無理な食事介助が誤嚥性肺炎を生む|認知症の合併症を予防しQOLを改善する現場の知恵とは

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

聞き手:小板橋律子=日経メディカル

 

 

医師でありながら、毎朝、認知症患者の食事介助に加わり、医療と介護の在り方の最善を追究している江別すずらん病院(北海道江別市)認知症疾患医療センター長の宮本氏。

 

「認知症にだけはなりたくない」という社会の風潮に危機感を覚える同氏に、認知症を取り巻く介護と医療、社会の在り方はどうあるべきかを聞いた。

 

 

 

――認知症患者に対する食事介助の在り方に問題が多いとのご意見ですね。

 

宮本 私は毎朝、病棟の入院患者に対する食事介助に参加しています。そもそもなぜ朝の食事介助を行っているかというと、患者さんの朝の様子が確認できるためです。

 

目覚めはどうか、機嫌はどうか、食欲はあるか、どのような食べ方をしているのか、むせはないかなどが分かります。

 

精神症状や行動障害から入院に至った患者さんが多いため、鎮静系の薬剤を投与することが多いのですが、これらの薬剤が効き過ぎていないかをチェックするには朝の覚醒度を見るのが一番なのです。

 

また、抗精神病薬には、嚥下機能を低下させる副作用もありますので、患者さんの食事状況を見ることで、嚥下機能への薬の影響なども評価できます。

 

食事介助を行っていると、介護士の方々が何を重視しているかもよく分かります。現場では口から栄養を取ることの重要性が周知されており、褥瘡予防のためにも栄養をきちんと取らせるべきとの考えが浸透しています。

 

また、「他の介護士が介助したときは全て食べたのに、自分が介助したときは食事を残した」となると、介護士としての腕が悪いとの評価につながると介護士の方々は思いがちのようです。

 

これらのことから、「とにかく食べさせなくてはならない」との思いが介護側で強くなってしまっています。

 

しかし、「食べさせたい」が行き過ぎると、介助中に患者さんがむせても気にせず食べさせ続ける、患者さんが口を開けなくても口に指を入れて口を開けさせて食べさせるなど、本来あるべきではない介護につながり得ます。

 

また、食事介助の時間を節約するために大きなスプーンで食べ物を口に押し込むような介助もあります。このような食事介助が誤嚥性肺炎を生じる土壌になっているのではないかと危惧しています。

 

認知症は病状が進行すれば食べられる量が自然と減るものですので、食べたくない人に無理やり食べさせるのは一種の虐待でもあります。

 

我々は、眠っているとき、食事にむせるとき、口を開けないとき、食事を嫌がるときには食事介助を行いません。この当たり前のことを行うことで誤嚥性肺炎は激減しました。

 

誤嚥性肺炎は医療や介護が作っているものではないかとさえ思うほどです。患者さんを苦しめる誤嚥性肺炎は「一口食べられたから、もう一口」という介護側の良かれという思いが作り出している気がしてなりません。

 

アルツハイマー病では、病気の終末期と嚥下機能の低下が相関しており、嚥下機能が悪化した段階で人工栄養を導入しても延命効果がないことが外国の論文では既に示されています。

 

私は、アルツハイマー病であれば、患者さんの食べられる量に見合った無理のない食事介助を丁寧に行えば、誤嚥性肺炎を予防しつつ、痰の吸引が必要になることも少なく、患者さんの苦痛を最小限にした状態で看取れると思っています。

 

この段階の患者さんに瘻などの人工栄養を導入したり点滴を行うと、痰が増え、その吸引で患者を苦しめてしまうだけです。

 

悩ましいのは、レビー小体型認知症血管性の認知症です。これらでは、病状の進行と嚥下機能の低下が必ずしも相関せず、先に嚥下機能が低下してしまう例があります。

 

そのような場合は、人工栄養も選択肢になると思いますが、人工栄養を導入しても延命効果は数カ月程度の印象です。

 

――「認知症になったら安楽死したい」など社会的に認知症を忌み嫌う風潮が強いことにも違和感を覚えているそうですね。

 

宮本 社会的に「認知症だけにはなりたくない」という風潮が強すぎると思います。でも、それは認知症患者さんを否定することになります。

 

いまだに「認知症になったら何も分からなくなる」との誤解が一般社会だけでなく医療者の中にもありますが、そんなことありませんよね。

 

認知症でもいい人生を送れるというのが持論です。ただし、それは介護次第です。

 

患者さんがうまく表現できない要望をきちんと拾い上げられる医療者・介護者と、無理強いしない介護があれば、認知症は決して悲惨な病気ではありません。そのことを医療者に加え一般社会の方々にしっかり理解していただきたいです。

 

スウェーデンでは、最近、75歳以上では認知症との診断をしないという話を聞きました。以前から、副作用に比べて効果が低いため抗認知症薬はあまり処方しない方針の国でしたが、診断すらしないというのは、医療の限界を認識した上で、治療にお金をかけるよりも介護にお金をかけようという国の考えがあるのでしょう。

 

認知症には、アルツハイマー病だけでなく、レビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症があり、それぞれで症状が異なりますよね。

 

日本ではそれらを鑑別しないと、良い治療も介護もできないと思われがちですが、必ずしもそうではありません。

 

それぞれの症状に合った介護ができていればそれでよいのです。大切なことは、患者さんにきちんと向き合い、彼らの気持ちを尊重することです。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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