尿失禁、恥骨痛・腰痛

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は尿失禁と恥骨痛・腰痛について解説します。

 

堀田久美
菜桜助産所助産師

 

 

腹圧性尿失禁とは

腹部に力が加わり腹圧が上昇しても骨盤底が正常に機能していると、尿道は閉鎖されて尿が漏出しないが、尿道を支える組織が弛緩することで尿が漏出することをいう。

 

原因

妊娠・分娩による骨盤底筋の損傷や弛緩により腹圧性尿失禁が生じやすくなる。

 

症状

くしゃみなど、急激に腹圧が上昇したことで、不随意に尿が漏れる。

 

日常生活への影響

尿漏れパッドを装着したり、外出を控えるようになり、社会生活への制限と心理的不安が増強する。

 

出産後すぐに発症することもあり、悪露のケアとともに排泄へのケアも加わり生活の快適感が低下しやすくなる。

 

 

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尿失禁に対するケアの実際

産後、症状が治まることもあるが、更年期以降に症状が再発することもあるため、産後早期からの骨盤底筋体操や生活上の注意点について伝えていくことが必要である。尿意切迫感や頻尿、残尿や尿閉などの訴えがある場合には、泌尿器科での精査を勧める。

 

骨盤底筋体操(図1

1仰向けで膝を立てた姿勢になる。

2肛門や腟を頭側に引き上げるように締めて10秒ほどキープする。

3ゆっくりと力を抜いてリラックスする。

 23を10回ほど繰り返す。

4キュッキュッと早いテンポで肛門や腟を締めたり緩めたりを繰り返す。収縮時に殿部や内股に力が入ったり、腹部が膨らんだり、力を抜くときに、腹圧をかけて息んでしまわないように注意する。10回ほど繰り返す。座った姿勢、机に手をついたような前かがみの姿勢、四つん這いで肘をつくなど仰臥位以外の姿勢でも同様に実施する。

 

骨盤底筋体操

1950年代にキーゲル(Kegel)らによって提唱され、産後の腹圧性尿失禁への有用性が報告されている。

 

図1 骨盤底筋体操の一例

骨盤底筋体操の一例

 

生活上の注意

ガードルやコルセットで腹部を極端に圧迫したり、肥満による腹腔内脂肪は、骨盤底に過剰な負担を強いることになる。日々の生活の中で、骨盤底に過剰な負担を与えない生活を心がけることが大切である。

 

また、便秘により排便時に強い腹圧が加わったり、自己流の腹筋運動も同様に注意が必要である。

 

ケアのポイント

骨盤底筋の位置や機能役割を説明し、体操の継続に対する動機付けをすることが大切である!

最近では、骨盤底筋の収縮の自覚を促し、効果的に体操を行うための筋肉の動きを視覚や聴覚で認識させる機器を用いる方法も活用されている(バイオフィードバック法)。

 

 

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恥骨痛・腰痛

原因

胎児の成長によって腹部がせり出すため、前方へ移動した重心のバランスを取るために姿勢が変化する。その際、妊娠初期から分泌されるリラキシンの影響で骨盤が不安定になっているために、仙腸関節部や恥骨に痛みを訴える場合がある。また、分娩による恥骨結合離解、授乳や抱っこによる姿勢の崩れも産後の恥骨痛や腰痛の原因となる。

 

症状

動作時だけではなく、仰臥位で苦痛を訴える場合がある。恥骨離開による恥骨痛では、足を上げることができなかったり、前に歩けない事もあり、後ろ向きにすり足で歩行する褥婦も見られる。

 

日常生活への影響

育児中は、沐浴やオムツ交換など前かがみの姿勢も多く、授乳など児の世話のために痛みがあっても安静にしていることが困難な場合が多い。

 

 

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恥骨痛・腰痛に対するケアの実際

固定

4つ折りにしたさらしや骨盤ベルトなどで左右の大転子~恥骨結合を結ぶラインを固定する(図2)。恥骨痛では、固定をするだけで歩行可能になる場合もある。

 

図2 骨盤ベルトによる骨盤の固定

骨盤ベルトによる骨盤の固定

 

腹直筋離解により不安定になっている場合には、仰臥位の際の腹壁に沿わせてさらしで固定して、腹部が前にせり出してしまわないように支えると動きやすい(図3)。

 

図3 さらしによる腹壁の固定

さらしによる腹壁の固定

 

姿勢の評価と指導

妊娠中に変化した姿勢の影響や児の世話による偏った筋肉の使い方は姿勢を崩し、腰痛だけではなく肩こりの原因にもなるため注意が必要である。

 

前かがみの授乳姿勢や、重心が左右に移動した抱っこをしないように注意する(図4)。

 

図4 不良な姿勢の例

不良な姿勢の例

 

また、姿勢の特徴を伝え、正しい姿勢を意識させる(図5)。

 

図5 正しい姿勢とは

正しい姿勢とは

 

ストレッチ

ストレッチは息を吐きながら、無理のない範囲で行う(図6)。

 

①脊柱の可動性を向上させる体操:四つん這い姿勢となり、おへそを覗き込むように顔を下げて、背中を高く上げながら丸める。次に顔を上げてお腹を下げて、背中を弓なりに反らす。

 

②腸腰筋のストレッチ:背筋を伸ばし、おへそを突き出すように前方に体重を乗せる。

 

ハムストリングのストレッチ:いすに浅く腰かけ、背筋を伸ばす。右膝を直角に曲げ、左脚は前に伸ばし、つま先を立てる。背筋を伸ばしたまま、股関節を曲げるように身体を倒す。

 

図6 恥骨痛・腰痛に対するストレッチ

恥骨痛・腰痛に対するストレッチ
 

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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