「多くの看護師に特定行為研修を受けてもらいたい」|厚労省担当官インタビュー

【日経メディカル Aナーシングpick up】

 

今年10月、「特定行為に係る看護師の研修制度」がスタートする。4月1日から指定研修機関の指定申請が始まり、研修開始に向け準備が進められつつある。果たして現場の看護師は、本制度とどのように関わっていくことになるのか、厚生労働省の担当官である穴見翠氏(医政局看護課看護サービス推進室看護業務推進専門官)に聞いた。

(聞き手:井田恭子=日経メディカル、文中、敬称略)

 

あなみみどり氏◎2006年厚生労働省入省、2014年から現職。

穴見翠(あなみ・みどり氏)◎2006年厚生労働省入省、2014年から現職。

 

――「特定行為に係る看護師の研修制度」(以下、研修制度)の趣旨を改めて教えてください。

穴見 団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けて、在宅医療などを推進していくため、医師または歯科医師の判断を待たずに、「手順書」により、脱水症状に対する輸液による補正など一定の診療の補助が行える看護師を計画的に養成することが本制度の目的です。

今回、特定行為として規定された38行為(表1)の中には、急性期の医療現場で実施ニーズが高い行為も含まれており、在宅に限らずさまざまな場で特定行為研修を修了した看護師に活躍していただきたいと考えています。

 

表1 特定行為として規定された38行為

病態確認の内容の類似性などを考慮し、21の「特定行為区分」に分類されている。

特定行為として規定された38行為

 

――手順書を用いて特定行為を行う場合には、今回制度化された研修を受けないといけません。そもそも、「手順書」とはどのようなものですか。

穴見 医師または歯科医師が、看護師に診療の補助を行わせるための指示として作成する文書のことで、

  1. (1)当該手順書に係る特定行為の対象となる患者、
  2. (2)看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲、
  3. (3)診療の補助の内容、
  4. (4)特定行為を行う時に確認すべき事項、
  5. (5)医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制、
  6. (6)特定行為を行った後の医師または歯科医師に対する報告の方法

――の6項目が記載事項として盛り込まれたものです(表2)。

 

表2 「直接動脈穿刺による採血」に係る手順書のイメージ

看護師に診療の補助を行わせるための手順書

 

手順書は、個々の患者の状態に応じてその都度作成するのではなく、あらかじめ各医療現場において、医師または歯科医師が、必要に応じて看護師などと連携しながら作成することを想定しています。

 

「直接動脈穿刺による採血」を例に挙げれば(表2)、

(1)として、「呼吸状態の変化に伴い迅速な対応が必要となり得る患者」など実施を念頭に置く患者の一般的な状態を、

(2)として、SPO2や呼吸状態の悪化などどのような状態になった場合に特定行為を行うか

など、各項目に関し事前に手順書の記載事項について取り決め、手順書にまとめます。

 

手順書により特定行為を行う場合には、医師または歯科医師が、対象となる患者と、特定行為を実施する看護師を特定し、その上で、当該看護師に対し、薬剤に関連する行為であればその処方内容、どの手順書を用いるのかなどを指示することになります。

 

手順書の記載事項の具体的な内容は、患者の状態や看護師の能力などに応じて各医療現場で検討していただきたいと思います。もちろん、手順書の運用の前提として、どの特定行為をどのような状況下で、研修を修了した看護師が実施するのか、医療機関や介護施設、訪問看護ステーションなど組織ごとに方針を決める必要もあります。

 

――研修はどこで受けられるのですか。

穴見 特定行為研修は厚労省が定める指定研修機関で行われます。

特定行為研修を行おうとする機関等からの指定の申請については、4月1日から受け付けています。3月末に開催した指定申請に関する説明会には、大学院などの教育機関、医療関連団体、病院関係者など多数の参加がありました(写真)。

特定行為研修の運用は、例えば、病院団体などが指定研修機関となって関連病院の看護師を対象に研修を実施したり、大学院のカリキュラムに本研修制度の教育内容を組み込むなど、さまざまな形が想定されます。

 

写真 3月末に厚生労働省が開催した指定申請に関する説明会の様子

特定行為研修を実施を検討している機関の担当者らが多数訪れ、関心の高さが伺えた。

 

表1の通り、38行為は病態確認の内容の類似性や行為が実施される医療現場のニーズなどを考慮し、21の「特定行為区分」に分類されています。

 

特定行為研修は、1つの特定行為区分を最小単位として実施されますが、2つ以上の特定行為区分にかかる研修を組み合わせて提供する指定研修機関も出てくると想定しています。

