産痛へのケア

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は産痛へのケアについて解説します。

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

産痛とは

産痛とは、分娩時の子宮収縮、軟産道の伸展と開大、骨盤壁や骨盤底の圧迫、会陰の伸展などによって生じる疼痛のことをいう。

 

産痛の原因

・子宮頸管の開大と伸展
・子宮収縮
・腟と会陰部の伸展
・骨格筋けいれん
・膀胱・直腸の伸展と圧迫
・子宮を支持する靭帯の伸展

 

産痛の伝達機序と神経支配

フランケンホイゼル神経叢

子宮頸部の後ろ側で、内子宮口付近の神経叢である(図1)。

 

図1 産痛の伝達機序と神経支配

産痛の伝達機序と神経支配

(東野妙子、村本淳子、石原昌編著:母性看護学1. 妊娠・分娩、p.174、医歯薬出版、1994改変)

 

分娩第1期:子宮体筋の子宮収縮による疼痛、子宮頸管開大の疼痛、腟上方の疼痛を伝道している。

 

陰部神経叢

仙骨神経叢から出ている脊髄神経であり、全会陰部と腟下部1/3を支配している。

 

分娩進行に伴う産痛の変化

①分娩第1期の疼痛

子宮上部の平滑筋が収縮して子宮頸管の開大・子宮下部の拡張が生じることで、皮膚や腰部、仙骨が刺激される(図2)。

 

図2 分娩第1期の疼痛

分娩第1期の疼痛

下腹部、腰部、仙骨部に痛みが現れる。

 

②分娩第2期の疼痛

子宮頸管が最大に開大したことにより、子宮収縮や子宮頸管の伸展による痛みの程度はやや軽くなる。しかし、子宮体の下部を広げる痛みは残ったままになる。分娩第1期にみられた痛みに加え、児頭の下降に伴う会陰や産道の伸展による痛みが生じる。とくに会陰に生じる灼熱感が特徴的である(図3)。

 

図3 分娩第2期の疼痛

分娩第2期の疼痛

外子宮口、産道、会陰の痛みが現れる。大腿部の痛みは、第2期に入って初めて生じる痛みである。

 

 

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ケアの実際

産痛緩和のための身体的ケアには、感覚刺激によるゲートコントロール理論を応用して行う(圧迫法、マッサージ、足浴、罨法)方法や、補完医療としてアロマケアが行われている。

 

1ゲートコントロール理論

1965年に米国のMelzack により発表された痛みの抑制機構に関する理論(図4)。

 

図4 ゲートコントロール理論

ゲートコントロール理論

 

痛みを伝える脊椎神経には2つの回路があり、痛覚からの痛みを伝える経路(細い神経線維)と、その他の刺激を伝える経路(太い神経線維)である。子宮収縮に関連する疼痛刺激は細い神経線維を通るが、マッサージをすることで太い神経線維に刺激を送ると、太い神経線維のほうが先に視床下部に伝わり、細い神経線維の痛みの伝導を軽減できるとした。

 

2タッチング、マッサージ、圧迫法、指圧

産婦が痛みを感じる部位に、心地よいと感じる方法を選択する(図5)。陣痛発作時に行い、陣痛間欠時は全身の筋肉が弛緩できるよう、身体の力を抜き、リラックスできるように促す。

 

図5 マッサージ法

●腹部のマッサージ法
マッサージ法

 

●腹部以外のマッサージ法
マッサージ法
マッサージ法

 

圧迫法

圧迫法は子宮収縮が強くなり腹式呼吸ができなくなったときに行うとよい(図6)。産婦の好む部位を確認して行う。努責感への対応には、肛門圧迫法が効果的である。

 

図6 ツボを圧迫する方法

ツボを圧迫する方法

ツボを圧迫する方法

手背側の母指と示指が交わるところを圧迫する(痛みを強めず子宮収縮を強化するツボ)

 

3罨法

温罨法

血液循環がよくなることで、筋緊張が緩和し疼痛に対する感受性が低下する。
・産婦が痛みを感じる部位に温タオルや湯たんぽをあてる(図7)。
・湯の温度が冷めないように適宜交換する。
・三陰交(さんいんこう)に灸(きゅう)をすえることもある。

 

図7 温罨法

温罨法

産婦が痛いところに温罨法をしている

 

冷罨法

冷感で生じる麻痺によって求心性神経の刺激伝達を遅延させる。
・冷たい水で絞ったタオルや保冷剤などを用いる。

 

4足浴

温水を用い、血液循環を促進することで、筋緊張を緩和させる。

①足浴用のバケツやフットバスに、くるぶしの10cm上くらいの深さまで湯を入れる。
②体温の低下を防ぐために足元をタオルなどでおおい、保温する。

 

5アロマセラピー

アロマセラピーは、植物を原料とした精油を用いた自然療法の1つである。香りは臭覚により大辺縁系に働き、心地よい香りは視床下部に伝わり、心身を整える働きをする(図8)。分娩経過中に、アロマセラピーを取り入れることで、リラクセーションや精神的安定、安心感が得られる効果を期待して行う。

・産婦に精油の香りを与え、ゆったりと呼吸するよう促す。
・産婦の呼吸に合わせてマッサージを行うように心がける。

 

図8 精油の投与方法と作用経路

精油の投与方法と作用経路

精油が、香りとともに鼻腔・肺・皮膚などを介して大脳や血液に移行して全身に作用する。

 

産痛時によく使用する精油とその効果、また、陣痛時の痛みへの使用例を表1表2に示す。

 

表1 産痛時によく使用する精油と効果

産痛時によく使用する精油と効果

 

表2 陣痛時の痛みへの使用例

精油の陣痛時の痛みへの使用例

 

精油を選ぶ際の注意

産婦の好みでない香りは、逆にストレスとなるため、好みの香りを確認して使用する。

 

精油の保存方法

・遮光のガラスびんに保存する。
・原材料の正式名称や原産国、抽出部位が明記されている。
・成分分析表が記載されている。
・1滴が0.05~0.06mLのドロッパーがついている。
・肌に塗布する際には、100%天然植物油で1~3%に希釈し、使用前にパッチテストを実施する。

 

手順

1芳香浴

・分娩開始前から、分娩後まで実施できる。
・陣痛室や分娩室で、アロマ噴霧器を用いて香りを漂わせる。
・精油1~2滴をガーゼに滴下し、枕元に置く。

 

2足浴

1.足浴用のバケツに湯を張り、産婦の好む精油を1~2滴入れる。
2.足浴を行いながら、三陰交、足首、内踝のマッサージを行う。

 

3湿布

1.ボウルに熱い湯を入れ、精油を1~2滴入れ、混ぜる。
2.短冊状にたたんでおいたタオルの両端を持ち、湯に浸し、端から絞る。肩や腰部など痛い部位にあてる。
3.温度が下がらないように、あてたタオルの上から乾いたタオルでおおって保温し、冷める前に交換する。

 

4マッサージ

・精油を必ずベースオイルとブレンドして用いる。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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