循環器疾患の患者指導

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は再入院を防ぐための患者指導について解説します。

 

加瀬美樹
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

循環器疾患の患者指導のポイント

循環器疾患の患者さんを再入院させないためには、患者さんに合わせた療養が行えるよう臨機応変に対応します。一度に多くの情報を与えても実践できません。患者さんの生活に必要な情報を伝え支援します。

 

患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの指導を可能にするためには、身体的・精神的・社会的側面や食事、服薬状況の情報収集をていねいに行います。入院前の生活を一緒に振り返り、どこに問題があるのかを知り、実際に指導を実践するときの優先順位を考えていきます。

 

指導前の心構え

アドヒアランスが悪いと決めつけず、療養行動がとれなかった理由を患者さんと一緒に探し出します。

 

再入院を繰り返す患者さんには「あの人は病状理解ができていない」とレッテルを貼り一方的な指導となりがちですが、長年の生活習慣を変えることは簡単ではありません。患者さんが制限を守れないのは、医療者側が患者さんを理解し、個人に合わせた指導を行えていないことが要因である場合があることを忘れないようにしましょう。

 

共通の資材を使用する

再入院を防ぐためには、患者さんが退院後も自分自身の体調をチェックできること、症状増悪時に適切な対処行動をとれるよう教育していくことが重要となります。そのため、教育資材は誰が見てもポイントがわかるよう、各職種が共通して使用できるものを使用します。

 

入院中から「記録をつける」習慣を身につける

退院後に疾病管理ができるように、急性期を脱し症状が安定したら、早期から共通した媒体の記録用紙に、毎日のバイタルサイン体重、胸部症状、浮腫などセルフモニタリング項目を患者さんと一緒にチェックし、記録していきます。退院後の生活をみすえて、入院中から記録をつける習慣を身につけることが重要です。

 

がんばりすぎない指導をする

指導したことをすべて守ってもらうのは無理に近いものです。「これだけは!」ということ、患者さんにとって最低限のことだけ理解してもらえるようにしましょう。

 

 

 

食事療法(目標体重の維持)

肥満は高血圧高血糖、高中性脂肪血症などを引き起こし、心臓血管病の危険因子となります。

 

心疾患の患者さんは、体重増加によって心負荷が増大し、心不全増悪をきたします。規則正しい食生活によって目標体重を維持することが、循環器疾患の再発や増悪の防止となり、患者さんのQOL向上が望めます(表1)。

 

表1目標体重維持の具体例

目標体重維持のための具体例 カロリー制限食 規則正しい食生活

 

体重管理にはBMIを用います
BMI=体重÷(身長×身長)
~18.5   やせ
18.5~24.9 普通
25.0~29.9 肥満1度
30.0~34.9 肥満2度
35.0~39.9 肥満3度
40.0~   肥満4度

 

 

 

塩分制限

心疾患の患者さんは、1日6g以下の減塩が目標となります(表2)。

 

表2減塩のポイント

減塩のポイント 薄味にする調理方法 食べ方 外食時

 

特に高齢者は減塩によって食事量が低下し、栄養状態の悪化をまねくことがあります。栄養士、患者さんと相談しながら調整しましょう

 

塩分の過剰摂取は水分過多を引き起こし、循環血液量を増加させ、血圧の上昇と心負荷を増大させます。塩分1gを摂取すると、200mL程度の水分が血管内に引き込まれます。

 

食品の栄養表示は、食塩だけではなくナトリウム表示になっているため、食塩相当量を求める計算式※1も指導する必要があります。

 

食生活には個人・家族単位での習慣が大きくかかわっており、すぐにその習慣を変えることは困難です。できるだけ入院中に栄養指導を受けるよう提案します。栄養指導はなるべく調理者と一緒に受けてもらいましょう。

 

 

 

水分制限

水分過多は心負荷を増大させ、心不全症状の悪化を引き起こします。

 

患者さんによって水分制限の程度は異なるため、必ず医師へ確認します(表3)。

 

表3水分制限のポイント

水分制限のポイント

 

 

 

日常生活

心疾患をもつ患者さんにとって適度な運動は、再発予防効果やQOL向上にもつながります。

 

運動療法は個々で程度が異なるため、退院前に医師へ確認する必要があります。

 

日常生活では、二重負荷を回避するようにします。具体的には、食事、洗面、入浴、散歩、排泄など2つ以上の労作を同時、または立て続けに行わないようにします。最低でも20~30分は休憩を入れながら行うようにします(表4)。

 

表4日常生活での注意点

日常生活での注意点 入浴 トイレと排便 感染予防 自己検脈 血圧測定 体重測定

 

★1 自己検脈(近日公開)

 

 

 

心肺蘇生方法の説明

患者さんと家族に心肺蘇生方法(AEDの使用方法を含める)を説明します。

 

 

 

心不全患者さんの集団指導

患者さんへの指導は各病棟で統一した内容を提供するために、当院では日本心不全学会から提供されている「心不全手帳」を使用しています。しかし、その手帳を活用して個別に指導するのは、病棟看護師の技量に左右されることや、指導時間にばらつきがあることがわかりました。

 

増加しつつある心不全の患者さんに効率よく、患者さんにとってわかりやすく退院後の生活に生かしてもらえるような指導を行うため、患者さん数人に対して慢性心不全看護認定看護師が中心となり、病棟看護師と一緒に集団指導を行っています(図1)。

 

図1心不全の集団指導の一例

心不全の集団指導の一例

 

集団指導で指導している内容の一部です。血圧測定や自覚症状などの記録は、心不全手帳を使用してできるように指導します

 

 

 


[memo]

  • ※1 ナトリウム表示からの食塩相当量の求め方(上へ戻る
    食塩相当量(g)=ナトリウム(mg)×2.54÷1000

 


文献

  • 1)Antman EM,Cohen M,Bernink PJLM,et al.The TIMI risk score for unstable angina/non-STelevation MI.A method for prognostication and therapeutic decision making.JAMA 2000;284:835-842.
  • 2)池亀俊美企画編集:特集 「おさらい」で看護力UP! 3大疾患 総復習.循環器ナーシング 2015:5(3).
  • 3)内藤博昭医学監修,伊藤文代編:循環器看護ケアマニュアル 第2版.中山書店,東京,2013.
  • 4)百村伸一,鈴木誠編:慢性心不全のあたらしいケアと管理 チーム医療・地域連携・在宅管理・終末期ケアの実践.南江堂,東京,2015.
  • 5)佐藤幸人編著:CIRCULATION Up-to-Date Books 02 スペシャリスト集団になる! 最強! 心不全チーム医療.メディカ出版,大阪,2014.
  • 6)佐藤栄子編著:事例を通してやさしく学ぶ 中範囲理論入門 第2版.日総研出版,愛知,2009.
  • 7)木原康樹,森山美和子,広島大学病院心不全センター 他 編著:心不全ケアチーム構築マニュアル 広島発・チームの作りかたと地域連携の道のり.メディカ出版,大阪,2016.
  • 8)日本心臓リハビリテーション学会:指導士認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.日本心臓リハビリテーション学会事務局,東京,2011.
  • 9)Yancy CW,Jessup M,Bozkurt B,et al.2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines.Circulation 2013;128:e240-e327.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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