乳房トラブル|乳房・乳頭トラブルへの対応①

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は乳房トラブルについて解説します。

 

山下 恵
中部大学生命健康科学部保健看護学科講師

油井友美
元・汐見台病院助産師

 

 

乳房トラブル

乳房トラブルとは、授乳婦の乳房に、強い緊満や硬結・疼痛などを生じた状態のことをいう。ときに、授乳困難となることもある。

 

1乳房うっ積

乳汁を産生するため、主に産褥3 〜4 日頃に生じる、生理的な乳房の緊満状態のことである(図1)。

 

図1 乳房うっ積

乳房うっ積
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産褥3日目の初産婦の乳房。血管が怒張し、乳房全体が緊満している。褥婦は、乳房の緊満感と乳房痛、乳房の熱感を訴え、苦痛を感じている。

 

原因

乳房内への血液・リンパ液の流入と還流のアンバランスから、乳房内圧が上昇し、乳房間質に浮腫が生じることにより出現する。

 

主な症状と特徴

症状:乳房緊満、乳房痛、乳房の熱感、乳頭乳輪・乳房の浮腫
特徴:両側性に生じる。通常、全身性の発熱を伴わない。乳房局所の発赤を伴うこともある。ほとんどは産後1週間以内に症状が改善する。

 

ケア

・産後早期から、適切な授乳姿勢と児の吸啜による制限のない授乳を実施すれば強い乳房うっ積は生じないため、褥婦の苦痛は少ない。
冷罨法、温罨法などのさまざまなケアが行われている。

 

 

留意点

・乳房うっ積は、本来、生理的な緊満であるが、乳房緊満の増強により、問題のある病的緊満へ移行する場合もある。
・乳房緊満、乳頭・乳輪部の浮腫の増強により、適切な吸啜が難しくなる場合もある。
・乳汁産生の過程であるため、搾乳をしても乳汁分泌はほとんどない。

 

乳房に熱感がある場合の体温測定

乳房に熱感がある場合、腋窩での体温測定は、乳房の熱を測定してしまうため、肘窩などで測定するとよい(図2)。

 

図2 肘窩での体温測定

肘窩での体温測定

 

 

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2乳汁うっ滞(うつ乳)

乳汁の排出がうまくいかず、乳腺内に乳汁がとどこおっている状態で、乳汁分泌開始後、徐々に起こる。

 

原因

①乳管の狭窄・閉塞
乳栓形成による乳管の狭窄・閉塞
・乳口部水疱など乳口部に原因がある乳管の狭窄・閉塞
乳腺炎および外科的既往などによる乳管の狭窄・閉塞

②過度な乳汁分泌

 

乳栓

乳頭の扁平上皮や乳汁中の成分(カルシウム、脂質、タンパク質)により形成される。

 

主な症状と特徴

症状:局所的な硬結、圧痛、自発痛、発赤、熱感、乳頭の白斑
特徴:細菌感染を伴わない。片側性または両側性に生じ、好発部位は乳房上外側である。乳管が開通し乳汁が排出されると、症状はすみやかに解消される。

 

ケア

授乳方法の工夫
・患側乳房からの授乳。
・うっ滞箇所に、児の顎がくるポジションで授乳する。
・健側から授乳して射乳反射を促したのち、患側乳房の授乳をする。
搾乳
局所冷罨法
適切な授乳姿勢と頻回授乳(適切な吸着による制限のない授乳の実施)

 

留意点

・乳汁の流れがスムーズでないため、授乳時、児が不機嫌になったり哺乳拒否をしたりする場合もある。
・乳房うっ積から引き続き生じる場合もある。
・乳腺炎に移行する場合もある。

 

 

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3乳腺炎

乳腺炎の好発時期は退院後で、母親自身が乳腺炎の早期発見と初期対応を行えるように、入院中から十分な説明と指導を行う必要がある。

 

①感染性乳腺炎(急性化膿性乳腺炎)

