子宮復古の観察とケア

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は子宮復古の観察とケアについて解説します。

 

土川 祥
滋賀医科大学医学部看護学科講師

 

 

産褥期とは

産褥期とは、妊娠・分娩に伴う母体の解剖・生理的機能変化が、分娩終了とともに妊娠前の状態に回復する期間のことであり、一般的には生殖器の復古を基準に6~8週間といわれている。

 

産褥期の復古には主に生殖器や全身状態が妊娠前の状態に回復する「退行性変化」と、乳汁分泌など乳腺に起こる「進行性変化」がある。ここでは、退行性変化のなかの子宮復古過程の観察とケアについて述べる。

 

 

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子宮復古の観察

子宮復古とは、妊娠により著しく増大した子宮が分娩直後より急速に収縮し、妊娠前の状態に戻る現象のことである。これは、子宮筋線維の退行性変化と委縮によるものであり、この胎盤娩出後の子宮収縮は、子宮壁血管内の血液を減少させ、子宮壁の血管を圧迫・絞扼することで止血させる。分娩第4期の子宮収縮不良は弛緩出血を起こすこともあり、ショック症状を呈する恐れもあるため、経時的に全身状態と合わせて観察することが重要である。

 

目的

褥婦の基礎情報、妊娠・分娩経過などから子宮復古に影響を及ぼす因子の有無について評価した上で、子宮復古が順調に経過しているか経時的に観察し、異常の早期発見に努める。また、褥婦自身が自分の身体に起こっていることを理解し、子宮復古を促すセルフケアが行えるよう支援する。

 

必要物品

メジャー、産褥用ナプキン、ビニール袋、未滅菌手袋、バスタオルなど掛け物、はかり。

 

手順

1物品準備と環境整備を行う。外陰部を露出することへの配慮として、カーテンを閉めて腹部に掛け物をかける、面会者の立ち位置の調整あるいは一時退室を考慮する。観察中褥婦が寒くないか上半身の掛け物の調整や室温の調整を行う。

 

2褥婦に子宮復古の観察を行うことを説明する。膀胱充満があると子宮底が上昇するため、離床後であれば、必ず観察前に、排尿をすませてもらう。分娩第4期で離床前であれば、最終排尿時間・膀胱充満の有無・尿意の有無の確認を行い、必要時導尿を行う。

 

3腹壁の緊張を緩めてもらうため、ベッド上で仰臥位になり両膝を立ててもらう。

 

4観察者は手袋をはめ、手掌で腹壁に触れ、子宮体部の大きさ、形状、硬さ、子宮底の位置を観察する。帝王切開術後の褥婦の場合、創部に触れないように子宮体部の左右から子宮底の高さや硬さを観察する。子宮収縮良好時は硬式テニスボール程度の硬さであり、硬く、こりこりしているが、収縮不良時は子宮底が不明瞭であり腹壁が柔軟である。

 

子宮底長の測定方法としては、恥骨結合上縁にメジャーの「0」を合わせて子宮底までの長さを計測する方法と褥婦の臍(もしくは恥骨結合上縁)から観察者の手指幅で計測する方法がある。どちらの場合も子宮底確認後測定時には膝を伸ばしてもらう(図1)。

 

 

図1 子宮底長の測定方法

子宮底長の測定方法

 

この時、分娩第4期やその後も必要時産褥ショーツを外して外陰部からの出血の持続の有無や血色、血塊の有無、裂傷部位の状態も併せて観察する(表1図2)。

 

表1 分娩後の出血の鑑別

分娩後の出血の鑑別

(北川眞理子、内山和美編:今日の助産−マタニティサイクルの助産診断・実践課程、改訂第3版、南江堂、2016、横尾京子:助産師基礎教育テキスト2015年版、第6巻、産褥期のケア/新生児期・乳幼児期のケア、日本看護協会出版会、2015をもとに作成)

 

図2 悪露

悪露

(左から分娩後2時間、産褥1日目、産褥4日目)

 

