の雇用見込みが発生したスタッフには必ず、1年以上の雇用見込みが発生したスタッフには努力義務として、次のいずれかの措置をとることが求められるようになりました。

  • 次の派遣先を紹介する
  • 派遣先に対し直接雇用(正社員・契約・パート)の依頼をする
  • 無期の派遣社員(期間の定めがない派遣)として派遣会社で雇い入れる

派遣で働き続けたい看護師に対しては、「次の派遣先を紹介する」になる点はこれまで通り。ですが、万が一次の派遣先が決まらなかった場合は、派遣スタッフの希望にもよりますが、

  1. 派遣先での直接雇用
  2. 派遣会社で教育訓練を受けながら次を探す
  3. 派遣会社で無期の派遣社員

のプランを提案されることになるでしょう。

派遣会社の派遣社員は、案件がなければ提案が難しいため、一般的には派遣先の直接雇用を求められるケースが多くなるでしょう。とはいえ、直接雇用には採用面接などの選考を通過する必要があるため、望んでも不採用になってしまうケースもしばしばです。

なお、そのため万が一上記全てがダメだった場合も、3年の雇用見込みが発生した人の場合、無収入にはなりません。派遣会社で、お給料をもらいながら研修を行うことになります。

「1年/3年の雇用見込みが発生する」ってどういうこと?
派遣会社があなたとの雇用契約を1年や3年を越える日まで延長する、という契約を締結したタイミングが、「1年/3年の雇用見込みが発生した」日に該当します。従って、1年契約を締結した人ならその契約を締結したときが、6ヶ月契約の人なら早い人で1回目の契約更新が、1年の雇用見込みが発生するときに当たります。
例えば…
  • 6ヶ月間派遣で働いている人が、契約更新を行い、さらに6ヶ月契約を延長することが決まると、その派遣先に対する雇用契約が1年見込まれることになります。
  • 2年6ヶ月同じ派遣先で働いている人が、もう6ヶ月契約を延長したら、その時点で3年の雇用見込みが発生したことになります。

4. 1つの職場で働ける期間は最大3年で変わらないが、最大期間まで働ける可能性がUPした

派遣先事業所単位の期間制限と派遣労働者個人単位の期間制限の変更

まず最初におさらいですが、派遣スタッフが1つの職場で働ける期間は、派遣スタッフ側が最大でいつまで働けるか、と派遣先側が最大でいつまで派遣スタッフを受け入れ可能か、の二点から最大でも3年と決められていました。

  • 派遣先が職場全体で派遣スタッフを受け入れられる期間は3年間まで。(一人目の派遣スタッフが就業した瞬間から3年のカウントダウンが始まるため、それ以後に就業した場合は3年よりも短い期間になる)
  • 派遣スタッフが1つの派遣先で働ける期間は原則1年。(但し、職場の賛成があって最大3年まで延長可能)

但し、ご覧の通り、最大期間の3年を同じ派遣先で過ごすのは容易ではありません。その職場に一人目の派遣スタッフとして就業した人で、かつ一年ごとに職場の賛同を得ることができた人に限られるからです。
今回、派遣法が改正されたことで、より多くの看護師が「最大3年まで」働くことができるようになりました。

派遣先のルール・派遣を受け入れて良い期間(最大3年)が延長可になった

これまで、派遣先には「派遣スタッフを連続して3年以上就業させてはいけない」というルールがありました。派遣先が一人派遣スタッフを受け入れると、その日から3年後が派遣の受け入れ期間のリミットである『抵触日』となり、後日新たに派遣スタッフを就業させたとしても、この抵触日を越えて受け入れることはできませんでした。

改正前
派遣法改正前の派遣受入期間イメージ。Aさん就業開始後3年間がC病院の派遣受入期間。Aさんは最大3年間働ける可能性がある。一方、Aさんの就業開始半年後にBさんが就業開始した場合、Bさんは最大2年半までしか働くことができない。