実質性乳腺炎と間質性乳腺炎とに大別される(図3図4)。

 

図3 乳腺炎の分類

乳腺炎の分類

 

図4 実質性乳腺炎と間質性乳腺炎

実質性乳腺炎と間質性乳腺炎

 

好発時期は分娩後2〜3週間だが、授乳期間中は発症する可能性がある。産褥早期に乳頭亀裂があった授乳婦や、乳腺炎の既往がある授乳婦の乳腺炎発症率は、既往がない授乳婦より高い。

 

乳腺炎の確定診断

乳汁を培養し、成分分析を行う。

感染性乳腺炎の原因

起因菌は常在菌であり、母親や医療従事者の手指を介しての感染が多い。手洗いを励行する。

 

実質性乳腺炎:菌が乳管口から上行性に感染し、乳管や乳腺房(乳腺実質)に炎症を生じた状態
間質性乳腺炎:菌が乳頭の損傷部位からリンパ行性・血行性に感染し、乳腺間質に炎症を生じた状態(図5

 

図5 乳腺炎

乳腺炎
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乳腺炎を引き起こしている部位は、赤く限局性に発赤がみられる。

 

膿瘍:感染性乳腺炎が悪化した状態(図6)。局所の発赤・腫脹が著しく、暗紫色を呈することもある。膿瘍形成部位は軟化し、波動がある。乳管とつながると膿様乳汁が排出される。外科的処置が必要である。

 

図6 乳腺炎(膿瘍)

乳腺炎(膿瘍)
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右乳房の上外側に乳腺炎を発症し、一部が膿瘍になり、皮膚は暗紫色を呈している。

 

原因

ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌などの常在菌による感染が原因である。実質性乳腺炎では、乳汁うっ滞が感染の誘因となり得る。

 

主な症状と特徴

症状:限局的な発赤、腫脹、硬結、自発痛、圧痛、熱感、インフルエンザ様の全身的症状(38.5℃以上の発熱、悪寒、身体の痛み)。
特徴:乳房の症状は限局的で、片側性に生じる。好発部位は乳房上外側である。乳房の痛みが強く、全身的症状を伴うため褥婦の苦痛は大きい。

 

ケア

①炎症部分を中心とした乳汁の排出を促す。
②授乳方法の工夫、用手搾乳、制限のない頻回授乳。
③乳房の冷罨法
④医学的治療:薬物療法(乳汁分泌抑制剤、消炎鎮痛薬、抗生物質など)、膿瘍形成時は外科的処置(膿瘍部の穿刺排膿、切開排膿)。

 

乳腺炎時の授乳

従来、授乳を禁止していたが、最近は、授乳を継続してよいという考えが主流になってきている。(1996年CDC最新ガイドラインに準拠した「母体感染に対する予防法と授乳への勧告」より)

 

留意点

・適切な授乳姿勢と吸啜を行い、乳腺炎の原因となる乳頭損傷や乳汁うっ滞を予防することが大切である。
・炎症による乳汁成分の変化により、塩味の強い乳汁になる。
・乳汁成分の変化や乳汁の流れがスムーズでないため、授乳時、児が不機嫌となり、哺乳拒否をする場合もある。
・乳腺炎は乳房の痛みだけでなく、全身的な症状も伴い、授乳婦の苦痛が大変強い。頻回授乳と安静を両立できるような配慮が必要である。

 

②非感染性乳腺炎(うっ滞性乳腺炎)

乳汁うっ滞の状態が長期におよび、細菌感染は起こしていないが、乳汁うっ滞箇所に炎症が生じた状態のことをいう。

 

原因

乳汁うっ滞

 

主な症状と特徴

症状乳汁うっ滞と同様の症状がみられる。炎症により、全身的な軽度の発熱を生じることもある。
特徴:通常、片側性に生じる。

 

ケア・留意点

乳汁うっ滞感染性乳腺炎と同様のケアを行い、留意する。
・乳汁うっ滞を生じない、または早期に解消することが予防となる。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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