測定時に正常な子宮復古過程を念頭に置きながら、観察・アセスメントを行う(図3表2)。

 

 

図3 子宮復古過程

子宮復古過程

 

表2 産褥期の子宮底長、悪露の変化

産褥期の子宮底長、悪露の変化

(北川眞理子、内山和美編:今日の助産−マタニティサイクルの助産診断・実践課程、改訂第3版、南江堂、2016、横尾京子:助産師基礎教育テキスト2015年版、第6巻、産褥期のケア/新生児期・乳幼児期のケア、日本看護協会出版会、2015、立岡弓子:新訂版周産期ケアマニュアル、第2版、サイオ出版、2015、荒木勤:最新産科学正常編、文光堂、2016、小林康江ら:ナーシンググラフィカ母性看護学②、母性看護の実践、メディカ出版、2019をもとに作成)

 

5子宮底がやわらかい場合、収縮を促すため輪状マッサージを行う。マッサージをしている間に子宮収縮が変化するか触診する。

 

6当てていたナプキンを交換し、出血量を計測する。このとき、悪露の色、臭気、血塊などを観察する。

 

分娩時出血と母体管理

産後の分娩時出血が経腟分娩で500mL、帝王切開で1000mLを超えた場合は産科危機的出血を考慮し、原因検索・治療を行うことが安全な母体管理につながる1)。分娩直後から分娩第4期の2時間は経時的に計測し、記録をし、チームの医療者誰もが出血量やバイタルサイン等を把握できるようにしておく必要がある。

 

観察のポイント

バイタルサインの測定、とくにショックインデックス(SI:shock index)値に注意する。また、数値だけではなく、後陣痛の有無、顔色、疲労感の有無、意識状態、気分不良の有無も注意する。

 

ショックインデックス

SI= 心拍数/収縮期血圧で求められる。産科ではSI:1は約1リットル、SI:1.5は約2.5リットルの出血量と推測されている2)。SI =1以上の場合、分娩時異常出血とみなし、「産科危機的出血への対応指針2017」のアルゴリズムを参考に対応していく。助産師・看護師、産科医、輸血管理部門など医療者はチームとして各々の役割を果たす必要があるため、緊急時の対応も理解しておく必要がある。

 

・褥婦の基礎情報の収集を行う。年齢、妊娠歴、分娩歴、合併症の有無、子宮の形態的異常・位置異常の有無、分娩様式、分娩所要時間、分娩時出血量、児の体重、胎児付属物の量、大きさなど分娩時だけでなく、妊娠前からの情報も重要である。

 

・離床後は、授乳状況(早期授乳、頻回授乳の有無)、排泄状況、食事状況、過度の安静もしくは過度の活動、精神的ストレスの状態などに生活についても確認する。

 

対象者の情報収集の大切さ

帝王切開後の子宮底長や悪露の色調変化は経腟分娩と比較し、遅く緩やかであるという報告もある3)。分娩様式や単胎、多胎など対象者の情報収集は大切である。

 

 

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子宮復古促進のためのケア

輪状マッサージ:分娩第4期など分娩直後の子宮収縮不全防止に有効であるのが、子宮底部の輪状マッサージである(図4)。これは手を輪状に動かしてマッサージをすることで子宮筋を刺激し、子宮収縮を促進する。強く圧迫して子宮下垂を起こさないよう注意する。褥婦自身に子宮底に触れてもらい、子宮収縮の必要性について説明し、褥婦自身も注意してマッサージをするよう促す。

 

図4 輪状マッサージ

輪状マッサージ

 

冷罨法:アイスノンなどによる冷罨法を行うと子宮収縮が促進される。離床後は固定が困難なため主に胎盤娩出直後から離床前までに行うことが多い。現在、十分なエビデンスがないと報告されている4)が、臨床では多く実施されている。

 

定期的な排泄:100mL尿の貯留があると子宮底が1cm上昇するといわれており、排尿・排便は離床後から定期的に促し、膀胱・直腸充満による子宮収縮不全を予防する。

 

