ナースのチカラ~私たちにできること 訪問看護物語~【1-2】

前回のお話

緩和ケア中の木元さんに拒否されてしまった花。
先輩看護師の持田さんが訪問し、考えついた木元さんの望みは…

 

前回のお話。持田さんはオピオイドの増量を希望する木元さんの様子を気にかけています。増岡さんの一言、率直な質問を、持田さんは黙って受け止めるのでした。

 

 

訪問看護ステーションに戻り、師長さんを交えて共有をしています。 「東京にいる息子さんにきてもらう!?」 驚きの声に、持田さんは意見を述べます。 「私が思うに、木元さんが望んでいるのは家族との和解です」 すると、馬渕さんたちは「「私の知る限りでは…奥さんや息子さんにDVをしていたような…」「外に女作って家に帰らなかったらしいわよ」「現在 保証人は息子さんですがしぶしぶ引き受けてるくらいだから無理じゃない?」と不安そうな声を上げます。 それには持田さんも、「まぁ…そうですけど…」と言い返す言葉もなさそうです。

 

けれども、持田さんはこう続けます。 「人生の終末を迎え、彼は自分の行いを悔やんでいます。存在と心の痛みを感じていると思うんです。話をしていると痛みの訴えは出ないし、そもそもの痛みの訴えもあいまいです。このままでは要求もエスカレートしていき、オーバードーズになりかねません。」 持田さんが木元さんの心の痛みとそれによるオーバードーズの危険性について言及したことに、花は自分では「思いも寄らなかった」とショックを受けました。他のナースも、それぞれ感じたところがあるようです。しかし…一言「くだらない」という言葉が上がりました。

 

「くだらない」といったのは増岡さんでした。彼女はこう続けます。「好き放題やったツケが回ってきただけじゃない。息子さんいい迷惑だわ、自己満足のために引き合わされたら。看護師ってそこまでやらないとならないの?人として尊敬できない人のためになんでそこまでやるの?バカバカしい!!看護ってそこまでやらなきゃいけないの?と怒りました。それを聞いた持田さんは、「これは息子さんのためと言っても過言ではないわ。」と言いました。

 

早速、持田さんは木元さんの息子さん、木元 忠志(ただし)(42)さんに電話をかけます。「はい、木元です。死にましたか?」第一声に面食らいつつ、「………生きてます」と返事をすると、がっかりした様子で「なぁんだ、看護師さんから電話だからてっきりそうだと思いましたよ」という返事が。それでもめげずに、持田さんは息子さんに、事情を話、お父さんに会いに来てくれないかと頼みました。 しかし結果は…即却下。「取り付く島もなかったわー」と持田さんは机に突っ伏しながら言いました。何と言われたか馬渕さんが尋ねると、「『なんで会いたくないのに会いに行かないとならないんだ』…って言ってたわ」と増岡さんが答えました。

 

「私が思うに2人とも似た性格なのよ…」 持田さんはこう言いますが、馬渕さんは 「どうかなー。親に殴られて育った子は自尊心も低いし、今も苦しんでいる人多いから…会いたくないのならそっとしておくのがいいかも…」と言います。この言葉を受けて、持田さんは「そっか…嫌って言うもんを無理やりはだめよね…」と考えを改めます。さらに、師長さんからも、「そもそも木元さんの気持ちは?息子さんと本当に和解したがって いるの?」と尋ねられます。「それはしたがっているとはっきりは言ってないけれど」 持田さんは訪問のときの木元さんの言葉を思い出します。『息子は俺を嫌ってる』『俺がはなく死ねばいいのにって思ってる』

 

木元さんの言葉を思い出しながら、持田さんは話します。 「会話のはしばしから気になる台詞が出てくるの…」 「そんな不確実なもので?」 増岡さんは鼻で笑いますが、師長さんは力強く言いました。 「確認しましょう。私たちは望みを引き出すのも仕事よ。聞きましょう、患者さんの声を」 このやり取りを見て、花は「望みを聞く」ということについて一人考えます。

 

花は続けて考えます。(残りの人生をより豊かなものにするために、緩和ケアの中で、やっておきたいことはなにかを聞くことがある。たいていは家族を含めて、話しをすすめるので、一緒に考えるのもスムーズだ。木元さんの場合家族があんな状態で持田さんはどう話すんだろう…)と思いました。持田さんは、木元さんに「今日、息子さんと連絡をとってみたんですよ。」と伝えました。

 

少し驚いた様子の木元さんになぜかと尋ねられ、持田さんは今後のことについて話したいことがあったと伝えます。「木元さんがこの先しておきたいことがあるんじゃないかって、私、考えたんです…」 「はぁ…それで…?」 「私は息子さんに会っておきたいんじゃないかなって思ったんです」 木元さんは少し考えたあと、 「会えるかって聞いたら嫌がったろ?」

 

事実、息子さんには即却下されたので、持田さんは返す言葉もなく黙り込みました。 木元さんは続けます。 「俺はいいんだよ、別に…。嫌われてるの知ってるし…。やりたい放題だったしな…。いいんだよ、別に嫌われたまんまで」 すると、後ろで静かにみていた増岡さんが口を開きます。 「私もよく人に嫌われますよ」「私はこの持田さんみたく愛想ないし、 容赦しないから患者さんにNGもらうこともありますが、本音は………」

 

「傷ついてますね………」  ―訪問の帰り道車に乗りながら― 持田さんは夕日を眺めながらつぶやきます。 「夕焼けが今日はキレイね…。私はいつも…こういうキレイな夕焼けを見ると」

 

持田さんは続けます。 「今日の患者さんたちはあと何日 夕焼けが見られるんだろうって思うの。状況によっては明日、なんて人もいる…。ねぇ私…やっぱり木元さんの息子さんに会ってみようと思う」  そして後日、木元さんの息子さんを訪問看護ステーションにお招きするのでした。

【3】に続く

 

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【著者プロフィール】

広田奈都美(ひろた・なつみ) HP

漫画家・看護師。某地方総合病院にて勤務後、漫画家としてデビュー。著書は「僕達のアンナ」(集英社)、「お兄ちゃんがコンプレックス」、「ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ」(秋田書店)他。

 

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