例えば、糖尿病疾患を持つ患者への特定行為の実施を想定し、「血糖コントロールに係る薬剤投与関連」と「創傷管理関連」を合わせたカリキュラムを作成して研修を行うことも考えられます。その組み合わせ方は、養成したい看護師像などに応じて、各指定研修機関が考えることになります。

 

また、特定行為研修の教育内容は、すべての特定行為区分に共通する「共通科目」と、特定行為区分ごとに異なる「区分別科目」から構成されており(関連記事:厚労省が特定行為研修の省令を公布)、それぞれ講義と、演習または実習により履修します。

実習については、受講者の所属する施設が指定研修機関の協力施設となることで、勤務先で実習することが可能になります。研修修了後のことを考えると、実際に現場で指示することになる医師に指導者になってもらい実習するのがスムーズかもしれませんが、もちろん他施設で実習を受けることもできます。いずれにせよ、どの指定研修機関で研修を受けるかについては、実習まで考えた上で選択されることになるでしょう。

 

なお、指定研修機関の指定に関する審議は毎年2月と8月に医道審議会で行われます。

特定行為研修制度がスタートする今年10月からの特定行為研修の実施を計画している機関は5月31日までに申請し、8月の審議を経て厚労大臣の指定を受ける流れとなります。

来年4月から研修を始める予定であれば、来年2月開催の審議会に向けて申請準備を進めれば間に合います(申請期間:6月1日~11月30日)。指定研修機関の一覧は、今後、厚労省のホームページに掲載する予定です。

 

――想定される研修の受講対象者は。

穴見 法律上の規定はありませんが、チーム医療のキーパーソンとして現場で役割を発揮できる看護師として、概ね3~5年の実務経験を有する看護師の受講を想定し、研修の到達目標の基準などが設けられました。1区分だけのコースなら最短で3カ月ほどで修了できる時間数となっています。

 

研修修了者にどのような活躍を期待するのか、という組織の考え方によって、どのような特定行為区分の研修をどのような看護師に受けさせのるか、という方針も決まってくるでしょう。厚労省としては、患者に適時に適切なケアを提供するため、多くの看護師に受講してもらいたいと考えており、2025年までに二桁万人の研修修了者の養成を見込んでいます。

 

――個々の看護師にとって、研修を受けることになるか否かは職場の方針が大きく影響するわけですね。

穴見 受講者には、手順書により特定行為を実施することを想定して研修を履修して頂くこととなりますので、本制度に対する所属先の方針が固まっていることが必要となるでしょう。所属先からの業務命令で研修を受講する看護師や、自らのスキルアップを目的に研修を受講する看護師が出てくるものと思われます。

 

――制度創設前に行われた養成調査試行事業の参加者は、研修免除になりますか。

穴見 厚生労働省がこれまでに実施した養成調査試行事業に参加した看護師が手順書により特定行為を実施するに当たっては、指定研修機関において、研修を受講する必要があります。

指定研修機関において、自身が履修した科目や時間数が、本研修制度の科目に合致しているか確認を受け、必要な科目について研修を受講していただければ、指定研修機関が評価を行った上で修了証が交付されます。本制度は、施行後5年間の経過措置が設けられているので、その間に特定行為研修をぜひ受講してください。

 

――制度開始に当たり、財政面等で国からの支援はありますか。

穴見 2015年度予算案では、研修機関向け支援事業として、カリキュラム作成や備品購入など設置準備に必要な経費を支援するほか、指定後の運営費の補助も計画しています。

また、指導者育成事業を実施し、実習等を行う施設の指導者に対する講習会を各地域で開催する予定です。1日程度の講習で、制度の趣旨や指導上の留意点などの内容を予定しています。そのほか、研修受講料の負担軽減策としては、「一般教育訓練給付金」や「キャリア形成促進助成金」といった各種制度も活用していただきたいと思います。

 

――現場からは、「診療の補助行為が拡大され、業務が増えるのではないか」との懸念の声も聞かれますが。

穴見 本制度により、診療の補助としての行為が拡大されたのではなく、38の特定行為が診療の補助として明確化されました。

ただし38行為は、現場によっては看護師が日常的に行っている行為とは限らず、手順書を用いて行う場合には、実践的な理解力や思考力、判断力、高度かつ専門的知識および技能が求められます。医療提供体制が変わりつつある中、研修を修了しこれらの能力を身に付けた看護師の活躍の場は、今後着実に広がるものと考えており、制度の普及を推進していきたいと考えています。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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