・早期離床:早期離床によって、悪露の排泄が促進され子宮収縮不全を予防する。

 

積極的な乳頭刺激:早期授乳と頻回授乳はオキシトシンの分泌を促し、子宮収縮を促進する。

 

子宮収縮剤予薬:医師の指示の元、必要時子宮収縮剤の予薬を行う。

 

胎盤の観察:後陣痛が過度である場合、胎盤・卵膜の欠損がないか、血塊の有無がないか再確認し、必要時医師へ報告する。

 

抗菌剤予薬:医師の指示の元、必要時感染予防のための抗菌薬の予薬を行う。

 

 

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子宮復古不全

子宮復古不全は子宮が妊娠前の状態に戻る過程がスムーズに進まず、復古が不十分となっている状態のことである。とくに分娩直後の子宮復古不全により弛緩出血をきたし、危機的出血へとつながるため、子宮復古不全のリスク因子と、対象者の情報を合わせて褥婦の状態をアセスメントし、子宮復古促進するよう看護していく。

 

症状:子宮底が柔軟、子宮底長が高く、産褥日数と比べて大きい。産褥2週間以上続く赤色悪露が持続する。子宮内膜炎などの感染症を併発し、悪臭のある悪露、子宮の圧痛、分娩後24時間以降の37.5℃以上の発熱などを呈する。

 

リスク因子とケア:子宮復古不全のリスク因子について以下の表3を参考に褥婦のデータと合わせてアセスメントを行い、ケアを実施する。子宮復古不全が生じている場合、こまめな観察を行い、経時的に記録し、適時報告をし、褥婦へのケアを実施する。

 

表3 子宮復古不全のリスク因子

子宮復古不全のリスク因子

(北川眞理子、内山和美編:今日の助産−マタニティサイクルの助産診断・実践課程、改訂第3版、南江堂、2016、横尾京子:助産師基礎教育テキスト2015年版、第6巻、産褥期のケア/新生児期・乳幼児期のケア、日本看護協会出版会、2015、立岡弓子:新訂版周産期ケアマニュアル、第2版、サイオ出版、2015、荒木勤:最新産科学正常編、文光堂、2016、小林康江ら:ナーシンググラフィカ母性看護学②、母性看護の実践、メディカ出版、2019をもとに作成)

 

 

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引用・参考文献

引用文献
1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン―産科編2017より2017年11月1日検索
2)日本産科婦人科学会ほか:産科危機的出血への対応指針2017より2017年11月1日検索
3)下見千恵ほか:産褥早期における帝王切開後の子宮復古―アセスメント指標のための基礎データ、日本助産学会誌、30(2):333~341、2016
4)前田菜穂子ほか:分娩後出血のリスク因子および予防的介入に関する文献レビュー、日本助産学会誌、27(1):4~15、2013

参考文献
1)横尾京子:助産師基礎教育テキスト2015年版、第6巻、産褥期のケア/新生児期・乳幼児期のケア、日本看護協会出版会、2015
2)北川眞理子、内山和美編:今日の助産-マタニティサイクルの助産診断・実践課程、改訂第3版、南江堂、2016
3)荒木勤:最新産科学正常編、文光堂、2016
4)立岡弓子:新訂版周産期ケアマニュアル、第2版、サイオ出版、2015
5)牧野真太郎:「産科危機的出血への対応指針2017」改訂ポイントと検査体制、検査と技術、46(10):1133~1137、2018
6)成瀬勝彦:産婦人科外来パーフェクトガイド―いまのトレンドを逃さずチェック!、疾患編③、周産期子宮復古不全、臨床婦人科産科、72(4):242~246、2018
7)小林康江ら:ナーシンググラフィカ母性看護学②、母性看護の実践、メディカ出版、2019
8)Soltani, H., Hutchon, D.R., & Poulose, TA.: Timing of prophylactic uterotonics for the third stage of labour after vaginal birth.Cochrane Database Syst Rev. 2010Aug 4;(8):CD006173. doi: 10.1002/14651858.CD006173. pub2, 2010

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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