国際ボランティア看護師に聞く―ミャンマーの医療現場【後編】

前編はこちら■

ジャパンハートの研修生として、ミャンマーで働いた栗木幸代さん。

 

前回は働くきっかけや、日本との働き方の違い、やりがいや苦労などについてお話いただきましたが、後編では緊急時の対応や、現地での暮らしについてお聞きしました。

 

気が休まることのないミャンマーでの仕事

ジャパンハートが活動している病院は、地元のお坊さんが運営している慈善病院。宿舎もお寺の一部を借りて共同生活を行い、自炊をしながら生活。

毎日起床後は全員で院内や周辺の掃除を行います。

 

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毎朝の日課である掃除はスタッフ全員で行う

 

病院では、日本人看護師が常時7~8人と現地採用のミャンマー人看護師が3人、ミャンマー人医師3人が働いています。

一日のスケジュールは、手術ミッションがない通常時と手術ミッション時の2パターンに分かれます。

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通常時は、ミャンマー人医師だけで対応しますが、手術ミッションの期間(7~10日/月)はジャパンハート代表の吉岡秀人医師をはじめ、数人の日本人医師が日本から派遣され、ミャンマー人医師では対応できない、難しい手術をできるだけ多く行います。手術ミッション中は1日15~20件の手術を行い、手術だけでなく外来診察も通常通り行うため、当然、看護師の負担も大きくなると言います。

 

睡眠時間はグッと少なくなりますね。でもミッション中はすごく集中しているので、あまり疲れとかは意識しません。きっとアドレナリンがたくさん出ているのでしょうね(笑)」 

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手術ミッションでの介助の様子。最大で1日20件以上手術を朝から夜中まで行う

 

ちなみに患者さんで多い疾患の一つに、火傷後の瘢痕(はんこん)があるそう。

 

「インフラが未だ整っておらず、明かりにろうそくを使っている家が多いのです。また、地べたで焚き木をして調理を行う家も多く、家族の手伝い中に油をかぶるなど、子どもの火傷が多いのも特徴ですね。日本ではあまり見られませんが、脳動脈瘤の子どもも多くいます」

 

そのほか、口唇裂の子どもの手術も多いと言います。日本では生まれてすぐに手術するケースがほとんどですが、ミャンマーでは手術できる医師が少ないのが原因の1つだそうです。

 

手術ミッションが終われば一息つけるかと言うとそうではありません。

 

「通常60床程度のベッド数ですが、手術ミッション後は1人でも多くの患者さんを受け入れられるよう、ベッド同士をくっつけるなどしてベッドを増やすため100床越えするときもあります。1人で担当する患者さんもいつもは15人くらいですが、20人を超えることもあります。

 

ですので、ミッションが終わったあとは安心感もありつつも、術後の患者さん全員を無事退院させなくてはいけないという気持ちに切り替わります。そうこうしているうちに、また次の手術ミッションが近づくため、完全に気が休まることはないですね」 

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病室の様子。人とのつながりが強いため、知らない患者同士も打ち解け、孤立する患者さんはいないとか

 

地域の事情を考えた医療活動

その土地の慣習や宗教など、患者の事情に合わせた対応を行うことは、海外での医療活動では特に重要なポイントです。

外来診察の時点でわかる末期の場合や、緊急性を伴い都市部の病院でも処置が難しい危険な状態の患者の場合は、状態にもよりますが、基本的には、ジャパンハートの病院での医療行為は行わないそうです。

器械の不足など物理的な理由もありますが、一番大きな理由はほかにあります。

 

「昔からのミャンマーの風習で、故郷以外の場所でなくなった場合、遺体を村へ入れることができず、葬儀も故郷で行うことができません。

そのためジャパンハートの病院ではもちろん、都市部の病院でも対応が不可能な患者さんに対しては、本人や家族に説明した上で、痛みを和らげるなどの最小限の処置を行い、村に帰しているのです」

 

海外での医療活動では、人員的、物理的な苦労以外にも、土地の事情、患者の事情を考慮するなど、多くの配慮が必要なようです。

 

ちょっとしたことが贅沢に感じる休日

手術ミッション期間以外は、基本的に土日のどちらかが休日になります。休日はおもいっきり羽を伸ばせるのかと思いきや、実際はそうではないようです。

 

「担当している患者さんが安定しているときには遠過ぎない町へ行って買い物をすることはありました。でもそれはごくたまにですね。一番多かったのは、病院から徒歩2~3分のところにあるティーショップでラペッイェーというすごく甘い飲み物を飲んでひと息つくことですね」

 

土地柄、娯楽施設のようなものはないという理由もあるそうですが、電気が止まる、水が止まる、といったことが日常茶飯事であり、あれがない、これがないということも常識になるため、そんなちょっとしたことでもオンとオフの切り替えは十分できるそうです。

 

「普段、すごく集中している環境なので、ちょっとしたそんな時間も貴重で、お茶をゆっくり飲むだけでも満足しちゃいますね。あと、宿舎の近くに仏塔のある小高い場所があるのですが、景色がとても綺麗です。車の音も聞こえてこず、本当に静かな時間を過ごせます。そこで風にあたりながらふっと一息つくのもお気に入りでした。これは日本では味わえない贅沢な時間ですね」 

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宿舎の近くの見晴らしの良い場所で現地の子どもたちと触れ合う。そんな些細な休日がリフレッシュになる

 

非常にシンプルなライフスタイルにならざるをえない環境である上、活動拠点のワチェ村ではお茶一杯約15円、外食約50円といったように物価が安いです。

光熱費や食費のために毎月100ドルの生活費をジャパンハートに収めますが、栗木さんの場合は航空券や海外保険料なども含めて、半年間で約3,000ドル(約30万円弱)の生活費で済んだそうです。

 

学ぶ姿勢を大切に

最後に、海外での医療活動、それもボランティアという道に興味がある方に伝えたいことを聞いてみました。

 

「迷うのはもったいないですね。行ったら必ず得るものはあると思います。私自身、もともと興味があったわけではなく、ちょっとしたきっかけで行ったわけですが、それでも十分感じられるものがありました。国際医療に興味がある方は尚更行って欲しいと思います」

 

その一方、心の準備はとても大事だとも栗木さんは言います。

 

「何かをしてあげるために行くというスタンスは心のおごりだと思います。自分自身それをすごく実感しました。現地で働いてみると、患者さんからも、ミャンマー人看護師からも、得るものが本当に多かったです。学ばせてもらうという気持ちはとても大事だと思います」

 

ボランティアと言ってもスタンスも環境もさまざまです。栗木さんが言われたように、現地の人に何かを提供するだけでなく、自分自身が成長するために行く、というのも一つのスタンスかと思います。

自分の成長に向けて前向きに取り組むことが、言葉が通じなくても人対人のしっかりした信頼関係にも繋がるのかもしれません。

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お寺で研修事業リーダーの武内さんと。定期的に日本のスタッフが研修生のサポートに訪れます

 

 ■前編はこちら■

 

 


■取材協力

特定非営利活動法人 ジャパンハート

2004年に代表の吉岡秀人医師が設立した国際医療ボランティア団体。今回紹介したミャンマーへの医療支援は国際看護長期研修の一つで、国内のへき地離島への研修も含め1年間のプログラムとなっている。ほかにもカンボジア、ラオスでの医療支援や医療者育成支援など、さまざまな支援活動を行っている。医療者が参加できる活動として、子どもや貧しい人々のために巡回診療や手術を行う、3日~7日程度の休暇で参加が可能な国際医療短期ボランティアなどがある。

 

ジャパンハート公式サイト

国際看護長期研修専用サイト

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