ところが、今回の派遣法改正により、派遣先で『派遣スタッフにもっと続けて欲しい』という話になれば、抵触日を+3年まで延長することが可能になりました(※)。延長は何度でも可能なため、賛同を得られやすい職場なら、ずっと延長が繰り返され、派遣受け入れ期間がないに等しい状態になることも。

具体的には、派遣先で過半数以上に専任された代表者に対して意見聴取が行われ、派遣スタッフに続けて欲しいという意見が確認された場合。

改正後
派遣法改正後の派遣受入期間イメージ。意見聴取で賛同を得られた場合、C病院の派遣受入期間は最大3年間の延長が可能になる。Aさん就業開始の半年後に就業開始したBさんは、最大3年間の就業が可能となる。

抵触日が延期されるケースが多発し、どのタイミングで派遣スタートした人もしっかり3年まで働けるように。

派遣スタッフ個人のルール・意見聴取をしなくても最大3年まで働けるようになった

一方、派遣スタッフ側のルールは、「原則1年。但し1年経過ごとに意見聴取を行い、過半数の賛同が得られれば、もう1年延期。最大3年まで」というものでした。つまり、二度の意見聴取をパスしなければ、最大3年まで同じ職場で働くことができなかったわけです。

ところが、今回の改正により、意見聴取をしなくても、派遣スタッフは最大3年まで、同じ職場で働けるようになりました。

派遣法改正に伴う意見聴取頻度の変化イメージ

以上4点が、派遣法改正による看護師派遣への影響です。
「どんな影響があるかはわかった。厳密にはどんな改正がされたの?」という方は、次をご覧ください。

2. その他の派遣法改正トピックス

今回の派遣法は、1986年に労働者派遣法が施行されて以来、8回目の改正で、変更箇所は過去最大規模と言われています。上に挙げた以外にも次のような部分が変更されました。

労働者派遣事業の許可制への一本化

“施行日以後、一般労働者派遣事業(許可制)/特定労働者派遣事業(届出制)の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業が許可制となります。”

これは看護師には関係が薄いことかもしれません。派遣サービスを提供する派遣会社の中には、許可制ではなく届出制で事業を運営していた企業がありました。それは、エンジニアなどを対象とした「特定労働者派遣」と呼ばれる派遣事業を運営している企業。今後はこれらの企業も厚生労働省の厳しいチェックをパスしたところだけが派遣事業を行える許可制に一本化されることが決まりました。

看護師向け派遣サービスを提供する企業は、「一般労働者派遣」のため、最初から許可制です。この改正によって特に何かが変わるわけではありません。

労働契約申込みみなし制度

“派遣先が次に掲げる違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣会社(派遣元)における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。”

派遣先に新たに課せられた義務で、ざっくり言うと、違法と知りながら派遣スタッフを受け入れた派遣先は、その派遣スタッフを派遣時と同じ時給や待遇で直接雇用しなければならなくなった、ということです。いわゆる違法派遣の撲滅を目指したものです。

なお、労働契約申込みみなし制度に該当する違法行為は、次のように定められています。

  • 派遣禁止業務への派遣スタッフの受け入れ(例えば「産休代替や離島・僻地ではない病院・クリニックへの派遣」)
  • 無許可・無届の派遣会社(派遣元)からの派遣(例えば「派遣会社が厚生労働省の許可を得ずに操業していた」)
  • 派遣先が派遣受け入れ期間を超えて派遣スタッフを受け入れること(例えば「派遣先が意見聴取を行わず3年以上派遣スタッフを受け入れていた」)
  • いわゆる「偽装請負」(例えば「労働者派遣を業務請負や業務委託契約と偽装した案件」)

厚生労働省により一般労働者派遣業の許可制度が厳格運用された今、派遣スタッフが違法派遣に巻き込まれる機会はかなり稀。多くの看護師にとっては、直接関係のない内容と言えるでしょう。

3. 改正された派遣法はいつから適用されるの?

