新生児への正しいチャイルドシート使用方法

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は新生児への正しいチャイルドシート使用方法について解説します。

 

一杉正仁
滋賀医科大学医学部教授

 

 

チャイルドシートの意義

わが国でチャイルドシートとよばれるのは、小児拘束装置(child restraint system:以下CRSと略す)のことである。CRSは自動車が突然に衝突あるいは減速した際に、小児の身体の動きを抑制することで傷害の危険を減らすことを目的とする。

 

世界の多くの国で、小児に対する拘束装置の使用が義務づけられているが、わが国では2000年より6歳未満の乳幼児に対して自動車乗車時にCRSを使用することが法で定められた。

 

CRSは児の体格や年齢別に大きく3つに大別される(年齢や体重は目安の値):①乳児用(新生児~1歳、体重10kg未満)、②幼児用(1~4歳。体重9~18kg)、③学童用(4~10歳、体重15~36kg)。

 

本項では新生児が対象となるため、以下では乳児用のCRSを中心に述べる。

 

乳児では首が据わっておらず、骨格も未発達であるため、集中した加重に耐えることができない。また、腹部や頸部などのやわらかい部分に外力が作用すると、内臓損傷などの重篤な損傷を惹起することがある。そこで、荷重を後頭部から背面の広い部分で受けるのが最も安全と考えられた。

 

それ故に、乳児用CRSでは水平から約45度の角度にして後ろ向きに児を寝かせ、乳児の頭が前かがみにならないように、また気道の開通を妨げないようにも配慮されている。交通事故では前面衝突と追突が多くを占める。したがって、CRSは後ろ向きに装着するのが合理的である。

 

 

目次に戻る

チャイルドシート使用の実態

CRSの使用は法で定められているにもかかわらず、すべての人がこれに従ってはいない。警察庁と日本自動車連盟が2018年に行った調査によると、6歳未満の小児が乗車している自動車のうちCRSが使用されていたのは66.2%であった1)。また1歳未満の乳児では使用率は84.4%であった。

 

このように、CRSの使用率が低い背景には、出生前から出生後における啓発及び指導の不十分さがあげられる。わが国では母親学級や健診などで保護者と接する機会が設けられている。したがって、医療従事者による効果的な介入が望まれる。

 

乳児でCRSが使用されていない例では、保護者が抱っこしていることが圧倒的に多かった。また、使用していても、CRSが適正に使用されている状態では致死率(自動車乗車中の死傷者に占める死者の割合)が0.04%に対し、不適正な使用では1.62%と高かった(2017年)2)

 

衝突時には抱っこでささえきれない大きな外力が加わり、また、正しく装着されていないCRSでは衝突時に大きく変位することがある。したがって、CRSを緩みなく後ろ向きで座席に装着して、適正に使用する必要がある。

 

 

目次に戻る

妊婦・母親への指導

まずは、国の安全基準に適合したCRSを選択する必要がある。安全基準への適合が確認されたCRSには図1のようなマークが表示されている。

 

図1 チャイルドシート適合マーク(国土交通省)

 

さらに国土交通省と自動車事故対策機構では市販のCRSについて前面衝突試験と使用性についての評価試験を行って、その成果を安全性能評価として公表している。これらの結果も参考にしてCRSを選択頂きたい。前項の原理に基づいて、CRSは後部座席に後ろ向きにして緩みなく装着する。前席では、衝突時にエアバックが展開してCRSに衝突する危険がある。

 

新生児が最も早くCRSを使用するのは、出産後の退院時である。したがって、妊娠時からCRSを購入し、使用に向けた準備を行う必要がある。日本小児科学会は、新生児が医療機関から退院して車で移動する場合を想定した指導を行うことを推奨している3)

 

CRS使用に関する指導と実際の使用率を検討した報告によると、出産後の入院期間中の介入のみでは効果が少なく、妊娠中の母親学級と出産後の入院期間中の両方において指導を行うことが効果的であるという4)。出産後には授乳や育児指導に精一杯で、CRSまでに関心が向かないと考えられている。とくに出産後の退院時にCRSを使用しなかった原因として、購入が間に合わなかったことが多いことから4)、妊娠中の母親学級でCRSに関する指導を行い、購入準備を勧める必要がある。

 

そして、CRSを適正に使用すべき指導が必要である。前項で述べたように、CRSが適切に使用されていないことで、児に損傷が生じることがある。川戸らによると、地域の乳幼児救急講習会を利用して、CRSを使用している車両を確認したところ、使用上に不適正な点があったのが75%にものぼったという5)。これら全例で、前後に2cm以上のぐらつきがみられ、さらに全例の19%では5cm以上動く、ぐらぐらの状態であった。

 

保護者の多くはCRSを取り付けることの自信に関して楽観的な傾向が強いが、いざ装着してみると94%に何らかの装着エラーがあるという。したがって、CRSの適正使用を推進することはもちろんのこと、装着状況を確認したうえで正しい情報を具体的にフィードバックすることが理想的である。

 

 

目次に戻る

新生児を乗せて運転する人へ

CRSが適正に使用されていたとしても、車室内侵入が著しい事故や側面衝突などでは児が危険にさらされることがある。車両に回転角度が大きい外力が加わると、児の頭部がCRSの外側に飛び出してC-ピラーと衝突することがある6)。あくまでもCRSは児の動きを抑制することが目的であるので、かかる外力が極めて大きい場合は重篤な損傷を負うことがある。CRSに過信せず、児を守ることを前提とした安全運転をお願いしたい。

 

 

目次に戻る

引用・参考文献

1)警察庁、日本自動車連盟(JAF):チャイルドシート使用状況全国調査、2018
2)警察庁:チャイルドシート関連統計
3)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会:提言 車での安全な移動について―子どもの場合、日本小児科学会雑誌、112:1024~1036、2008
4)鳥飼真由美:新生児期から乳幼児期早期にかけてのチャイルドシート普及への取り組み-産院と小児科医院における指導とその果たす役割、小児保健研究、74:261~266、2015
5)川戸 仁、塚本清江、水野幸治、一杉正仁:地域におけるチャイルドシート適正使用と安全教育への取り組み、チャイルド ヘルス、17: 192~195、2014
6)田中良知、細川成之、松井靖浩、他:カーテンサイドエアバッグが後席チャイルドシート乗員に及ぼす影響、日交通科会誌、17(2): 18~27、2017

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

> Amazonで見る   > 楽天で見る

 

 

[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護知識トップへ