分娩に伴う処置

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は分娩に伴う処置について解説します。

 

中井抄子
滋賀医科大学医学部看護学科助教

 

 

導尿

分娩進行中は下降した児頭による尿道・膀胱の圧迫により、尿意があっても自己にて排尿できない場合や、膀胱神経麻痺が起こり自己にて排尿を行うことができない場合、産婦が痛みで移動できず自然排尿を行えない場合がある。また、膀胱充満は陣痛を弱め胎児の下降を妨げることからも、導尿は分娩期に行う処置として用いられている。

 

目的

排尿障害を認めた場合の排尿の援助。
・膀胱充満による分娩進行の妨げを防ぐ。

 

実施のタイミング

明らかに視診・触診で膀胱に尿がたまっていることが確認できた場合に、必要と判断して実施する。

 

必要物品

消毒用綿球2~3個、ネラトンカテーテル(10~14Fr)、膿盆、潤滑剤、滅菌手袋、防水シーツ、尿器(尿を受けるもの)。(図1

 

図1 導尿時の必要物品

導尿時の必要物品

 

手順

産婦の体位を整え、防水シーツを腰の下に敷く。必要物品が揃っていることを確認し、使いやすい位置に置く。

滅菌手袋を装着し、尿道を傷つけないようにカテーテル先端には潤滑剤を塗布する。

利き手で消毒綿球を持ち、逆の手で小陰唇図2)を広げ、尿道口を確認する。

 

図2 女性生殖器

女性生殖器
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産婦に腹圧をかけないように口呼吸を指導しながら、カテーテルの末端を尿器に入れた状態で、カテーテル挿入を行う。

カテーテルを尿道口から下方に向かって垂直に挿入する。

抵抗を感じたら水平に4~6cm程度進める。尿が流出すれば、そのままの姿勢を保持する。排尿しにくい場合、カテーテル先端部が膀胱壁に密着して尿が流出しなくなるので、空間をつくるように下腹部を圧迫し、膀胱を空にする。また、恥骨結合上を用手的に圧迫し、カテーテルをさらに1~2cm進める。カテーテルを10cm挿入しても流出しない場合は、膀胱壁を損傷する恐れがあるため、それ以上は進めない。

排尿が終了したら、産婦に口呼吸を促し、カテーテルを抜去する。

 

膀胱留置カテーテルの留置

緊急帝王切開術時や分娩第4期に多量出血を認めた場合には、膀胱留置カテーテルを留置する。

尿道口を消毒する。

導尿時間、尿量や尿の色を記録する。

 

POINT

・カテーテル挿入は、発作時を避け陣痛間歇時に行う。
・尿道口周辺の組織は児頭の下降・圧迫により浮腫状態になっており、損傷・感染に注意する。
・尿道は児頭で圧迫されているので、カテーテル挿入時は間歇時に素早く、児頭を軽く押し上げると挿入しやすい。
・導尿中に陣痛が生じた場合には、そのままの状態で待機し、終了後に再開する。産婦の体動により尿がこぼれないよう注意する。

 

 

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外陰部消毒・洗浄

母児の感染予防を目的に、分娩時には外陰部の消毒が行われてきた。しかし、近年では母児の感染や会陰の傷の治癒について消毒の効果があるという根拠はないことが明らかとなり、分娩時に外陰部は温かい水道水(微温湯)で洗浄することが勧められている。

 

必要物品

温水(滅菌水)、消毒液(0.05%程度のベンザルコニウム液もしくは0.1%程度のヒビテン液など)、イルリガードル(ピッチャー)、滅菌綿花、滅菌手袋、膿盆(水受け)。

 

手順

<消毒法>
清潔野作成後に消毒綿球や綿花で行う。

産婦に砕石位をとらせ、洗浄部分を露出する。

滅菌手袋を装着し、滅菌綿花を持つ。

恥丘を下から上に左右に清拭する(図3:①)。

小陰唇中央を上から下に清拭する(図3:②)。

左右大陰唇およびその周囲を上から下に清拭する(図3:③)。

左右大腿内部を内から外へ清拭する(図3:④)。

殿部は半円を描くように内から外へ清拭する(図3:⑤)。

会陰部は手を左右に動かし、上から下に清拭する(図3:⑥)。

肛門を円を描くように清拭する(図3:⑦)。

 