改正派遣法は、2015年9月30日に施行こそされたものの、実際に適用されるのはいつからなのでしょうか。施行日(2015年9月30日)を基準に、ケース別に見てみましょう。

2015年9月30日以降に派遣会社に登録した場合

既に改正派遣法が適用されている

最初から改正派遣法が適用されます。

2015年9月30日以前に派遣会社に登録している場合

次のいずれかのタイミングまで旧法が適用されます。

  • 派遣先が変わるとき
  • 他の派遣会社に登録したとき

改正派遣法は、派遣会社と派遣スタッフの間に結ばれる雇用契約を基準に適用開始のタイミングが決まります。

つまり、施行日よりも前に雇用契約が締結されていた場合は、その契約期間が満了になるまで、ずっと旧法が適用されます。派遣先または派遣会社が変わり、新しく雇用契約が締結された時点から、改正法が適用されることになります。

改正法適用開始のタイミング図解。2015年9月30日以前に派遣会社に登録している場合。

同時に複数の派遣先で働いている場合

この場合も、2015年9月30日の施行後に締結した雇用契約にのみ適用されます。
雇用契約は派遣会社ごと・派遣先ごとに結ばれているため、新しく派遣先を増やしても、適用されるのは、新しい派遣先に関する契約に対してのみ。既存の派遣先に対しては、旧法が適用されたままになります。

改正法適用開始のタイミング図解。同時に複数の派遣先で働いている場合。

Aさんが派遣先を増やしても、別の派遣会社経由で働き始めても、改正前から働いている派遣先Aの契約にはずっと旧法が適用され続ける。

改正法が適用される場合でも、対応が追いついていないケースも…

今回の改正派遣法は、国会で法律が成立してから施行されるまでの期間がたった2週間。
通常は半年から1年程度かかるところが極端に短かかったため、施行後も各方面で準備に追われています。

中でも代表的なのが、キャリアアップ措置。派遣会社側で教育研修のプランの策定が間に合わず、2016年8月現在、ほとんどの派遣会社ではまだ教育訓練が開始されていません。
派遣会社ごとの教育研修は、今後プランが決まり、順次実施されていくことになるでしょう。

適用された内容がいつの間にか変わっている?派遣法の解釈に注意

昨今、ニュースを賑わせた憲法解釈をめぐる問題。派遣法にも同様の問題はつきまとっています。今回、改正法が施行されましたが、中にはどう解釈するかによって、まるで意味が変わってしまうような内容も存在しています。

例えば、派遣先の従業員と同等の給与を派遣スタッフに保証する、均衡待遇。派遣は給与が時給制であるのに対し、派遣先の従業員は月給制であるため、まず派遣先従業員の給与を時給に換算して均衡が取れているかを計算する必要があります。ところが改正法では、派遣先従業員の月給を時給換算すべきか、それともボーナスを考慮して年収を時給換算すべきなのか、明記されていません。

このように、派遣法が改正された直後というのは、大まかな方向性が示されただけで、曖昧な部分や疑問点がいくらか発生します。そのため、厚生労働省では、これらの疑問にQ&Aで答えていくことで、「こういうケースはこう解釈してください」という指針を示すことにしています。

Q&Aが出そろったときが、真に改正法が施行されたタイミングといえるでしょう。

2016年9月の時点で、既に第3集まで公開されています。

まとめ

労働者派遣法の改正が看護師派遣に与える影響は、

  • 派遣先の職員と同程度の給与が保証されるようになった
  • 1年間に最低8時間以上の教育研修を受けられるように(しかもお給料が発生)
  • 直接雇用への切り替えを求められやすくなるかも
  • 1つの職場で働ける期間は最大3年で変わらないが、
    最大期間まで働ける可能性がUPした

の4点。加えて、派遣先は看護師を違法派遣に巻き込んでしまった場合に、その看護師を派遣時以上の待遇で直接雇用しなければならないルールが加わりました。派遣で働く看護師としては、今まで以上に立場が守られるようになった、といっていいかもしれません。

なお、改正法は2015年9月30日以降に結ばれた雇用契約から適用されます。それ以前から続いている契約には、引き続き旧法が契約満了まで適用されますので、誤解しないよう注意しましょう。