図3 外陰部の消毒の手順

外陰部の消毒の手順

消毒法の原則は、「内側から外側へ」「上から下へ」「前から後ろへ」である

 

<洗浄法>
清潔野作成前に微温湯で行う。

消毒清拭法と同様に、の順に洗浄を行う。ただし、洗浄法では微温湯が流れる方向へ洗浄するため、図4の①と④の方向が「外から内」となり消毒法と異なる。

 

図4 外陰部の洗浄の手順

外陰部の洗浄の手順

微温湯が流れる方向へ洗浄するため、消毒法の手順①と④の方向が異なり、「外側から内側」となる

 

POINT

・綿球(綿花)は部位ごとに清拭後、破棄し、取り替える。
・膣前庭と会陰部が最も清潔になるようにし、肛門を最後に清拭・洗浄する。

 

 

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人工破膜

破水は、子宮口全開大前後に自然に生じることが多いが、排臨や発露の状態まで卵膜が破れずに胎胞が残ることがある。このような場合は、陣痛発作時に胎胞の緊張を確認した上で、児頭を傷つけないようにコッヘル鉗子にて卵膜を破り、人工的に破水させる。

 

目的

・被膜児分娩の回避
被膜児分娩とは、胎児が卵膜に覆われたままの状態で胎盤とともに娩出されることをいう。未破水で出生すると、出生時に児が呼吸ができず、新生児仮死をまねくことがある。

 

・陣痛誘発・陣痛促進
児頭によって直接子宮下部への圧迫が加わることにより頸管周囲神経節が刺激され、子宮収縮が増強される。また、破膜によりプロスタグランジン合成が促進され、陣痛を強める働きをする。さらに羊水が流出するため、子宮容積が減少することで陣痛が促進される。

 

・内測計の装着
内測計を使用することで、子宮内圧と胎児心拍数をより正確に測定することができる。

 

実施の条件

・子宮口全開大またはそれに近い状態であること(促進目的であれば、子宮口開大度は5cm以上とする場合もあるが、医師の判断と実施にかぎる)。
・児頭が骨盤内に下降していること(固定:ステーション2より児頭が下降)。
・四肢の下垂と臍帯下垂がないこと。
・児頭骨盤不均衡(CPD:cephalopelvic disproportion)でないこと(すなわち、経腟分娩が可能であること)。

 

子宮内感染

破水して24時間以上経つと膣内の細菌が子宮内に侵入して胎児に感染症を引き起こす可能性が高まる。

 

観察項目

羊水の量と性状、臍帯下垂・臍帯脱出の有無、胎児心音の変化。

 

羊水流出による臍帯圧迫

羊水量が減ると子宮腔内が狭くなり、臍帯が圧迫されて胎児心拍異常が出現することがある。

臍帯脱出・臍帯下垂

内診時に直接、拍動性の索状物を触れる。臍帯脱出が起こった場合、急速遂娩を行っても児は重篤な状態となりやすい。臍帯下垂は全分娩例の0.2~0.5%、臍帯脱出は全分娩例の0.1~0.4%に認める。

 

必要物品

コッヘル(ペアン)、綿花(ガーゼ)、膿盆、滅菌手袋、イソジンクリームまたはイソジン綿球、ディスポーザブル手袋(図5)。

 

図5 人工被膜時の必要物品

人工被膜時の必要物品

 

手順

人工破膜は基本的に分娩室で行い、破膜前に分娩監視装置を装着し、胎児の健康状態を評価する。

内診により胎児先進部およびその周囲に臍帯が触れないことを確認する。

陣痛発作時に、利き手でない内診指を陰裂下側に静かに挿入し、十分な視野をつくる。

利き手でないほうの手を用いガーゼで外陰部を軽く押さえ、利き手の内診指にコッヘルの先端を沿わせて保持する(図6)。

 

図6 人工被膜

人工被膜

 

陣痛間歇時または、胎胞形成の緊張がやや緩んだところで、大泉門を避け、コッヘルなどの先端を用いて卵膜を擦過する。

破膜部位を示指と中指で開大する。

臍帯脱出(四肢の脱出)の有無と児頭の骨盤腔への嵌入の程度を確認する。

羊水の色や性状、胎児心拍異常の有無を観察し、胎児のwell-beingを確認する。

破水後の陣痛の状態を観察する。

 

POINT

・児頭や産道の損傷を防ぐために、必ずコッヘルの凸部に示指を添える。
・胎胞の緊張がピークの際に実施すると、羊水が飛散するため注意する。

 

人工破膜の有用性(産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 CQ404より CQ404より)

Column 医師イラスト

人工破膜は分娩時間短縮効果を期待されて長年伝統的に行われてきた。しかし、2013年の報告によると、「人工破膜は分娩第1期を有意に短縮させることはなく、逆に、有意でないものの、帝王切開分娩率上昇と関連があったことにより、ルーチンに人工破膜することは勧められない」と結論された。しかし、人工破膜を実施する効果的なタイミングの可能性があることが示唆されており(産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020)、臨床において医師の慎重な判断のもと、分娩第2期の微弱陣痛への管理・治療として人工破膜を行うことがある。

 

 

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そのほかの処置

1血管確保

児娩出の時期が近づいてきたら、産後の出血を含む緊急時の対応を目的に血管の確保を行う。産後出血に対し輸血を行う可能性があるため、太めの針(18G以上)の留置針を使用する。

 

2浣腸

分娩第1期に行われる浣腸は、娩出時の排便による汚染の防止や分娩所要時間を短くする目的で行われてきた。しかし、その根拠は示されておらず、現在では浣腸は不快な処置であり、陣痛促進を目的とした実施は推奨されない1)。ただし、産婦自身が便秘のために希望する場合に実施することは問題ない。

 

3外陰部剃毛

会陰切開が一般的に行われるようになった頃から、創部の感染防止や、会陰切開や縫合を行いやすくするため、会陰切開に付随する処置として行われるようになった(図7)。

 

図7 外陰部剃毛

外陰部剃毛
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しかし、剃毛をしていない女性のほうが有意にグラム陰性菌が少ないという報告や産婦の発熱に有意な差はなかったことから、1996年WHO の『Care in Normal Birth:A practical guide』においては、Category B;「明らかに効果がないので止めるべき処置」と位置づけられており、現在では分娩前の外陰部剃毛を実施する施設は減少している。

 

4用手的子宮底圧迫法

用手的子宮底圧迫法(クリステレル胎児圧出法)は急速遂娩法の1つとして、医師により実施される処置である。娩出力補完として有効である場合があるがエビデンスはなく、胎盤循環の悪化、子宮破裂、母体内臓破裂、母体肋骨骨折などの有害事象も報告されていることから、正常な経腟分娩の場合は行うべきではないとされるため、実施の際には慎重な判断を要する。

 

5会陰切開

会陰裂傷の重度化の予防や急速遂娩を目的に医師により実施される処置である。「正常な経腟分娩ではルーチンの会陰切開はすべきではない。会陰切開は、器械分娩や胎児の異常など臨床上必要な場合のみ実施すべきである」と推奨されている。

 

分娩直後の消毒と観察

会陰裂傷・切開部からの感染を予防するために、消毒を優しく行う。産褥期の会陰部の観察の際には清浄綿を用いて優しく清拭する。血腫や縫合部の離開・感染徴候などに注意して観察する(図8)。

 

図8 会陰裂傷・切開部の消毒

会陰裂傷・切開部の消毒

 

6硬膜外麻酔

産痛緩和を目的に医師により実施される処置である。「硬膜外麻酔は他の産痛緩和法よりも産痛緩和効果は高い。しかし、分娩第2期遷延、オキシトシン使用頻度の増加、器械的分娩の増加、胎児機能不全による帝王切開分娩のリスク等を高める可能性がある。したがって、硬膜外麻酔のメリットとデメリットについて、産婦が理解したうえで、産婦が選択できるようにする」との推奨が提示されている3)

 

 

硬膜外無痛分娩

疼痛による血管の収縮による妊娠高血圧症候群の悪化や、心臓や肺に負担をかけたくない産婦へ医学的な理由を適応として硬膜外無痛分娩が勧められる場合がある。硬膜外無痛分娩を受けた産婦は分娩進行中に消費する酸素の量が少ないことが明らかとなっている。

 

 

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引用・参考文献

1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020、2018年12月24日検索
2)仁志田博司:新生児学入門、第5版、p 312~314、医学書院、2018
3)日本助産学会:エビデンスに基づく助産ガイドライン―妊娠期・分娩期・産褥期 2020、2022年3月22日検索

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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